Ⅱ-3

「ねえ、勘ちゃん。ギター弾ける」

「簡単なコードぐらいなら」

「あたしもちょっとなら触ったことあるの」

「そうなの」

「バンドやろうって盛り上がったことがあって。キャバクラの女の子と」

「あたしはね、一応ヴォーカルだったんだけど、弾けなくてもギター持っていた方がカッコいいってことになって」

「エレキ弾いたの」

「うん。でも結局一度くらい合わせただけで終わっちゃった」

「ガールズバンドが流行ってたころ」

「そうかな」

「でもおかしいんだ。勘ちゃん弾いてみて」

 倫子は抱えていたギターを僕に渡す。

「どうしたの、このギター」

「マヌエラのマスターにもらったの。マスター、ギターがすごくうまくて、あたしも弾きたいなって言ったら、好きなの持っていっていいって」

「倉庫みたいなところがあって、たくさんころがってたの。チューニングもしてくれたんだけど」

 僕は倫子から受け取ったギターを鳴らしてみた。

「おかしいでしょう」

 たしかに変な感じだ。押さえ方は間違ってないはずだけど。試しに弦を押さえずに鳴らしてみるときれいなコードが響いた。

「すごい」

 倫ちゃんが声を上げる。

「別にすごいわけじゃないんだ。これオープン・チューニングなんだよ」

「オープンチューニングって」

「難しいことはよくわからないけど、こんなふうに何も押さえなくてもコードが鳴るようにしてあるんだ」

「やっぱりすごいよ」

 そう言うと倫子は僕からギターを取り上げてポロンポロンとやりはじめた。

「おもしろいね」

「ねえ、マスターはどんな曲弾いてくれたの」

「ゆったりした感じの、南国っぽい曲」

「ハワイアンみたいな」

「そんな感じ」

「それじゃ多分スラックキーだよ」

「スラックキー」

 僕も倫ちゃんに教えられるほどの知識は持ってないけれど、スラックキー・ギターはオープン・チューニングを使うことは知っていた。

「マスターにちゃんと教わらないとだめだね」

「そうする」

「勘ちゃん。スイカ冷えてるから食べよう」

「それよりごはん食べようよ」

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