第5話 廃墟に佇むホテル~初出勤。

「おはようございます。」 


「来ましたよぉ。河井さんが来ましたよぉ。」

「えぇ?えぇ!マジかぁ。あり得ないなぁ。たいていは、恐ろしくなって飛び出して急いで帰るのになぁ。」

「ですねぇ?」

「という事は…ご主人様として?」

「みたいだなぁ。受け入れた事になるなぁ。」

「これからが大変だなぁ。家計のやりくりが大変になるなぁ。」

「まぁ、給与明細をみたらビックリするだろうけど…それ以上に蛇口をひねるように消えていきますけど!といっても、河井さんがいた世界はないからなぁ…」

「ですねぇ?まぁ、それは言わない事。とはいえ、この世界ではお金持ちになりますけど…」

「そうだねぇ?選ばれた事が正しければこの世界では生きづらさがないと感じるかも知れないねぇ?」


「おはようございます。今日からこちらでお世話になります。河井 純一です。年齢は29歳です。ホテルではお客様を大事にして…」

「大丈夫よぉ。それ以上は言わなくても良いのよぉ。私達は人財として受け止める覚悟があるわぁ。辛い事があったからこそ優しくなれるのよぉ。ありがとう。緊張しないで大丈夫ですよぉ。」

「そうなんですか?今まで、自分の事を伝えなければ相手にされないと思ってました。」

「なるほどねぇ?たぶん、それは真面目な性格を知って遊んでいたようねぇ?」

「えぇ?そうなんですか…知らなかったなぁ。馬鹿にされていたんですねぇ…。どうりで、次の日に行くと誰一人として近づかなくなったんだぁ。」

「そうだったんだぁ。馬鹿にしているとはその場にいないから解らないけど私達は違うわよぉ。私達の方から近づきますよぉ。少しづつ私達の方から質問するからゆっくりとコミュニケーションを取りながら仲良くなりましょう?」

「ありがとうございます。」

「改めまして、こちらでおじいちゃんの仕事の手伝いをしているフロントチーフの澤村あやめです。

といっても、私の他には…いませんけど。

慣れたら河井さんがなってもらうとうれしいなぁ?」

「えぇ…そんなに偉いポジションはなれませんよぉ。」

「大丈夫よぉ。自分を信じる事は出来るでしょ?」

「まぁ…自分を信じる事は出来ますけど…」

「なら大丈夫よぉ。自分を信じる事が出来れば自信になるでしょ?」

「あぁ…確かに、「自信」になりますねぇ。少しだけ「希望」になりました。ありがとうございます。」

「いえいえ、こちらこそ、ありがとうございます。では早速、制服があるから着てみてもらっても良いかなぁ?むこうに更衣室があるから着てみてもらっても良いかなぁ?それとこれがロッカーの鍵ねぇ。」

「あぁ、ここだなぁ。鍵を開けなきゃ。ガチャ。」

「ようこそ、君が有名な河井様ですねぇ?」

「えぇ、ロッカーになぜ人がいるんですかぁ?」

「どうも、どうも、ここのロッカーの支配人をしております。ロッカー伯爵です。こちらの世界では小さなロッカーですが本来はサザンテラスロッカー宮殿エリザベス管理室105室です。」

「えぇ?よく解らないなぁ。着替えても良いかなぁ。荷物もあるけど…置いても良いかなぁ。」

「もちろんですよぉ。ご主人様。ご主人様の貴重なお荷物は厳重にこのロッカー伯爵が丁重に扱わせて頂きます。では、行ってらっしゃいませ。」

「では、着替えて行かなきゃ。えぇ、すごいなぁ。丁度良いなぁ。寧ろ、服がまとわりついているような感じだなぁ…」

「だろ?フィットするよねぇ?」

「えぇ?喋るのですか?」

「そうだなぁ。通常は覚醒しないけど…ご主人様が着たら覚醒されるんだよぉ。」

「ちょっと、それは気を遣うなぁ。寧ろ、喋る事がない制服の方が有り難いなぁ…あり得ないでしょ。監視されているみたいで怖いなぁ。」

「えぇ、そんな。怖いって…初めて言われました。そんな事は言わないでよぉ。やっとお仕事にありつけて初出勤で家族も泣いて嬉しがっていたんだから…せめて、数週間でもよいから一緒にいてもらえないかなぁ…。」

「そうなんだぁ。この世界では初めての事が多くてごめんねぇ…。初対面で「怖い」は失礼だったねぇ

。もしも、君の立場ならきっと傷つくよねぇ?ごめんねぇ。そんな理由も知らずに君を傷つけてしまって…大丈夫だよぉ。ここで頑張っていくから助けてもらっても良いかなぁ?」

