Ⅱ-4

 とにかく寒かった。雪に閉じ込められてしまった安アパートの中では、二人で身を寄せる以外寒さをしのぐ方法がなかった。僕と倫子はお互いのぬくもりでお互いの体を温めている。二人で暮らすってことはこういうことなのか。満員電車に荷物を抱えて一人で乗り込んだ時は、こんなこと考えもしなかった。

 この寒さの中ではこうしてこの部屋にいるよりも、仕事をしているときのほうが快適なはずなのに、一日が終わると僕たちはぬくもりをもとめて冷え切ったこの部屋に戻ってくる。

「ねえ、いつまでここにいるの」となりで倫子が言う。

「いつまでだろう」僕が答える。

「もどりたいの」

「別にそんなわけじゃないけど」

 もうそろそろ終わってしまうことは倫子もわかっている。でも、その後はどうすればいいのだろう。ここの暮しは決して悪くない。今こうしていると、倫子と二人で彷徨うことになるきっかけさえ忘れかけている。

「春になったら。そういう約束だったよね」

 眠ってしまったのだろうか。倫子は返事をしなかった。おなじ布団の中で感じるぬくもり。ずっとこのままこうしていられたら。

「おはよう」

 冷えきった部屋の中に倫ちゃんの明るい声がひびく。僕は布団をはねのけて起き上がり、寝ていた布団を部屋の隅に片付ける。

「今日も寒そうだね」

「しかたないよ、寒いところなんだから」

 小さなテーブルに朝食が用意されていた。倫子は仕事に行く支度をすませている。

「あたし先に行くから。後片付けお願い」

 部屋から出ていく倫子には、あの頃のキラキラした面影はなくなってしまっている。着ているものも質素で化粧もほとんどしていない。それなのに僕には倫子がとてもきれいになったように思えた。子どもの頃の無邪気さはそのままに。

 あったかい白いご飯がこんなにおいしいとは思わなかった。ぼくは倫子が作った朝食をかみしめている。焼いた塩鮭、生卵に焼き海苔、そして味噌汁。いつもどおりで特別なものではないけれど。かみしめるほどおいしい。

 朝食の後片づけをした後、ぼくも仕事に行く支度をして部屋を出た。どんよりした空、今日も雪がチラついている。僕と倫子がお世話になっている旅館までは歩いて数分。雪を踏みしめながら歩いていく。

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