第3話 廃墟に佇むホテル~歓迎会

「そろそろ、17時になるなぁ…。歓迎会って初めてだなぁ。緊張するなぁ。この絵を右に動かすって…」

「えぇ!動いた。本当だぁ。」

「そのまま、下に降りて来て。」

「はぁ、はい。テクテク…ガチャ。」

「パァン、パァン!パチパチ。ようこそ!いらっしゃい。よく来てくれたねぇ?ありがとう。」

「どうぞ、どうぞ?こちらのソファへどうぞ。」

「初めまして、改めて自己紹介しますねぇ?サザンクロス支配人の澤村 輝樹です。今日は、久しぶりに新しいスタッフを受け入れる事が出来ました。みなさんもご存知ありますが駅前はシャッター商店街となり、唯一の路線も廃業寸前で各駅停車しか泊まりません。近くのお店まで車で20分、道の駅まで30分と不便な立地にあります。タクシーもホテルから連絡を入れなければ来ません。とはいえ、災害時には使用されなくなった駅前広場は20年前には多くの人が仮設住宅で生活しました。今は、誰一人して生活はしておりませんが、大切な場所になります。その為、この地域にはなくてはならないホテルとして存続しております。こんな田舎ですが本当によく来て下さいました。ありがとうございます。」

「あぁ、はい。宜しくお願い致します。」

「こちらが、孫の澤村 あやめになります。」

「こんにちは、河井 純一さんですねぇ?先程はどうも。」

「あぁ、どうも初めまして、宜しくお願い致します。」

「次にこちらがホテルの裏で自立支援施設を運営しているNPO法人ナチュラルハウス 社会福祉士 竹中 晴子さんです。」

「初めまして、こんばんわぁ。竹中 晴子です。」

「はぁ、初めまして、こ、こんばんわぁ。かぁ、かぁ、河井 じゅ、純一です。」

「こちらが、猿渡君です。」

「どうも、猿渡です。」

「はぁ、はぁ、初めまして、こ、こんばんわ。河井 純一です。宜しくお願い致します。」

「緊張しなくても大丈夫だよぉ。ここにいる人はみんな仲間だよぉ。気楽にねぇ。」

「はい、あぁ、ありがとうございます。」

「では、これより、河井 純一さんの歓迎会を初めます。パチパチ。では、飲み物をグラスに入れて下さい。」

「私はねぇ…」

「知ってますよぉ。シャンパンですよねぇ?竹中さん。」

「猿渡君はアルコールで失敗しているから…烏龍茶かなぁ?」

「ちょっと待って下さいよぉ。めでたい席ではビールって決まってますよぉ。」

「そうねぇ…。では、一杯だけねぇ?」

「ありがとうございます。」

「おじいちゃんは?」

「そうだなぁ。久しぶりにビールでも飲むかなぁ。」

「河井さんは?」

「では、同じものでぇ。」

「あやめさん、私が注ぎますよぉ。」

「ありがとう。猿渡君。」

「では、みなさん、グラスを手に取って、サザンクロスホテルのこれからの繁栄と河井君のこれからの一歩を祝して乾杯。」

「カチャ、カチャ…乾杯。」

「あぁ、そうそう、食べ物を用意してなかったねぇ?あやめ宜しく。」

「はい、どうぞ?ステーキ、ピザ、寿司、唐揚げ、サラダ、カレー、他には?」

「えぇ?すごいですねぇ。一瞬で出るなんてぇ、この机はどうなっているのですか?」

「良いじゃないのぉ?河井さん。知らない方が素敵でしょ?」 

「そうですねぇ。」

「あやめさんありがとう。これ以上は食べられないなぁ!大丈夫よぉ。」

「では、刺身の盛り合わせとポテトをお願いします。」

「コラァ。猿渡君遠慮しなさいよぉ。」

「大丈夫ですよぉ。竹中さん。」

「すいませんねぇ…あやめさん。」

「それでは、まずは、自己紹介をしましょうか?まずは、私からねぇ。私は澤村 あやめです。すでに、この世に存在してませんが…この世界で楽しく「鏡花水月の花言葉喫茶店」を営業してます。今回は、おじいちゃんのホテルのお手伝いで来てますが宜しくお願い致します。」

「パチパチ。あやめさんが来なくて寂しかったなぁ。」

「ありがとう。猿渡君、竹中さん。」

「えぇ?この世に存在していないとは…?」

「後に解るわよぉ。」

「次は、竹中さん、お願い出来ますか?」

「はい、皆さんこんばんわぁ。ホテルの裏で自立支援施設ナチュラルハウスを運営している社会福祉士の竹中 晴子です。私はこの世に存在していますが…ホテルの裏の畑を借りて農作物を自立支援施設の利用者ともに作っております。時々、お手伝いに来てます。」

