第4話 ストーカー

ある日の事だった。


「ただいま」と、私。

「おかえり」と、母。



「魅琴、あなたに手紙届いていたけど…」

「手紙…?」

「誰からか知らないけど、もしファンレターなら事務所に送られてくるものなんでしょう?」

「うん、そうだよ」



私は目を通す。




だけど――――



この一通の手紙は――――



事の始まりに過ぎず――――






次の日も、次の日も、私の写真が一枚入ってきた状態で送られてきていた。


私は事務所に相談した。




「魅事ちゃん、これは…ストーカーじゃないかな?」



「ストーカーぁっ!?」


「もしくは、熱狂的なファンとか追っ掛けとしか…」




「………………」



「ボディーガードつけるか、撮影現場迄の送迎した方が良いかもしれないね。何かあったら遅いし」


「大丈夫ですよ。だって、人手不足の中、そんな送迎なんて無理な話じゃないですか?ボディーガードも検討するなとは言いませんが、まだ待って下さい」


「しかしだね…家も知られている感じなんだよ」

「それは…事務所側が心配するのは分かります」

「だったら…」

「待って下さい!お願いします!」



私は頭を下げた。



そして、様子を見る事にはなったんだけど、精神的に参っていた。


何とか過ごしていたものの、いつも誰かに見張られてる気がした。



「ねえ、悠ちゃん、悠ちゃん」



竜助が俺を呼ぶ。



「何?」

「最近、魅琴ちゃんって疲れてる感じがしない?」



と、撮影中の彼女を見て竜助が言った。



「知らねーよ」

「魅琴ちゃん、最近忙しいからなー」

「だったら栄養ドリンクでも送ってやれば?」

「飲食系は、何かあったらいけないから渡したり送ったりするの禁止なんだよ」

「そうなのか?」




そんな俺の隣には




「今日も魅琴ちゃん可愛いよ~♪」


と、呟く奴がいる。




「………………」




≪彼女馬鹿もいれば、こっちは妙に怪しい奴いるし≫



写真を撮りまくる隣の奴。



「良いよ~♪その顔、可愛いよ~♪」




パシャ



パシャ




≪写真撮りまくりだろう?≫

≪もしかしてヤバイ奴?≫




「竜、俺帰るわ」

「うん、分かった」

「即答かよ!じゃあ、俺マジで帰るから」



俺は帰る事にしたが、寄り道して帰っている時の事だった。




「疲れたーーっ!調子悪いっつーの!全くストーカーだか何だか知らないけど調子出ないっつーの!日々、頭悩まされるわっ!」



「へぇーー」



ビクッ


背後から声がした。




「………………」




≪えっ……?あっ……ヤバイ…素の自分…ボロでちゃ…ス、ストーカーじゃないよね?≫



恐る恐る振り返る私。




「………………」




ドキン



「良かったぁ~……あなただったんだ」



私は金網状のフェンスに寄り掛かる。




「いやいや…良かったって…お前、普段見せる事のない素の自分バレて良かったって……」


「いや、ほとんどの業界の人間はあると思うよ。変わらない人もいるだろうけど、私は信頼している人しか素の自分を出さなくて…まあ…確かにバレたのは痛いけど今はそれ所じゃなくて……」



「それ所じゃない?」

「うん。ちょっと…重要な悩みがあるから」

「重要な悩み?」


「うん…ストーカーか熱狂的にファンか知らないけど家に写真の入ったファンレター届いてて、しばらくは様子をみようって事になって……あっ!ヤバッ……えっと…ごめん……今の聞かなかった事にして」



「いや無理だし!」


「じゃあ、誰にも言わないで!マスコミには出てないからまだハッキリとした事……」


「いや…明らかに…問題ありだろう?ボディーガードつけるか送迎してもらうかした方が良くねーか?」


「人手不足だから」

「えっ?」

「小さい事務所だから、私、専属マネージャーいなくて。自分のスケジュールは事務所と自分で管理してて」




「………………」



「ていうか縛られるの嫌なんだよね。マネージャーがいたら自分の時間ないのと変わらない気がして」


「だとしても危険おかしてまで今の仕事するならボディーガードつけろよ!何かあったら遅いだろ!?」




「………………」




「そうだね…」




私は帰り始める。




「あっ!おいっ!つーかさ……」

「何?」




グイッと引き止めるとフェンスに押し付ける。





ドキッ



「今のお前って案外良いな?」

「えっ?」



クイッと顎を掴む。



ドキッ


更に胸が跳ねる。



「敬語じゃねぇ所、俺は今のお前が、お前らしくて好きだけど?」




ドキッ



「す…好き!?」



私は押しのけるが、彼の両手によって私の行く道を塞ぐように両手を金網のフェンスに手を置いた。



「ちょ、ちょっと…近すぎっ!」

「俺がファンじゃなくて良かったな?椎菜 魅琴さん」


「わ、分かったから離れてっ!」


「女優さんなら、これぐらいの至近距離どうって事ねーだろ?」


「一般と俳優さんは違うから!」

「一緒だろう?」


「違います!撮影はあくまでもストーリー性あるから色々なシチュエーションがあるわけであって…不意で先の詠めないケースは私、縁がなくて…」



「へぇー、意外!」




「………………」



「つー事は…案外純?」

「う、うるさいなっ!」

「おもしれーーっ!」

「か、帰ろ!」



私は押しのけ帰り始める。


彼も後を追うと肩を並べて一緒に帰る。




「ねぇ、一緒にいると誤解されて狙われちゃうよ」


「まあ、そん時はそん時。一応ボディーガードは検討した方が俺は良いと思うけど」



「………………」



「……まあ……」


「あんたに何かあったら悲しむの俺じゃなくてファンのみんななんだから。それ頭に入れておいた方が良くね?椎菜 魅琴さん」




優しく微笑むと頭をポンとされた。




ドキン




≪ヤバイ≫



私の胸がざわついた。































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