第6話 ジェーナ④

「あのー、そろそろ離してくれませんか?」

私がそうお願いすると、渋々といった様子で解放してくれたのですが、

今度は正面から顔を覗き込まれるように見つめられてしまい恥ずかしくなり俯いてしまいました。

そんな彼女の様子に構わず言葉を続けるガルアレーア。

「ねぇ、キスしてもいいかしら?」

そう言われてしまっては断れなくなるのでした。

(うう、どうしよう)

と思っている間にもどんどん近づいてきていて、とうとう距離がゼロになってしまうのです。

そうして、唇に柔らかいものが触れたと思ったらすぐに離れていってしまいました。

「ジェーナ、好きよ」

と言われながら頭を撫でられるとなんだか心地良くなってきて、思わず目を細めると今度は頬ずりをされてしまいました。

「ああ、幸せだわ」

そう言いながら、何度も口づけしてくるものだからこちらも応えてしまうのです。

そうやってしばらく抱き合っていると、ふとある疑問が湧いてきたので尋ねてみることにしました。

「そういえば、何で私の名前を知っているんですか?」

そう言って首を傾げると、彼女は一瞬きょとんとした後、笑いながら答えてくれました。

「だって、昨日自分で名乗ったじゃない」

それを聞いて昨日の記憶を辿っていくと、確かに名乗っていたような気がします。

(うーん、思い出せない)

