第27話 ご主人様との狩り、その後

「今日も頑張りましょうね、ご主人様!」

「そうだね、頑張ろう!」

などと声を掛け合いながら森の中を歩くこと数時間、ようやく獲物を見つけることができました。

しかし、今回は少し様子が違いました。

何やら様子がおかしいのです。

というのも、こちらを睨みつけているように見えるのですが気のせいでしょうか?

とりあえず弓を構えてみることにします。

狙いを定めて矢を放つと見事に命中しました。

ですが、それでも倒れることなくこちらに向かってくるではありませんか!

こうなったら最後の手段を使うしかありません!

というわけでリリアナに頼んで魔法を使ってもらうことにしました。

彼女が詠唱を始めると同時に私はその場を離れて身を潜めます。

そして、次の瞬間凄まじい閃光と共に轟音が鳴り響きました。

「グギャアアアアアアァッ!!!」

断末魔の叫び声を上げながら消滅していく姿を確認した瞬間、

私達は歓喜の声をあげながらハイタッチを交わしました。

無事に勝利を収めることができた喜びから自然と笑みが溢れてきました。

さて、次は何をしましょうかと考えているうちにふと思いつきました。

せっかくなので今日はとことん狩り尽くそうと思い立ち二人で

手分けしながらどんどん仕留めていきました。

結果、大量の獲物をゲットすることができたわけですが、

ここで一つ問題が起きてしましました。

なんと荷物が一杯になってしまったんです。

困りましたので、これでは持って帰れませんしどうしたものかと

考え込んでいたその時でした。

突如として目の前に巨大な竜が現れたではありませんか!

これには驚きましたが、同時にチャンスだと思い咄嗟に逃げ出しました。

幸いなことに相手は追いかけてこなかったため、どうにか逃げ切ることができました。

「ご主人様、ごめんなさい、私のせいで」

「大丈夫だよ、それより怪我はなかった?」

心配そうな眼差しを向けると、 彼女は笑顔で応えてくれました。

その後、私は彼女と別れてから一人で街を散策していると突然声をかけられました。

振り向くとそこには見知った顔がありました。

それは、以前私が襲われた時に出会った商人さんだったのです。

彼は私に話があると言ってきたのでついて行ってみるとそこは彼の店の中でした。

そこでお茶をご馳走になりながら話を聞いてみると、

なんでも珍しい商品があるということで、どんなものがあるのか興味があったので見せてもらうことにしました。

そうして運ばれてきたのは、一見ただの髪飾りのように見えますが、

よく見ると細かい細工が施されていて、まるで美術品のようでした。

早速手に取って眺めていると、突然目眩のようなものに襲われ、

気がつくと知らない場所に立っていたのです。

そこは見たこともない景色が広がる草原で、遠くには街のようなものが見えました。

どうやらこの場所に飛ばされてしまったようなのです。

途方に暮れていると背後から突然声をかけられ振り返るとそこには一人の男性が立っていたのです。

その人は私のことを知っているようでしたが、私は全く思い出せなかったのです。

困惑する私に構わず一方的に話を進める彼に困惑しつつも話を聞くうちに段々と思い出してきたのです。

そして全てを思い出した時、涙が溢れ出てきて止まらなくなってしまいました。

そんな彼の様子を見て心配した彼が駆け寄ってきてくれたのですが、私は思わず抱き着いてしまいました。

そのまましばらくの間泣き続け、ようやく落ち着いたところで改めて彼の顔を見ることになりました。

その瞬間、私の鼓動は大きく跳ね上がりました。

何故なら目の前にいる男性はどう見ても若い頃の父親そのものだったからだからです。

動揺を隠しきれないまま呆然としていると、不意に名前を呼ばれて我に返りました。

どうやら名前を呼びながら優しく頭を撫でてくれているようですが、

私にはそれが心地よく感じられて思わず目を閉じてしまいました。

やがて手が離れるのを感じた私は名残惜しさを感じつつも目を開けようとしたところで唇に柔らかい感触を感じました。

一瞬何が起こったのかわからず戸惑っていると、口の中に何かが侵入してくるような感覚に襲われ、

驚いて目を開けると彼の顔がすぐ近くにありました。

そこでキスをされているのだと気づいた私は慌てて離れようとしたのですが、

しっかりと抱きしめられてしまっていて身動きが取れずされるがままになってしまいました。

「ちょっと離れて下さい!」

「嫌だよ〜」

と言いながら更に強く抱きしめてきて苦しいくらいです。

(ああ、もうダメだ)

