Ⅰ-3

外は雨が降っていて、部屋の中にはショパンの夜想曲が流れている。そういえば「雨音はショパンの調べ」という曲があったけれど、あの曲の「ショパンの調べ」って何だったんだろう。

 ワルツだろうか。それともマズルカだろうか。何となくワルツのような気がするけれど、今日のようなシトシト雨にはノクターンがよく似合う。そんなことを考えながらいい気分になっていると、突然部屋のドアが開く音がして雨水をしたたらせながら倫子が中に入ってきた。

「不用心だね。カギ開いてたよ」

「シャワーある」

「風呂もわいてるけど」

「ありがとう。仕事辞めてきた」

「そうなの」

 倫子は部屋に上がるともどかしそうに服を脱ぎながら僕の前を通り過ぎる。脱いだ服がドサッ、ドサッと音を立てて床の上に落ちていく。

「お風呂はここ」

 すっかり着ているものを脱いでしまった倫子は、明かりもつけずに扉を開けて中に入る。僕は倫子の脱いだ服を拾い集めながら風呂の明かりをつけた。倫子は男に裸を見られているという意識は全くないようで、僕を見てニヤリと笑っている。僕はゆっくり扉を閉めた。

「ねえ、コンビニでパンツだけでも買ってこようか」

「ダメ、あたしを一人にしないで」

「でもどうするの」

「勘ちゃんのパンツでいいよ」

 僕は本当にいいのかなと思いながら、拾い集めた服を洗濯機に入れてスイッチを入れた。それから濡れた床をタオルで拭いた。洗濯機では脱水までしかできないんだよな。

「ちゃんと部屋のカギ閉めたから」

「ありがとう」

「ラーメンおいしいよ」

「インスタントだけどね」

「あったまる」

 そう言いながら倫子はラーメンにコショウを振った。

「いいよね、この粗びきの香り」

「チャーシュー、サービスしといた」

「よくあったね」

「たまたまだよ。それよりパンツ大丈夫だった」

「ゆるゆるだけど、どうにか引っかかってる」

「女の子はやせてるようでもおしり大きいからね」

「ちがうよ、おしりじゃなくて腰に引っかかってるの」

「そうなんだ」

「新しいパンツおろしてくれたの」

「その方がいいと思って」

「もしかして、インキン」

「ちがうよ」

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