Ⅰ-7

「あんたはリンコの何なんですか」

「古い友人です」

 僕の返事を聞いて片耳にピアスをした男は、僕の向かいの席でニヤリと薄笑いを浮かべた。

「ウソつかなくてもいいですよ。あんたリンコの新しい男なんでしょう」

 オープンカフェのテラスを吹き抜ける五月の風が気持ちよかった。相手がこいつじゃなければもっと良かったのだけれど。

 カフェの店員がカプチーノを二つ運んできた。向かいの男は長身でスラリとしたその女性を目で追っている。

「やっぱりあんた違うね」

 男は店員を目で追ったまま僕に言う。ニヤついてはいるけれど、さっきのニヤつきではない。

「あんたリンコのタイプじゃないよ」

「別にそれはいいんだけど」

「オレはストーカーじゃないっすよ。電話やメールはあんたの言ったとおりだけど」

「それだけで十分ストーカーだと思うけど」

「最近してないし」

「番号とアドレス変えたからね」

「オレを疑ってるんですか」

「どっちかだろうね」

「それであきらめるか。頭にきて追い回すか」

「オレはあきらめるほう。スッパリね」

 そう言って男はタバコを取り出すと、ライターでタバコに火をつけた。

「オレが本命だと思ってたんだけどね。オレもバカじゃないから」

「ところでさっきの店員はタイプ」

「ストライクだね」

「倫ちゃんとはタイプ違うよね」

「まあね。別にいいじゃん」

「あんたにはどっちもムリだろうけど」

「そうだろうね」

 僕はそう言ってカプチーノをすする。シナモンの香りが口の中に広がって鼻から抜けた。

「よくいるよね。何もできなくてモジモジしてる奴」

 そうか、そうなんだ。ストーカーは必ずしも倫ちゃんと面識があるとは限らない。

「なにニヤつてんだ」

 そう言って向かいの男はタバコの煙を大きく吐き出した。

「もういいかな」

 男はタバコをくわえたまま立ち上がる。

「ありがとう。参考になった」

「そうかい。そりゃよかった」

 男は少しぎこちない足どりで僕から離れていく。

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