昔 東京の片隅で 第2話 ひまわりの記憶
狩野晃翔《かのうこうしょう》
ひまわりの記憶
ぼくがまだ高校生だったある夏、大好きな女の子とひまわり畑を歩いたことがあります。
ぼくたちの背たけほどもあるひまわり
そのたくさんのひまわりが真夏の紺碧の空を背景に、歌でも歌ってるかのように風に揺れているのです。
ひまわりの花言葉
あこがれ
情愛
あなたを見つめる・・・
大好きだった女の子がそんな言葉を呪文のようにつぶやいて歩いているとき、ぼくたちは目の前の一輪のひまわりに気づきました。
誰かのいたずらなのでしょうか。
それとも誰かの願いなのでしょうか。
そのひまわりは種の一部がくり抜かれ、スマイルマークの顔になっていたのです。
ぼくと女の子はそれを見て嬌声をあげ、ほかにもっとスマイルマークになったひまわりがないか探し始めました。
でもなかなか、ほかのスマイルマークになったひまわりは見つかりません。
やがてぼくたちは、ひまわり畑を管理しているおじさんと出会いました。
「おじさん。スマイルマークになっているひまわりを知りませんか。さっき一輪見つけたんだけど、もっとあるんじゃないかって、探しているんです。ほかにスマイルマークになったひまわり。どこにあるか知ってたら教えてくれませんか」
それを訊いた管理人のおじさんは、しばらく考えてから笑みを浮かべて答えました。
「そのスマイルマーク。あるじゃないか。こんな近くに」
ぼくと女の子は目を輝かせ、
「どこにあるんですか。そのスマイルマーク」
と、おじさんに訊ねます。
するとおじさんは、笑いながら答えてくれました。
「ほら、きみたちの笑顔。それ、スマイルマークじゃないか」
ぼくたちは声をあげて笑いました。
そう。そのスマイルマーク。
それはぼくとそこに一緒にいた女の子の、お互いの笑顔だったのです。
夏が来るたび、そしてひまわりを見るたび、ぼくにその記憶がよみがえります。
それは高校生だった頃のぼくの、遠い思い出のはずなのに。
《了》
昔 東京の片隅で 第2話 ひまわりの記憶 狩野晃翔《かのうこうしょう》 @akeey7
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