Ⅱ-11

 僕と信子さんのとなりに置かれているくたびれた応接セット。もともとここにあったものではなく、どこかでいらなくなったものをここに持ってきたらしい。僕がここに来てからは、ぼくがたまに昼寝をする以外に使われたことはない。

「倫ちゃんには会ってきたんですか」

「さっき加工場で。忙しそうだったからちょっとだけね」

「倫ちゃんすぐにわかりました」

「話は聞いていたから。でも本当に変わったね、あの子。髪型だけじゃなくて。何も聞いていなかったらすれ違ってもわからないかもしれない。自分の子なのにね」

 信子さんが麦茶を持ってきてくれた。

「リンコちゃんのお母さん」

 信子さんは僕にそうきいたあと、しばし倫ちゃんのおばさんとあいさつを交わしている。

「今日は泊まっていくんですか」

「友だちと待ち合わせしてるの。せっかくここまで来たんだし、いろいろまわってみようと思って」

 おばさんは友だちと旅行をしている途中らしい。

「今日は勘太郎君にお願いがあって」

「何ですか」

 おばさんは倫子のことをよろしくと深々と頭を下げた。

「よしてくださいよ、おばさん。本当は僕のほうからちゃんと挨拶に行かなきゃならないのに」

 僕もおばさんに頭を下げた。

「でも、いいんですか」

「勘太郎君のお母さんとも話したんだけど」

「おふくろ何か言ってました」

「あたしもあなたのお母さんも本当に良かったと思ってるの」

 僕は軽トラックでおばさんを近くの駅まで送っていった。ここに落ち着いてからは、倫子はおばさんと連絡を取っているようだ。

「たまにはお母さんに電話してあげて」

 おばさんはそう言って駅の改札を抜けていった。おふくろとおばさんは今でも近くに住んでいる。

「お母さん帰っちゃった」

「旅行の途中に寄ったみたい」

「このままじゃダメなのかなあ」

「多分ね」

「あたしの気持ちは決まってるよ」

 僕の気持ちだって決まっている。

「ねえ、明日役場に行こう。午後なら時間あるでしょう」

 あのまま都会にいたら、僕も倫ちゃんも何やら見えないものに押しつぶされていたかもしれない。倫ちゃんは倫ちゃんらしい感性でそれを感じていたのかな。

「本当にいいの」

「僕じゃダメ」

「いいに決まってる」

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