と思った瞬間、意識が遠のいていき目の前が真っ暗になりました。

気が付くとベッドの上に横たわっていました。

辺りを見回すと見覚えのない部屋でしたので戸惑いを覚えつつ

起き上がろうとしたところで違和感に気づきました。

何故か身体が動かないのです。

しかも手足には枷のような物が嵌められていて自由に動かすことができません。

一体何が起きているのか理解できずに混乱していると

部屋の扉が開かれ一人の男性が入ってきて、

こちらを見た瞬間驚いたような表情を見せましたが、すぐに笑顔になり歩み寄ってきました。

「やあ、目が覚めたようだね」

と声をかけてきたので返事をしようとしたのですが、声が出せないことに気づきました。

「ああ、無理しない方がいいよ、喉を痛めてるみたいだし」

そう言って水の入ったコップを差し出してくれたのでありがたくいただくことにしました。

冷たい水が喉を潤してくれてとても心地よかったです。

一息ついたところで再び話しかけられました。

「それで、君はどうしてこんなところに閉じ込められているのかわかるかい?」

そう言われて考えてみましたが思い当たる節はありません。

なので正直に答えることにしました。

そうすると、男性は少し困ったような表情をした後こう言いました。

「そうか、わからないか……実はね、君が街で暴漢に襲われたところを

偶然目撃して助けに入ったんだけど、その時に頭を殴られちゃったみたいでね、

そのせいで記憶が飛んじゃったみたいなんだ」

そう言うと申し訳なさそうに頭を下げてきました。

「本当にすまないと思っているんだが、今の僕にはどうすることもできないんだ」

それを聞いて、この人は悪い人ではないのかもしれないと思いました。

それにこの人のおかげで助かったのも事実ですし、

これ以上責める気にはなれないので許してあげることにしました。

そうするとホッとした様子で胸を撫で下ろしていました。

その様子を見ていると何だか可愛らしく思えてきてしまい、つい微笑んでしまいます。

それを見た彼もつられて笑っていました。

こうして見ていると普通の人と変わらないように思えますが、

やはりどこか違和感を感じてしまいます。

その正体を突き止めるためにもう少し話をしてみることにしたのですが、

その前にまずはここから出る方法を考える必要がありそうです。

そのためにはまず情報が必要だと思った私は彼に質問してみることにしました。

「ここはどこなんですか? あと、あなたは誰ですか?」

そうすると彼は少し考える素振りを見せた後答えを返してくれました。

まず最初にここがどこなのかという問いに対しては、

ここは王都から少し離れた場所にある森の中にある小屋だということを教えてもらいました。

次に自分が誰なのかということについては、名前は教えてくれませんでしたが、

とある女性の奴隷であるということを明かしてくれました。

「私はどうすればご主人様の元へ帰れますか?」

「うーん、そうだなぁ……とりあえず今は無理だと思うよ?

だって君、まだ歩けないでしょ?

だからしばらくはここで安静にしておいた方がいいんじゃないかな?

まあどうしても帰りたいっていうなら止めないけど……」

そこまで言うと黙り込んでしまったかと思うと急に立ち上がり部屋を出て行ってしまいました。

どうしたのかと不思議に思っていると数分後に戻ってきた彼の手の中には何かを持っています。

それをこちらに差し出してきたので受け取って見てみると一冊の本でしたようです。

表紙を見ると何やら文字が書かれているようですが、よくわかりませんでした。

首を傾げながら見つめていると彼が説明してくれました。

その内容によるとこれは魔導書と呼ばれるもので、

魔法の力が込められた書物らしいのです。

使い方次第では非常に強力な武器にもなるようですが、

一度使うとその使用者は二度と元の生活に戻ることはできないと言われているらしく、非常に危険な代物だということです。

(こんなものをどうやって手に入れたんだろう?)

そんなことを考えている間にも話は進んでいきます。

どうやらこの本を使って私を元の状態に戻してくれるつもりのようですが、

果たして上手くいくのでしょうか?

不安を抱きながらも成り行きを見守るしかないと思い黙って従うことにしました。

「じゃあ始めるけど準備はいいかい?」

と言われて頷くと早速呪文を唱え始めます。

そうすると徐々に体が軽くなっていくような感じがしてきて、

それと同時に意識の方もはっきりとしてきます。

そして完全に回復した時にはすっかり元気になっておりました。

(すごい! これが魔法の力なんだ! 

感動しちゃった! でもこれからどうしよう……?

このまま帰ってもいいのかな……?)

などと考えながら悩んでいると彼から声をかけられます。

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