頭を抱えて考えていると、彼女は思い出したのかと聞いてきたのですが、

正直言って全然思い出せなかったのです。

ですから、正直に知らないと答えるしかないと思ったのですけれども、

それでも構わないと言うのでこれ以上考えるのは止めにしたのです。

それから数日間、2人で一緒に過ごしてきたわけですが、特に変わった事はありませんでした。

ただ、時々よく分からない感情が湧いてくる事が度々あったのが気がかりではありましたが、

きっと気のせいだと思う事にしたのです。

「ねえ、今日は何をする予定なのかしら?」

不意に聞かれて振り返ると、いつの間にか背後に立っていたらしく驚いた様子を

見せた私にクスクス笑うガルアレーアを見て恥ずかしさのあまり顔を背けてしまいました。

しかし、直ぐにまたこちらに近づいてくる気配を感じたので恐る恐るそちらを

見ると彼女はすぐ側にまで来ていて、耳元に顔を近づけてきます。

そして、息を吹きかけられてしまい変な声が出てしまったところを聞かれてしまい顔から火が出る思いです。

それでも何とか取り繕おうとしますが、それすらもお見通しだったのか更に追い打ちをかけるかのように囁かれます。

その言葉にドキッとして、動揺していると、そっと手を握られてしまいます。

その瞬間、全身が熱を帯びたように熱くなっていきました。

心臓の音がやけにうるさく聞こえ、呼吸も荒くなっていきます。

このままではいけないと思い、離れようとしますが逆に引き寄せられてしまい抜け出せなくなってしまいます。

もうダメだ、このまま身を委ねてしまおうかと諦めかけたその時、

突然ガルアレーアの動きが止まったかと思うと彼女の方から離れていく気配を感じたので、

ホッとすると同時に残念な気持ちになってしまいました。

しかし、これで終わりではなかったのです。

「ふふっ、ジェーナ、下着を見せてよ」

「えっ!?」

突然の言葉に戸惑う間もなく衣服の中に手を差し込まれ、太腿を撫で上げられます。

くすぐったい感覚に身を震わせながらも抵抗しようとしますが、無駄でした。

むしろ逆効果になってしまい余計に激しくなる一方です。

「このまま下着を見せてもらうね」

「やっ、だめっ!」

そう言って抵抗しようとするものの、簡単にあしらわれてしまって動けなくなってしまいます。

その間にも彼女の手は止まらず動き続けていますし、私も限界を迎えようとしていました。

そんな私の様子を見兼ねたのか手を止めてくれたお陰で何とか耐える事ができたのですが、

既に息も絶え絶えになっておりました。

そして、呼吸を整えてから再び挑もうとするも結局失敗に終わり、

最後には泣いて許しを乞う始末となってしまいました。

それから暫くしてようやく解放された私は安堵しながらも悔しさで胸が一杯になりました。

なのでせめてもの仕返しとばかりに睨みつけるも、彼女には効果がないどころか

寧ろ喜んでいるように見えたのでますます悔しく感じてしまいました。

「あらあら、随分と怖い顔をしているわね。一体どうしたのかしら?」

まるで挑発するかの如く余裕たっぷりな態度を見せる彼女に益々苛立ちを募らせていくばかりです。

そこで、遂に我慢できなくなり怒鳴りつけるように叫んでしまいました。

「もう、知りませんからっ!」

そして、その場から逃げ出すように駆け出して行く私に対し、

彼女が声を掛けてきましたが無視を決め込みます。

(ふん、勝手にすれば良いんだ!)

心の中で悪態を吐きつつ歩いていると、いつのまにか街の外に出ていました。

ここまで来れば大丈夫だろう、そう思い後ろを振り返ると誰もいませんでした。

それを確認した途端、気が緩んでしまい涙が溢れてきてしまったのです。

(どうして、こんな事に……)

「うぅ、ぐすっ、ひっく、えぐ、うわぁぁん」

嗚咽を漏らし泣きじゃくるも、その声が誰かに届くことはありませんでした。

(何でこんな目に遭わなきゃいけないんだろう?)

そう思うと無性に腹が立ってきて、思いっきり叫び声を上げてやるつもりで息を

吸い込んだところで後ろから何者かに襲われてしまい、意識が遠のいていくのを感じたのでした。

そうして意識を取り戻した時には、もう手遅れでした。

手足の自由は奪われており、目の前には見知らぬ女がいるではありませんか。

しかも、その女はニヤニヤしながらこちらを見下ろしてきていて、背筋がゾッとしました。

「貴女がジェーナね、可愛がってあげるね」

「いや、やめてっ!」

必死に叫ぼうとしたのですが、上手く喋ることができず言葉に

ならない呻き声のようなものしか出ませんでした。

(なんで喋れないの!?)

困惑している内に彼女はどんどん近づいて来て、とうとう触れられてしまう寸前に

までなってしまうと恐怖のあまり目を瞑ってしまいました。

(誰か助けて!)

そう思った瞬間、何かが割れるような音が聞こえてきて目を開けると、

そこには信じられない光景がありました。

何と、私を組み敷いていた女が吹き飛ばされていたのです。

何が起こったのか分からず混乱していると、視界に別の人物が現れました。

それは私にとって見覚えのある姿形をしていたのです。

そう、ガルアレーアだったのです。

彼女は怒りに満ちた表情を浮かべており、

今にも飛び掛からん勢いだったので慌てて声を掛けようとしたところ、手で制されてしまいました。

どうやら、邪魔をするなということらしいのです。

(でも、このままじゃ彼女が危ないんじゃ……?)

そう思ったのですが、今の私にはどうすることも出来ず見ていることしか出来ませんでした。

そんな心配をよそに、彼女はゆっくりと立ち上がると不敵な笑みを浮かべました。

そうすると、次の瞬間、目にも留まらぬ速さで相手に飛びかかっていったのです。

その動きはとても速く、とても人間のものとは思えない程の動きでした。

そうして、一瞬で相手の懐に入ると、そのまま拳を振り上げ殴りつけたので相手は後方に吹っ飛んでいきました。

(凄い、あんな強い人見たことない)

あまりの凄さに圧倒されていると、今度は相手が襲いかかってきました。

それを見た彼女は、すかさず避けるとカウンター気味に蹴りを放ちます。

そうすると、相手も同じように蹴り返してきたようでお互いの足がぶつかり合いました。

その後も、激しい攻防が続きましたが最終的には彼女の勝利で終わる事になったのです。

しかし、まだ終わっていなかったようで、背後から忍び寄る影があったのです。

それは、先程私が襲われた女でした。

どうやら、まだ懲りていなかったようです。

油断していた彼女を羽交い締めにして拘束してしまうと、首に腕を回し締め上げ始めました。

苦しそうに呻く彼女を助けようと駆け出したのですが、間に合わず倒れ込んでしまいました。

それでも諦めずにもう一度立ち上がり向かっていくのですが、またもや返り討ちにあってしまうのです。

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