Ⅰ-9
「多分違うと思う」
「あいつ元気してた」
「普通だね。ヒマそうだったけど」
「あいつもクスリとかやるの」
「そんな風に見えた」
「そんな感じはしなかったけど」
「あいつにはムリ。気が小さいし、お金もないし。売人にもなれないよ」
「よくわかってるんだね」
「そうね」
「どうなのそっちのほうは」
「フーゾクにいたときの友だちのところ。でもそんなに長居はできないみたい。わけのわからない男が出たり入ったりしてて」
「大丈夫なの」
「大丈夫。あたしカンがいいから」
「どっかで会えないかな。話したいことあるし。電話じゃちょっとね」
「そうだね。またどこか指定して。そこに行くから」
「この前のところでもいい」
「大丈夫かな。でも、できれば別のところがいいかな」
「それじゃまた連絡するよ」
「外に出てヤバそうだったら連絡するから」
「わかった」
僕は電話を切って歩きはじめた。誰かに見られているような気がした。僕のことまでバレてしまったんだろうか。
それともさっきのあいつか。ただの気のせいか。僕は通りを渡って人ごみのほうに向かって歩いていく。隠れるのなら、誰もいないところよりも人ごみに紛れてしまったほうがいい。倫ちゃんを人ごみに紛れさせることはできるだろうか。
人ごみに紛れさせても僕が見失ってしまっては意味がない。それに人ごみの中にずっといるわけにもいかないし。電話が振るえた。倫ちゃんだ。
「どうしたの」
「今度は焼き肉がいいな」
「それだけ」
「それだけ」
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