第7話 廃墟に佇むホテル〜時が止まった瞬間
「ほらぁ、鏡を見てご覧なさい?よしさん?」
「えぇ!どうなっているんだぁ?美砂さんに出逢った当時のままなんですねぇ?ビックリしましたよぉ。」
「そうねぇ…。今日は特別な日ですからねぇ?私は亡くなったあの当時のままですが…美佐江さんからあなたの事を聞きました。正直、恥ずかしくて、うれしくて、とても逢いたかったです。」
「私も、すごく逢いたかったのですが…逢えない事も解っていました…」
「そうですねぇ…。私もよしさんにお逢いする事が出来ないと思っていました…しかし、よしさんが「鏡花水月の花言葉喫茶店」に偶然、入店した時に奇跡が起きました。私からあなたにハガキを送り出逢える事が出来ました。美佐江さんからハガキを譲って頂きました。正直、何度もお断りしましたが…美佐江さんが「あなたの事を心の底から愛していたのぉ!私は一緒に過ごす事が出来て嬉しかった。でも…あなたはケジメをつけて欲しいのぉ!って…」
「そんな事があったのですねぇ。有難うございます。」
「でも…ごめんなさい。真実を話さないといけませんねぇ?私はあなたが嫌いでした。白血病になって…私は救われたと感じていました。」
「えぇ?どうして?」
「私は病院に入院するまではよしさんが好きでした。しかし、私が体調を壊し始めてあなたの束縛に強い拒絶反応を感じるようになりました。あなたは気付かずに病院に駆けつけてくれましたが…私は正直、うんざりしてました。同じ病院に入院していた匠さんが好きだったのです。しかし、匠さんは私よりも2ヶ月も前に亡くなりました。」
「そうだったのですねぇ?知りませんでした。ずっと好きだった私は馬鹿ですねぇ?本気になってしまいました…こんな結末になるなら知らない方が良かったですよぉ。どうして?逢ってくれたのですか?」
「どうして?それはあなたが私の為に、命日になると花を手向けてくれたからよぉ。「有難う」の一言を言いたくて…」
「えぇ…そんな!そんな事も知らずに私という男はなんてぇ…最低な男なんだぁ!ごめん愛してしまって…でも、好きでたまらなかった。この気持ちをどう償えば良いのかぁ…教えて欲しい。」
「謝らないでぇ!私はやっぱりあなたが好き。私を一途に愛してくれた。あなたが好きだった…ありが…とう。バタン」
「どうした?大丈夫なのかぁ…美砂、美砂、美砂、みぃ〜〜〜さぁ!!誰か助けて下さい!誰かぁ?いませんかぁ!」
ハイ、カット!
「良かったよぉ。すごく良かったよぉ。最高のエンディングになったよぉ。身に迫る演技!最高だなぁ!」
「パチパチパチパチパチパチパチパチ…この映画の上映楽しみねぇ?」
「いやぁ、これは名作になりますなぁ?」
「よしさんねぇ…。黄泉の国にきた時は是非ともうちで俳優をお願いしますよぉ。黄泉の国プロダクション。黄泉プロです。」
「驚いたぁ?実はねぇ…こっちでは女優をやっていたのぉ。」
「えぇ?どういう事?もしかして、サプライズ?」
「そうなるかなぁ…。ドッキリ大成功って…感じかなぁ?でも、この映画のラストは私が好きだった人とやりたかったから演技にも熱くなったなぁ。有難う。」
「もしかして、さっきのは?」
「アドリブよぉ。本当はすごく!すごぉ〜〜〜く、逢いたかったんだから。待たせ過ぎよぉ!」
「そうだったんだぁ。ごめんねぇ?」
「でも、今は幸せよぉ。」
「こちらの世界では結婚は?」
「もちろんしていないわよぉ。よしさんと結婚する事しか考えていないわよぉ。」
「えぇ?本当に?うれしいなぁ。」
「でも…黄泉の国に入れるのは今日だけなんだよぉ。」
「知っているわぁ。だから、今日を思いきり楽しみましょ?」
「そうだねぇ。まずは何処に行こうかぁ?」
「それよりも、まずは着替えて来なきゃねぇ?」
「このエレベーターに乗って最上階の部屋を用意したわぁ。では、私は三ツ星レストランの「ノエル」でお茶しているから、30分後に来てねぇ?」
「解ったよぉ。シャワーを浴びて急いで降りて来るよぉ。」