「次に猿渡君お願い致します。」

「初めまして、こんばんわぁ。人間と猿のハーフです。といっても、桃太郎の1番弟子の猿の子孫ですので鬼ヶ島からの財宝があるので贅沢してます。」

「えぇ?そうなんですかぁ!」

「もう、猿渡君、冗談はやめなさい。」

「すいません。改めて自己紹介します。自立支援施設のナチュラルハウスの利用者で、今まで、自動車工場の派遣社員で働いていましたが、リストラにあって、ナチュラルハウスで自立支援を目指してナチュラルハウスの畑で汗を流しております。畑で育てた農作物を道の駅で販売してます。それ以外に、サザンクロスホテルでお手伝いをしたり、ベッドメイキングなどをしております。宜しくお願い致します。」

「最後に、私ですねぇ?サザンクロスホテル支配人の澤村 輝樹です。すでに、80歳を過ぎた老人ですが宜しくお願い致します。」

「えぇ?80歳を過ぎているのですか?冗談ですよねぇ?どう考えても40歳にしか見えないですが…」

「そうかなぁ?これでも…?」

「えぇ?えぇ!!マジですか?急に老けましたけど…。」

「あぁ、地下にあるこの部屋だけは元に戻るんだぁ。とはいえ、あやめのおかげで若くなるけどねぇ…。」

「えぇ、どういう事ですか?」

「あやめ、みんなに見せてあげて?」

「では、空間を移動しますよぉ。」

「おぉ!待ってました。」

「えぇ?地面が上がってますよねぇ?ここは地下にある部屋ですよねぇ?どんどん、上がってますよぉ。どうなっているんですか?えぇ、壁や天井が消えて、床もなくなっていますが…」

「初めての人には、ビックリするからあんまり、上昇しないでねぇ?」

「解っていますよぉ。晴子さん。」

「はい、下を見て下さい。ここから、見えるのはサザンクロスホテルですよぉ。小さいホテルと小さな駐車場、小さな畑がありますねぇ?」

「あぁ、本当だぁ。サザンクロスホテルだぁ。」

「先程の地下にある部屋はあらゆるところに空間移動出来ます。とはいえ、異空間なので、この世に住んでいる人から見えません。」

「えぇ?そうなんですかぁ?手品ですか?」

「違うよぉ。」

「猿渡君…。」

「すいません、ここでの出来事の話をしてはいけなかったですねぇ?あやめさん。」

「はい、それでは戻ります。」

「すごいですねぇ?このホテルはすべてが不思議な空間なんですねぇ?」

「そうですねぇ…とはいっても、これからが本番ですけど…」

「えぇ?これからが本番って…気になりますよぉ。教えて下さいよぉ?」

「まだまだ教える事は出来ないなぁ…。ですよねぇ?みなさん。」

「そうですねぇ。まだまだ教える事は出来ないなぁ。」

「でも、これだけは伝えておこうかなぁ…。河井さんは生まれてから80歳まで生きて毎日3人とすれ違うとどのくらいの人とすれ違うと思いますか?」

「えぇ?突然、そんな事聞かれても…ちょっと待って下さい。1年365日だから、360×3で1080+15だから1095人でしょ。10年で10000人で…80年で80000人。95×10で950人。950 ×8で7200+400で87600人ですねぇ?」

「すごいわねぇ?」

「いえいえ、昔、難しい計算は端数を後で計算すれば簡単だと言われただけですよぉ。」

「なるほどねぇ。」

「ところで、87600人が意味するのは?」

「あぁ、そうだったわねぇ?では地球の人口は?」

「確か…76億人程だったようなぁ?」

「そうねぇ…そのぐらいねぇ?では、単純に割ってみて?

「7億6000千人で10%?だから、7600万人で1%だから…760万人で0.1%、76万人で0.01%、7万6千人で0.001%ですねぇ…となると…」

「はい、はい、細かい数字が問題ではないわよぉ。単純に「すれ違う事さえも奇跡」っと言いたかったのよぉ。」

「なるほど…。という事は…」

「そうよぉ。ここで携わる事が出来た事は運命かもねぇ?」

「ありがとうございます。この出逢いを大切にしようと思います。」


「では、そろそろ、時間も経過しましたのでお開きにしますかぁ?」

「そうですねぇ。」

「それでは、おやすみなさい。では、明日、9時にフロントに来て下さいねぇ。」

「はい。宜しくお願い致します。」


「それにしても、楽しかったなぁ。こんな素敵な人達と仕事が出来るのかぁ…楽しみだなぁ。」

「さてぇ、シャワーを浴びて明日から頑張るぞぉ。」

「ふぅ、さっぱりした!少しアルコールが抜けたからビールでも飲むかなぁ。

プシュッ!旨し!やっぱり、ビールはアサヒ スパードライにかぎるなぁ。こののどこし、キレって、共に最高だなぁ。つまみには笹かまぼこは最高だなぁ。そう言えば、今、何時だぁ?もうそろそろ、ミッドナイトかなぁ…パンツ1丁でミッドもないっと…ってなぁ。」

「えぇ?えぇ!マジかぁ、17時30分てぇ?あり得ないって…!!30分しか経過していないとは…。どうなっているんだぁ…」

「夢でも見ているなぁ。あぁ…疲れているなぁ。寝るとしよう。」



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