「有難うございます。やっぱり、河井様ですねぇ?選ばれただけの事はありますねぇ。とても名誉なお言葉です。もちろんですよぉ。ご主人様がここで極めたいなら一緒に歩んでいきましょう。」


「どうかなぁ?気にいってもらえたかなぁ?」

「はい、最高です。」

「でしょ?3D プリンターで型を取ってから何度も動きを確認したからねぇ?」

「ところで、こんな素敵な制服を作るのは大変でしたよねぇ?費用も掛かりましたよねぇ?」

「お金の話は良いのよぉ。寧ろ、恩返しと言った方が良いかもねぇ?」

「そうなんですか?よく意味が解りませんが…」

「あぁ…、気にしないでねぇ。とにかく、お仕事の内容を説明しなきゃねぇ?」


「まずは、こちらがフロントバックになります。通常は予約がくるとネット画面で確認して、予約情報をプリンターで出力して、フロントにある3日分のゲストリストに記入する事になる。それ以降はこちらにある予約台帳に記入する事になるわぁ。」

「なるほど。」

「あぁ、しまった。通常の業務を伝える前に1日の流れを説明してなかったわねぇ?

9時 出勤したら、朝食の後片付け。

9時30分〜10時に夜勤者からの引き継ぎ

10時 フロントでチェックアウト業務と電話対応。

11時 チェックアウト業務後のレジ締め

11時30分〜12時までに入金。ここに入金します。

12時 札を掲げて昼食。フロントバックも閉めます。

13時 当日のゲストリストを記入して部屋割りをします。

14時  ベッドメイキングと掃除

15時 おやつタイム

16時 夜勤者が来て引き継ぎ。チェックイン業務。

16時〜19時までは電話対応とチェックイン業務。

23時 最終チェックイン

23時〜6時 仮眠

6時〜朝食作り

7時〜朝食

8時〜11時 チェックアウト業務。こんな流れかなぁ。」

「なるほど。大変そうですねぇ?」

「そんな事はないわぁ。たいていは暇を潰しているかなぁ。寧ろ、夜になったら特別なゲストが来るからその対応が1番の業務になるわぁ。」

「よく解らないけど…」

「そうねぇ…。おじいちゃんが基本夜勤だから、教えてもらってねぇ?」

「あちゃ…予約が入ってきた。久しぶりの予約だわぁ。えぇ!黄泉の国からって…ちょっと、ちょっと、これは大変になるなぁ。それも、3日後って…。あり得ないなぁ。」

「河井さん、突然で申し訳ないのですが…明後日に夜勤入れます。」

「えぇ、大丈夫ですけど。」

「有難う。ちょっと、おじいちゃん起こして来るわぁ。」

「えぇ、今日はおじいちゃん夜勤ですよねぇ?大丈夫何ですか?」

「大丈夫よぉ。黄泉の国のゲストが来る時は事前に通常のゲストの予約は入れないです。その変わり、黄泉の国のゲストに会いに来ますけど…。」

「ザワザワ。黄泉の国からですって…」

「えぇ、ペンが喋りだすとわぁ。」

「本当かい?それはビックリだなぁ。久しぶりに大変になるなぁ。」

「えぇ、次は呼び鈴って…」

「おいおい、河井様は驚かないのかい?」

「ちょっと。おいおいではないでしょ?」

「あぁ、ごめん、母ーちゃん。」

「すいません、まだ、この年齢で言葉遣いが悪くて。私は、こちらに勤めて30年以上のペンですが…久しぶりに職場に連れてきまして。」

「あぁ…こちらが、黄泉の国専用のフロントになってまして。ここにある、フロントにある部屋の鍵、ペン、呼び鈴、レジなどは黄泉の国の予約が入って3日前に生命が宿りまして集められるんです。」

「へぇ、そうなんですねぇ?ここに集められる前はどちらにいるのですか?」

「私達ですか?黄泉の国にあるオリエントホテルです。」

「はぁ?えぇ?黄泉の国って…」

「ちょっと、ちょっと、喋らない。久しぶりにこちらに来て頂き誠に有難うございます。今回、黄泉の国から現世でお逢いする事はゲスト様には大切な事になります。もとは、鏡花水月の花言葉喫茶店を利用して頂いた方ですので丁重にご案内して下さい。今回が最後の出逢いになりますので宜しくお願い致します。」

「はい。」

「河井さん、今日は黄泉の国からの予約が入ったので今日は早いけど…終了ねぇ?」

「えぇ?良いのですか?退勤時間までかなり時間がありますが…」

「大丈夫よぉ。時計を見て?」

「えぇ?えぇ!19時って…!」

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