第6話―偶然性の運命―
燃えるような何回は見た雲がない青空。アイスが溶けるように不快な汗が溢れてとまらない。
本を買いに外を出るのも引き返したくなる暑さは倦怠感が蓄積していく。
(自分で買う事に意義があると強く主張する俺は今すぐに帰りたい…んっ?)
往来が少ない住宅街を歩いていると白のワンピース姿と長い黒髪をリボンに後ろに纏めた女の子が目に入った。同い年で、可愛いが
理由がそれで関心を引くほどではもちろんない。
その女の子は屈んでダンボールに入った猫の頭を
ひろってください。これは捨て猫だ。まるで青春ものでは定番のワンシーン。けど…
(こういうのはヒロインの立場と相場が決まっているからなぁ。
それに俺はこの女の子とは知らないし話すつもりもない)
触れぬ神に祟りなし的な意味ではなく知らない人に声を掛けられて喜ぶような輩は見た事がない。
良くて愛想笑いか露骨に顔を顰める。
通り過ぎて戻ればいないのだろう。
「あの…もしかして吉良ですか?」
振り返ると、女の子は猫を抱き寄せて立ち上がると声を掛けられた。
「?そうだけど…失礼承知で伺いしますが、どこかお会いしましたか?」
「えっ?も、もしかして
「そういうわけじゃないが…えっ!?その声と目は萩川…なのか」
「うん。そうです」
他人行儀な対応に不安そうに浮かんでいた萩川は満面な笑みを浮かべる。
私服と髪型が違うだけでこんにも変わるものなのかと変に関心する。
「夏休みだと始まってすぐバッタリと会うか…それは捨て猫か?」
「うん。ひろってください書いていたけど…この子の名前はなんだろうね?」
「この場で見た情報で推測まがいを立てるなら…
捨てた場所がここだ。人の往来はそんなに多くないし目立つ事なく捨てる事が出来た。でも目撃はゼロじゃない。
捨てるなら山か橋の下などある事だけ加味すれば…捨てたのは子供か?
「…せめて名前をつけたらいいのに」
そう呟き萩川は憐憫の瞳で腕の中にある捨て猫を見る。
「捨てるような奴に真っ当な精神を期待するだけでも無駄だ。
ともかく猫はどうする?保護団体に任せるか、それとも」
「何かの運命を感じる…飼うよ」
「そうか…」
即断即決だった。ここまで清々しくあると脱力して尊敬の念を抱く。
「それで名前はどうする」
「うーん、運命から取ってメイかな」
「ふーん、そう」
安直な名前だなと感じたが、名前をつけるのに深い理由はないか。
「それで吉良はどこに行くの?」
「本屋」
「そうなんだ」
儚い笑みを浮かべてため息をする萩川。目の前でそれをされるとなぁ。
「帰りでいいか。猫の面倒を今だけ俺も手伝う」
「……えっ?」
「いや、だから…捨て猫を一人じゃ大変だと思って手伝うと言っているんだ」
「…うん!えへへ、よろしくね」
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