第4話―揺らぐ水面―

今日も萩川はぎかわは屋上の出入り口に昼メシを食べていた。


「こんにちは萩川」


「あっ、こんにちは吉良きら


萩川と挨拶をするのは決まってここだった。もはや一種のルーチンのように欠かさず俺はここを通って外で食べる。萩川は中で食べる。

今日も近くに感じながら壁とドアを隔たりながら考える。

ドアノブをにぎったままの俺は手を離す。


「今日は隣いいか?」


「あの…と、隣ですか?」


いつもとした距離を保とうとするかのように俺と萩川はしていた。

だからこそ思いがけない行動に小さな驚きを隠せていない。


「ああ。せっかく知り合ったんだから一緒に食事をしたいんだが…駄目だったか?」


「う、ううん。そんなこと無いよ。どうぞ、お隣どうぞ」


意外にも歓迎してくれた。勝手に落ち着ける場所を踏み入れる闖入者ちんにゅうしゃに向ける目をされると思ったのだが。座ってみて床は冷たくも温かくもなかった。


「「………」」


この日は会話が続かず黙々と食べ物を運ぶだけの作業に徹することになった。


「それじゃあ俺は風に当てに行ってに失礼する」


「あっ、はい。バイバイ吉良」


別れを告げられた。屋上の外に出ると俺は出入り口ドアの上にある塔屋とうやの上で読者する。

それから萩川とは隣で座る間柄になった。いや、偏見に捉えてしまう。友達かどうか曖昧な境界線に立っている。

一週間が過ぎていき夏休みが明日からスタートする今日。


「あ、あの吉良!」


昇降口で萩川が勢いのある声音に気づかなった俺は奇襲されたように驚く。


「うわぁ!?萩川なんだ、どうした」


「あっ、驚かせちゃったよね。

ごめんね…もし良かったらライン交換しない?」


「そういうことか、いいぞ」


明日から夏休みになる。俺も何となく聞こうと試みたが恥ずかしく出来なかった。

一学期の最後は萩川の屈託のない笑顔を見て二学期までは見れないかと思うと遺憾いかんな気持ちだった。

そして夏休みになって初日。


「あ、あはは。こんな所で吉良と偶然に会うなんて思わなかったかな」


「まったくだ。偶然に起きるなら並木道か海や山だと思うのに…

よりによってスーパーか」


高校生で偶然にも知り合いにさ可能性がかなり低い所だ。俺はため息をこぼすと、同じタイミングで萩川もため息を零す。

俺は感情を揺れることは無いと思っていた。しかし萩川と話をしていると喜怒哀楽が前向きに

起きるのが、よく分かる。

なぎのように静かだと思っていた俺の心は確実に揺らぐ水面のようにゆっくりと変化していく。

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