Ⅱ-5
倫子は楽譜とにらめっこをしながらギターを弾いている。楽譜といってもタブ譜といわれるもので、ギターの弦に見立てた六本の線に音符と押さえる位置が数字で書かれている。ギターを弾く場合は五線譜よりもわかりやすいらしい。
「だいぶ上手くなったんじゃない」
「マスターに教えてもらってるから」
「何て曲なの」
「マヌエラ・ボーイ」
「店の名前といっしょだね」
「この曲から店の名前をつけたんだって」
「そうなんだ」
「タロパッチ・チューニングだよ」
「何それ」
「チューニングの名前」
「変な名前だね」
「タロイモのことだって」
「タロイモ」
「名前はタロパッチだけど、オープンGと同じなんだって。わかる」
「何となくだけど。開放弦を鳴らすとGになるんだよね」
「そういうこと」倫子は自慢そうに言っているけれど、本当にわかってるのかな。
「マスターの店ってこの辺にはない雰囲気の店だよね。都会っぽいっていうか。サーフショップでコーヒーとかも飲めるし」
「夜はお酒も飲めるんだよ。全国からサーファーが集まってくるみたい」
「なるほどね」
僕はかじったスイカの種を庭先に飛ばした。
「大丈夫かなあ」
「何が」
「昔の知り合いとかに会わない」
「大丈夫だよ。サーフィンやってる友だちとかいないし」
「心配じゃない」
「心配なの」
倫子はギターを置いて、僕の隣でスイカを食べはじめた。僕はそんな倫子の横顔を見ている。
「知り合いに会ったって、つながってるとは思えない」
「でも結局、誰だかわからなかったわけだし」
もちろん状況から考えても倫ちゃんの知り合いではないし、倫ちゃんの言うように知り合いとつながっているとも思えない。
「それに今のあたしには勘ちゃんがいるから」
「あたしを守ってくれるでしょう」
「もちろんだけど」
「ねえ、星がきれいだよ。都会にいるときは星なんか見ようと思わなかったのに」
「都会ではこんなにたくさん星は見えないよ」
「心配しないで勘ちゃん・・・」
倫ちゃんの声は最後のほうが小さくてよく聞き取れなかった。
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