第10話 見知らぬ土地

「え!? ちょっと待ってください! いきなり何をするつもりなんですか!?」

慌てている私に対して、 彼女は妖艶な笑みを浮かべながらこちらを見つめていました。

その表情があまりにも美しくて見とれていると、不意に唇を重ねられてしまったのです。

そして、そのまま舌を入れられてしまい口内を弄ばれてしまいます。

「んっ、んんーっ」

「ふぅ、美味しかったわ、ご馳走様」

ようやく解放された時には、すっかり力が抜けてしまっていました。

それを見た彼女は満足そうに微笑んでいましたが、

ふと何かを思いついたような素振りを見せると、再びキスをしてきました。

今度は舌を入れてこなかったので安心していると、その代わりに私の口の中を舐め回してきたのです。

上顎や下顎、歯茎の裏などを隈なく舐めていきます。

その度にゾクゾクとした感覚が襲ってくるのです。

私は、その感覚に戸惑いながらもそれを受け入れました。

暫くして解放されると、名残惜しそうに糸を引いていました。

それから暫くの間、私と彼女の関係は続きましたが、ある日を境にぱったりと姿を見せなくなったのです。

どうしたのだろうと思って心配していたのですが、数日後、唐突に現れました。

その日は雨が降っていて、傘を差していても濡れてしまう程の大雨でした。

そんな中、ずぶ濡れになりながらやってきた彼女を、私は急いで家に上げます。

着替えを用意して渡すと、彼女は申し訳なさそうにお礼を言って受け取り、お風呂に入りました。

その間、濡れた服を片付けたり食事の準備をしたりして待っていました。

暫くすると、彼女が風呂から出てきたようで、バスタオル一枚巻いただけの格好で出てきてしまったのです。

慌てて目を逸らすと、クスクスと笑っていました。

恥ずかしくなりながらも、風邪を引くわけにはいかないので彼女に服を着るように言いました。

彼女も渋々といった感じで従うと、用意しておいた服に着替えてくれました。

そして、居間の椅子に座ったのを見て、私も向かい側の席に座って様子を見ていました。

雨に濡れて冷えたせいなのか、顔色は良くありませんでしたが体調が悪いというわけではなさそうでした。

取り敢えず安心したところで、本題に入ることにします。

何故急に来なくなってしまったのか気になっていたのですが、それは直ぐに分かりました。

というのも、彼女のお腹が大きく膨らんでいたからです。

それを見て、私は察してしまいました。

恐らく、おめでたなのだろうと。

それを聞いて嬉しくなったと同時に、少し複雑な気持ちにもなりました。

何故なら、この生活も終わりを迎える事になると思ったからです。

しかし、このまま帰る訳にはいきませんし、何より私自身帰りたくありません。

ですので、覚悟を決めて伝える事にしました。

その結果、私達は一緒にいる事になったのです。

最初は不安でしたが、慣れてしまえば気にならなくなりました。

寧ろ楽しいと感じることの方が多くなっていきました。

そんなある時、ある問題が起きてしまったのです。

それは妊娠している彼女のことでした。

食欲がなく、殆ど食べずに痩せ細ってしまっていたんです。

それで心配して尋ねると、どうやら悪阻らしく、そのせいで余計に食べ物を

受け付けられなくなってしまっているのだそうです。

そこで、どうすれば良いのか考えますが、私にはどうしたら良いか分かりませんでした。

悩んでいる間に、彼女はどんどん衰弱していくばかりでした。

このままではいけないと思い、何とかしようと行動に移しました。

「大丈夫だよ、きっと良くなるから頑張ろうね!」

と言って励ましてみたり、優しく抱きしめてあげる事で少しでも気持ちが楽になればと考えて実行してみました。

そうすると、効果があったのか彼女の表情が和らいだ気がしたので続けてみます。

まずは、軽い運動をしてみたらどうかと考え、部屋の中を歩いてみることにしました。

幸い、彼女の部屋は広く、動き回るスペースは十分にあったのでゆっくり歩くくらいなら何も問題はないでしょう。

そうやって少しずつ体力を付けさせていこうと考えたのです。

ですが、そう簡単にはいかず、少し歩いただけで疲れ切ってしまったようで倒れ込んでしまいました。

そんな時、彼女が慌てて駆け寄り、心配そうに覗き込んできます。

私は、それに笑顔で返すと立ち上がり、再度挑戦することにしました。

彼女を守るためにも、自分がしっかりしなければいけないと思ったからです。

そうして、何度も繰り返していくうちに次第に慣れてきて、普通に歩けるようになりました。

それが嬉しくてついはしゃいでしまいますが、それでもまだ完全ではないですし油断は禁物です。

気を引き締めて頑張りましょう。

そう思いながら毎日を過ごしていました。

そんなある日のこと、いつものように彼女と抱き合っていると、突然吐き気に襲われました。

何事かと思っていると、口から血の塊のようなものが出てきて驚きました。

まさか病気にでもなってしまったのかと焦っていると、彼女が落ち着かせるように背中をさすってくれています。

その後、二人で診療所に駆け込むことになりました。

診察してもらうと、医者は私を見て驚いた顔をしていました。

何かあったのでしょうか?

そう思って聞いてみると、実は私の体は病に侵されているのだというのです。

それも、かなり深刻な状態だそうで、一刻も早く治療をしなければ命に関わると言われてしまいました。

しかし、治療法は未だ見つかっていないため、このまま何もしないよりはマシだと思い、

薬だけでも処方して欲しいと頼みました。

そうすると、渋々といった様子でしたが、出してくれることになったので一安心です。

ところが、それを見ていた彼女は、いきなり立ち上がると私の手を掴んで何処かへと連れて行こうとするではありませんか。

私は、何が何だか分からないまま引っ張られていき、気がつけば見知らぬ土地に来ていました。

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