「美砂様大丈夫ですか?ちゃんと戻って来れますか?」
「どうかなぁ…戻って来れると信じているわぁ。」
「よし様、ようこそ、オリエンタルホテルへ。私はベルボーイをしております。アンドロイドのZU1976です。それでは、お荷物をお持ち致します。お部屋はデラックススイートルーム2401です。最上階のお部屋です。では、ご案内致します。」
「あぁ、宜しく。すごいですねぇ?このエレベーターは座席付きですか?」
「そうですか?どのホテルも今は座席付きですが…あぁ、良かったら、お茶でも飲みますか?これから長いですから…」
「えぇ?どういう事ですか?」
「えぇ?もしかして…知らずに乗ってますか?しまったなぁ…こちらがホテルの館内案内図になります。」
「えぇ!なんだぁって…地上24階、客室2400って…本当何ですか…。ワンフロアー1キロって…。」
「ですよねぇ…驚きますよねぇ?客室最上階は24キロ先になりますなぁ。ですので…2時間以上はかかるかと…」
「ちょっと、ちょっと、待てって…。という事は戻って帰ってきたら5時間以上かかるのかぁ…。」
「ですねぇ…。それから…実は。」
「もしかして、部屋に辿り着くには2時間とか言わないよなぁ?」
「流石はよし様。正解ですねぇ。」
「ちょっと、ちょっと、待てって…。頼む降ろしてくれないかぁ?」
「いやぁ、無理ですねぇ…。この世界のエレベーターは観覧車のように2人乗りですし、私が案内する事になっておりますので。それから、途中で停めるとかなりの損害賠償請求がかかりますけど…大丈夫ですか?まぁ、3 人乗りもあるんですが…」
「えぇ!あるんかい?だとしても、美砂は私に恨みでもあるのかぁ…。」
「ちょっと、ちょっと、聞こえているわよぉ。恨みなんてないわよぉ。ただ、黄泉の国を満喫して欲しくて…」
「そうなんだぁ。でも…30分では戻れそうにないよぉ。ごめんなぁ。」
「いえいえ、大丈夫よぉ。ゆっくりとお茶を飲んで待っているわぁ。」
「ゆっくりお茶を飲むって…魔法瓶で飲むのかぁ…。」
「そうかもねぇ?では、またねぇ。」
「はぁ…諦めて最後まで乗るよぉ。それにしても、すごいエレベーターだなぁ?誰も文句は言わないのかい?」
「そうですねぇ…。誰も文句は言わないですねぇ。この世界では時間は無限ですし、高さも広さも無限ですからねぇ?それに人口も現世の10倍ですから…単純に760億人程ですからこのぐらいのサービスをしなければすぐに倒産しますよぉ。」
「えぇ、そうなんだぁ…。この世界にも貧富の差はあるのですか?」
「そりゃもちろんありますよぉ。黄泉の国は現世の10倍以上に貧富の差はありますよぉ。その為、現世での行い一つで身分や職業が決まってしまいますよぉ。」
「そうなんだぁ…。すごい世界なんだぁなぁ…。」
「ですねぇ…。それに、天国と地獄と言いますけど黄泉の国に天国と地獄はありますよぉ。」
「えぇ?そうなんですか?知らなかったなぁ。」
「そろそろ、黄泉の国の地上に出ますよぉ。」
「えぇ?まだ、地上ではないのですか?」
「そうなんですよぉ。黄泉の国建築基準法がありまして地上から10キロまで何ですよぉ。その為、オリエンタルホテルも例外とはいかずに24階のうち、14階から地上の日の光を浴びる事が出来るのですよぉ。本来なら地上に入口を作ればよいのですが…流石にセレブと解ると反感をかいますのでそのような作りになっております。」
「なるほど…。とはいえ、不便な作りだと苦労はしますよねぇ?」
「いやぁ、そんな事はないですよぉ。セレブは一瞬で辿り着きますから。」
「えぇ?そうなのぉ…?」
「まぁ、この世界はそんな世界ですよぉ。とはいえ、現世でお金持ちだった人程、この世界では貧しくなりますが…。心が清らかな分、財産が入るのですよぉ。」
「そうなんだぁ。美砂さんはどうなんですか?」
「美砂さんはこの世界ではセレブですよぉ。今は女優として売れてますねぇ。」
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