第2話―白紙の未来―

孤独と学校に慣れてきた一年の夏は中学生とそんなに変わらない。

先輩や教諭、学校は変わった。確かに変化はあったが少なくとも俺の中では大きな変化に値しない。

一年生としては心機一転という

ワードを嫌というほど聞く。

そして俺が嫌いな四字熟語が、その心機一転だった。

ある動機がきっかけで前を向けて変わっていく事は素晴らしいと思うが、そんなの口にすることや書くことじゃないと見解を持つ。


(成長していくと世の中が見えてくるなぁ。いや、俺が知識を増えて視野を広がったからか)


夕焼けに染まる青山の表参道を機械的に帰路に就いていた。

まだ半年ほど通学路が記憶に刻まれているようだ。


(あの子は何をしているのかな…)


屋上のドアの前から左を向くとある置物が何ヶ所ぐらいろスペースにリスのようにしている彼女を。

スクールバッグから鍵を使って解錠して自宅に入る。

暗い部屋、両親と離れて暮らしてから家に帰るのが避けるような心境にある。

それでも真っ先に帰る理由は一つ。


「ワン、ワン!」


「はは、ただいまヴィステリア」


犬の為に早く帰宅するようになった。

名前はヴィステリアで犬種はブルドッグ。顔立ちからして海外のような名前を似合わないと笑われることはあるが俺はそう思わない。

それを語ると長くなる。俺の名前を由来は1月1日の生まれから

吉良義央。歴史に詳しい人なら知っていると思うが吉良上野介義央きらこうずけのすけよしひさから、例年としてテレビに赤穂浪士あこうろうしの活躍を見たからと両親は自慢気に語っていた。

そんな安直な理由でつけられた。

こんなバカみたいな過去はともかく俺はくつを脱ぎ玄関に出迎えたヴィステリアの前で屈む。


「よしよし、ヴィステリアは可愛い奴だな。待たせて悪かったなぁ」


「ワン!」


柔らかい毛皮をでながら言葉をすると元気に返事をする。

そして翌日の朝。


「行ってくるヴィステリア」


「ワン!」


今日も元気に一声のワンで言葉を送る。家を出て通学路を引き返したくなる衝動が襲う。いつも、これを戦いながら始まるのだ。

葛藤に今日も悲しいことに打ち勝って歩く。学校が近づくにつれて

同じ制服が集まる。まるでアリの行列みたいだな。

やはり生徒が多いのだろう「おはよう!」「彼女が欲しい」「今日の練習なんだけど」 など

気力に満ち溢れている。脱力感が常の俺には、そう感じた。


(今日は屋上で食べるとしよう)


売店のパンを購入して屋上に上がると、ドアの左に彼女がいた。


「「………」」


コクッ。俺が小さく頭を下げて挨拶をすると彼女も同じ動作で返す。

そして俺はドアをくぐり抜けて外で食事を、彼女は外ではなく校内でお弁当を食べる。

放課後の予鈴が鳴り響くと用意した言葉で教諭は締めを飾る。

ヴィステリアが待っているが今日は図書館で勉強をする予定だった。

スケジュール管理なんて全部が白紙に等しい俺は一人でする時間が多い。

図書館は静寂で人がほとんどいないのだ。偏差値がそこそこ高い割りに利用者が少ないのはラノベや漫画など置かれていない。

おそらく借り出してから家で読むために出るから長く居続ける人は多くない。図書館に入り見渡す。


(やっぱり人は今日も一人もいない)


しかし図書委員という人はいて……偶然にも屋上の近くに座っている彼女がいた。


(あの場所は図書委員が座る所…今日は2回も合うのか)


彼女も俺に気づく。ドアの開く音が鳴ったから気づいて当然か。


「え……えっ!?」


初めて声を聞いた。鈴を転がしたような美しい声。俺は彼女ほど大きな反応はしていないので、会釈してそのまま遠くの席に座る。

位置は彼女を背にしての配慮。しかし間違えたかもしれない。

背中から視線を感じて広げた参考書に集中が出来ない。

関心の見えない力が浴びるような感覚、そんな状態では集中も出来るはずもなく俺は帰ることにした。

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