第9話 廃墟に佇むホテル〜チェックアウト後は…

「ありがとうございました。貴重な経験をさせて頂きました。こんな夢のような時間を忘れません。これで最後と思うと寂しくなりますが、あやめさんを含めホテルのスタッフには感謝致します。」

「いえいえ、これもよしさんが美砂さんを愛していたからですよぉ。まだまだ、こちらでは寿命がありますから全うして下さいねぇ?」

「そうですねぇ…。では、失礼します。」

カラン コロン〜 カラン コロン〜…


「いやぁ、素敵な2人ですねぇ?」

「そうねぇ。久しぶり、燃え上がるような愛を提供したかったけどなぁ…」

「しょうがないよぉ…。奇跡が起こったのもハガキが届いたからなんだからなぁ。」

「支配人はこのようなゲストを黄泉の国に連れていく使命があったとは知らなかったなぁ…。」

「そうだねぇ…でも、このようにうまくいくケースは稀なケースだよぉ。たいていは誘惑に負けてしまったり、現実に合うと燃えていた愛の炎が消えてしまい喧嘩になったり、憎しみになる事もあるんだよぉ。」

「そうなんだぁ。恋をするのも命がけなんですねぇ?」

「違うよぉ。命がけというよりも運命なのさぁ。」

「なるほどなぁ…運命かぁ。」



一方、その頃

「おい、死ぬなぁ!よしさん?よしさん?」

「よしさん…死なないでぇ?私は恨んでなんかいないよぉ…」

「よしさん、美砂さんとの間には子供がいたんだぁ!せっかく、今日逢えるんだよぉ。死ぬなよぉ。」

「私よぉ。美香よぉ。私は生まれながら孤児院で過ごしたけど…お父さんにやっと、やっと逢えたんだから目を開けてよぉ!開けてよぉ!頼むから…私にお父さんと呼ばせてよぉ…」


「うぅ…。ハァハァハァハァ。」

「先生呼んで来い!急げ、よしさんが息を取り戻したぞぉ。」


バタバタ ドタドタ…

「先生、呼吸があります。血圧、脈拍、血中酸素濃度…異常なし。」

「聞こえますか?」

「はい。」

「下がって、下がって…」




「大丈夫です。皆さんどうぞ?」


「あれぇ、お前達何してるんだぁ?どうした?」

「どうした?って…、お前はさっきまで危篤状態だったんだよぉ?」

「良かった!一命を取りとめて!」

「えぇ?どう言う事だか、さっぱり解らないなぁ。」

「おいおい、久しぶりによしさんに逢いに行ったら…新聞が3日分ためていて、大家さんに鍵を開けて入ると、遺書?メモがあるじゃないかぁ。「これから、愛する美砂さんに逢いに行きますって…」

遺書にしてはメモだから、複雑だったけど…そう言えば、昔、好きだった美しい美砂さんの話を思い出してなぁ。そう言えば白血病で死んでたなぁ…っと

顔が真っ青になったよぉ。これは自殺だと思ったよぉ。

でも、テレビはついているし、電気はついているだろ?

不思議に思っていたら、よしさんと美砂さんとの間に子供がいて…なんだぁ、美香さんだったが訪問するしよぉ。

でも、俺は嫌な予感がしてよしさんの家族や親戚などに電話を入れたよぉ…そしたら、テレビから長野県の山中に車が崖から落ちたニュースが流れて、警察から連絡が入りこの病院に来たって訳なんだよぉ。」

「えぇ、そんな事があったのかぁ…知らなかったなぁ。」

「おいおい、マジかぁ?ところで、美香さんは初めてお逢いするんだろぉ?」

「初めまして、こんにちは。私は生まれてすぐにお母さんが亡くなりました。白血病だったと聞いておりますが…生まれてすぐに、孤児院に入りました。名前は笹村 美香です。70歳になります。母親の名前は笹村 美砂です。私は自分の生い立ちが知りたい。せめて父親だった人に逢いたいと思いました。30年前に祖母が他界しました。私を孤児院に入れた人で恨んでいましたが…孤児院を出てからは家庭の事情を知って一緒に生活をしてました。死ぬ間際に父親の名前を最後に教えてくれました。中村 義雄さんが父親だと…高校の同級生だった事や母親が愛していた人だと教えてくれました。私は、その場で泣き崩れました。すぐに、中村さんの居場所を発見しましたが、幸せの家庭がありました。私は人生に踏み入れる事はしたくないと思いましたが…出逢った事がない母親が枕元に現れて「私の変わりに逢いに行って…中村 義雄に! 」と言われ家に行きました。そうしたら、高校時代の同級生の米村 雁治郎さんに逢って一緒に病院に行ったのです。」

「よしさん、お前には子供もがいないと思っていたけど…まさかなぁ。おまえと美砂には子供がいたとはなぁ。」

「そうだったのかぁ…。美香さん、私はその事実を今、知りました。本当に長い間、一人にしてしまい申し訳ない。謝っても許される事ではないが許してもらいたい。」

「良いのよぉ。私は、孤児院に入ってから祖母がいる事を知ったのですから、孤児院を出てからは祖母と一緒に生活をしました。母親が大事にしていた写真や手紙がありました。父親はすでにいないと言われていたので祖母が父親であり、母親でした。だから不自由な生活はしなかったのです。」

「そうだったんだぁ。でも、逢いに来てくれて有難う。」

「よしさん?」

「なんだい?」

「お父さんと言ってもいいですか?」

「もちろんだよぉ。」

「お父さん…。」

「美香…。」




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