Ⅱ-1

 石垣の向こうに青い海が見えた。僕は茹でたトウモロコシをかじりながら、リサイクルショップでタダ同然で手に入れたポータブル電蓄といわれる機械をながめている。コンパクトなレコードプレーヤーで、レコードをのせて針を落とすと組み込まれたスピーカーから音が出る。

 買ってきた時にはレコードをのせても回らなくて音が出なかった。

「いいおもちゃだね。どこが悪かったの」

「それがさ。いろいろやってるうちに直っちゃったんだ」

「ねえ、今度はこれかけてよ」

 倫子は紙袋の中から穴の開いた黒い円盤をひとつ取り出した。機械とセットでドーナツ盤といわれるレコードがついていた。

「けっこう楽しんでるじゃない」

 倫子はドーナツ盤を僕に渡すと、僕の隣にこしかけてトウモロコシを食べはじめた。

「まあね。レゲエなんでしょうあれ全部」

「多分ね。みんなジャマイカ盤みたいだから」

「スカとかロック・ステディとも言うみたい」

「詳しいね」

「サーフショップのおじさんが言ってた」

「マヌエラボーイの」

「そう」

「なかなかいいねこの曲」

 ピンクのワンピースを着た倫子はトウモロコシをかじりながら体を揺らせている。サックスやトランペットも入っていてジャズっぽい曲。インストナンバーのようだ。

「ねえ、ウラもかけて」

 曲が終わると倫子がぼくに言った。僕は裏返す前にドーナツ盤に書かれている文字を読んでみた。

「このバンド聞いたことがある。スカタライツ。有名なバンドだよね」

「そうなんだ」

 そう言いながら倫子は音楽に合わせて体を揺らしはじめた。

「いいねえ、レゲエ」

 買ってきた時には全然興味を示さなかったのに急にどうしたのかな。

「このリズムがここの生活にピッタリ合ってるかなって。聴いているうちに、だんだんわかってきたの」

 波の音とかといっしょなのかな。いったい誰がこのドーナツ盤を集めていたんだろう。都会にいたって簡単に手に入るものじゃない。日が暮れてもずっとレゲエパーティーだった。

 トウモロコシがビールに変わって、倫子がおいしいつまみを作ってくれた。長い旅がはじまったころには、倫子が料理をするなんて考えられなかった。

「素材がいいから、ちょっと手を入れただけだよ」

「勘ちゃんがいろいろ教えてくれたし」

「風が気持ちいいね」

 倫ちゃんが僕に体を寄せてきた。風と同じくらい倫ちゃんの肌の感触が気持ちいい。

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