第6話 廃墟に佇むホテル〜外界からゲストがやってきた。①
「こんばんわぁ。」
「今日は急遽、夜勤に入ってもらって有難う。」
「いえいえ、大丈夫ですよぉ。黄泉の国ってあるんですねぇ?」
「もちろん、ありますよぉ。ここは唯一、黄泉の国と現世をつなぐ空間にあるホテルなんです。その為、黄泉の国からの予約が入るとこのホテルは現世には存在しなくなるんです。もちろん、黄泉の国から現世に宛てたハガキを持った人だけが見えるのです。といっても、現世とは言っても過去にあった現世と言った方が正しいけど…」
「へぇ、そんな事って…あるんですか?ないでしょ?それに、ここは現世でしょ?私が違う世界から来たみたいに聞こえるけど…。私は、ここに就職する為に、求人票を見て来ましたけど…」
「なるほど、君がいた世界は存在していると感じているのかなぁ?もしかして、今の話を信じていないですねぇ?なら、今からこのホテルを1度、この扉から出て振り返ってこのホテルを見てみて下さい。ついでに周囲もみると良いかなぁ?かなり驚くと思いますが…」
「では、ちょっと行ってきます。さてぇ、振り返って見るかなぁ。えぇ?えぇ!!何も無くなっている空き地になっているって…どうなっているんだぁ。ここは廃墟の街?駅も廃墟って…どうなっているんだぁ。幻の街なのかぁ…。あり得ないって…あるわけないよぉ。確かに、ここに来る為に電車を乗って来たんだぁ!あり得ないよぉ。僕には友人もいなければ知り合いもいなかった。でも…僕の世界はここに来るまではあったんだぁ!あり得ないよぉ。きっと、僕の他に人がきっといるはずなんだぁ。きっと、きっと、いるんだぁ!捜さなきゃ、生きている人は必ずいるはずだぁ!きっと、きっと、この世界には人がいるはずなんだぁ!しかし、待てよぉ。僕は存在しているのかぁ…どうなっているんだぁ!よし、とりあえず人を探してみよう…きっといるはずだぁ。」
「誰かいませんかぁ?はぁ、はぁ、はぁ…周囲を走っても、廃墟の街には誰もいないなぁ…。まだまだ、諦めたくないなぁ…。たぶん、もっと、もっと先に行けば…きっと、人がいるはずだぁ。」
「だめだぁ…。チクショー!誰もいないじゃないかぁ!2時間も歩いても、荒れた土地じゃないかぁ!人も建物も何もないなんてぇ!ビルや家や店も車もすべてが破壊されているなんてぇ…どうなっているんだぁ!誰か助けて下さいよぉ!誰か!いませんかぁ!」
「あやめ、そろそろ連れて帰ってもらえるかい?」
「そうですねぇ。あまりにショックを受けているみたいだから…」
「そうですねぇ…。」
「ごめんねぇ。河井さん…」
「あぁ…あやめさん!いたんですねぇ?この世界はどうなっているんですかぁ?あやめさん、僕は…僕は存在しているんですかぁ。教えて下さいよぉ。」
「あなたは存在しているわぁ。でも、あなたがいる世界はすでにないのよぉ。あなたがここに数日いた間にあなたがいた現世は破壊されたわぁ。戦争と災害、ウイルス蔓延と世界は自分達によって破壊したのよぉ。とはいえ、すでにこの世界では数日でもあなたがいた世界では10年が経過しているわぁ。たまたま、あなたがこの世界に偶然きた事により、命は救われたのぉ。私達がいる世界は黄泉の国と現世をつなぐ世界なのよぉ。これから来るゲストは過去からの訪問者。河井さんが辿り着いたこの世界はここの街が廃墟になる前の世界よぉ。つまりはあなたがいた世界ではあなたしかいないのよぉ。しかし、あなたはこの世界では初めての住民なのよぉ。これから先は過去の世界から選ばれた新しい住民がやって来るわぁ。世界が滅びる前の世界から。さぁ、一緒に戻りましょう。」
「そんなぁ。あり得ないよぉ。という事は僕が求人票を持ってこの世界に偶然に来て戻ったら10年経過していて、その間に世界は破壊されていて、一人になっていたという訳ですかぁ?それも、現世での求人票にたまたま、この世界の求人票があって偶然にも手にしてしまったのですか?そして、この世界は黄泉の国と現世の間の世界でここが現世にあった廃墟寸前の街になっている。黄泉の国から過去の現世の住民に会う為にやって来る時にはここの世界は存在しなくなり外は誰もいない廃墟の街になる。唯一見る事が出来るのは過去からの訪問者だけと言う事ですかぁ?」
