Ⅰ-10

 朝のラッシュなんてここのところ経験していない。久しぶりのすし詰め状態はかなりこたえた。しかも大きな荷物を抱えている。身動きがとれなくなることは十分にわかっていたつもりだったけれど、倫ちゃんはうまくやっているだろうか。

 都心から離れて、やっとまわりの人との距離に余裕ができはじめている。僕は少しづつ空いている空間を探して移動した。まだ合流するのは早いだろうか。あとひとつターミナル駅を過ぎればもう少し空いてくるだろう。それまで待ったほうがいいかもしれない。

 倫ちゃんは打ち合わせ通りに指定の車両に乗っているだろうか。僕は不安な気持ちを抑えながら人がまばらになるのを待って前の車両のほうに歩きはじめた。

「勘ちゃん」

 倫ちゃんが僕を見つけて手を振っている。

「死ぬかと思ったよ。あたしこんな混んだ電車に乗ったことないから」

「前から三両目って言ったじゃない」

「ここ違う」

「多分」

「いいじゃない。うまくいったんだから」

「そりゃそうだけど」

 倫子は空いてる席を見つけると大きなカバンを抱えてすわった。僕もカバンを抱えて倫子のとなりにすわる。

「わくわくするね」

 僕は倫子の言葉に思わずうなずきそうになる。とりあえずはうまくいったけれど、大変なのはこれから。わかってるさ、十分にね。

「ねえ、どこで降りるの」

「終点まで」

「もうすぐ」

「もうちょっとかかるかな」

 終点の駅からローカル線に乗って山のほうに向かう。そこまでは予定通りだけれど、そこから先は僕にもわからない。

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