「そうねぇ。よく短時間で理解出来たわねぇ?すごいなぁ。もちろん、黄泉の国からハガキを出しているから黄泉の国の人と過去の世界の人が逢えて黄泉の国で1日を過ごすけど…。まぁ、鏡花水月の花言葉喫茶店の逆バージョンねぇ?」
「えぇ?何ですか?鏡花水月の花言葉喫茶店って?」
「もう、知らないのかぁ…これよぉ。「鏡花水月の花言葉喫茶店〜澤村あやめ」ねぇ。この本は売れたけど…」
「なるほど…暇になったら読みます。」
「あぁ、そうそう、たまたま、ここの世界の求人票を見る事が出来たが正解かなぁ?選ばれたからねぇ?すごい確率よぉ。すごいなぁ?」
「すごいなぁ?って?以前の世界に戻して下さいよぉ。例え、10年後に滅ぶ世界でもこの目でみたいですよぉ。」
「気持ちは解るけど…解ったわぁ。あなたが望むなら希望を叶えなきゃねぇ?では、その前にこれを見て。ピカァ!」
「あれぇ、ここは何処ですか?花畑が広がっていて、綺麗なところですねぇ?」
「ちょっと、戻るわよぉ。ゲストが来ますから…」
「はい、行きましょう。黄泉の国のゲストですねぇ。」
「ただいま。」
「どうだった?」
「えぇ?何が?」
「もう、忘れたのぉ?喫茶店で作ったコーヒーの味よぉ?」
「まだまだ、あやめのコーヒーはダメなんじゃないかぁ。もう、おじいちゃんたら!」
「コーヒーなんて飲んだかなぁ?」
「もう、ひどいなぁ。」
「はい、はい、2人とも座って、座って。黄泉の国のゲストが来る前に夕食でも食べよう。」
「ですねぇ?」
「いやぁ、美味しいですねぇ?このハンバーグは手作りですかぁ?」
「いやぁ、私は料理の才能は残念ながらないなぁ…」
「えぇ?誰が作ったのですかぁ?」
「これかい?このハンバーグはあやめのお兄さんが作ったんだよぉ。それも、黄泉の国では三ツ星レストランで有名なんだよぉ。」
「そうなんですか?行ってみたいなぁ。黄泉の国に…」
「そっかぁ?すぐにでも行けるけど…戻れなくなっても知らないぞぉ。」
「えぇ?黄泉の国に行ったら…戻れなくなるって?」
「大丈夫だよぉ。パスポートがあるでしょ?制服のポケットに入っているでしょ。」
「えぇ、これですか?」
「そうそう、そう、それだよぉ。紛失しないようにねぇ。」
カランコロン〜…
「あぁ、お客様ですよぉ。」
「あのぅ、先週…このハガキが届きまして…ここで間違いはないでしょかぁ?」
「あらぁ、お久しぶりですねぇ?お元気ですか?」
「えぇ?えぇ!もしかして、あやめさん?あやめさんではないですか!ビックリですよぉ。」
「お久しぶりですねぇ?中村 義雄さん?」
「だいぶ歳を取りましたねぇ?今はおいくつになりました…そうですねぇ…あの時あったのが58才でしたから30年になりますねぇ。」
「そっかぁ…あれから、30年も経過するんですねぇ?」
「えぇ?どういう事ですか?」
「だから、詳しい事はこの本に書いてありますよぉ?」
「えぇ…?そんな事がぁ…なるほどなぁ。」
「では、ここでチェックインをお願い致します。」
「はい、有難うございます。」
「では、こちらの扉からこちらに来て下さい。」
「えぇ?すごい、すごいホテルですねぇ?先程のホテルとは思えない豪華なホテルですねぇ?」
「お客様がロビーでお待ちですよぉ?」
「えぇ?何処にいるのかなぁ?」
「あそこに座っている赤いドレスを来た女性です。」
「あのぅ?すみませんが…ハガキをくれた笹村 美砂さんですか?」
「お久しぶりねぇ?よしさん?」
「えぇ!本当に美砂さんですか…逢いたかった。」
「私もよぉ。元気そうで何よりよぉ。」
「そんな事はないですよぉ。足腰は曲がって、顔はシワだらけになり、白髪もはえて醜い老人だよぉ。それにしても、美砂さんは相変わらずに綺麗ですなぁ。」
「もう何を言っているのぉ。あなたの方こそたくましい好青年のままよぉ。」
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