聡井さんは今日もサトい

@kokuti

チホ「生きてる意味って、、?」

12月の冷たい海風が吹く、横浜。

2人はいつもの時間にいつものカフェで待ち合わせる。


「はぁ〜〜〜…」


「おはよう、チホ。ため息なんてついて、どうしたの?」


「あ、聡井さん。おはよ〜〜」

「人ってさぁ、、なんで生きてるのかなぁ」


「お〜〜、朝からヘビィなお悩みだね」


「昨日の夜にね、ひとりでYOUTOBE見ながらストゼロ飲んでたらそんな考えが頭にモクモク浮かんできてね、、」

「なんか不安で不安で、アタマがワァァァアってなっちゃって、、」

「『あ、ヤバイ。。これバッド入るやつだ…』ってわかったから、精神を落ち着けるためにNETFLOXで、“生きてる人間の脳を食べるのが趣味のシリアルキラーが大暴れする系の映画”見てたらね、ますます考えがこんがらがっちゃって。。」


「ゆるふわな見た目とは裏腹に時折見せるイカれ具合、さすがだね。チホのそういうアンビバレントなところ、好きだよ。」


「え??…何??なんて?? んんもぉ〜〜、聡井さんの言うことは難しくて分かんないよぉ」


「あはは、ごめんごめん。それで、答えは出たの?“生きてる意味”の。」


「ううん、全然わかんない。。チホ、考えるの苦手だから。。」

ゆるくパーマをあてたピンクの毛先を指にくるくる巻き付けながら、うなだれるチホ。いつもの悩みモード発動だ。


「“生きてる意味”、か・・」

持っていたコーヒーカップをテーブルに置き、悪戯っぽい目でチホを眺める聡井さん。


「…聡井さん、、?」


「私はね、“生きてる意味”なんて存在しないと思ってるんだ」


「──え、、、えぇッッ!?」

「…ってことは、、チホも聡井さんも、生きてる意味がない、、つまり、生きる必要がないって…こと。。?」


「あっ、ええっとね。違うんだ、チホ。そう言いたいわけじゃないんだ」

今にも泣き出してしまいそうなチホの頭を、ごめんごめんと撫でながら続ける。

「“生きてる意味”が存在しないからこそ、“命の使い方”にこだわるべきだって考えてる」


「命の…使い方…?」


「そう、命の使い方。つまり死に方であり生き方のことだね。長生きしても短命でも、命はみんな一つだし、みんな自分の命しか持ってない。チホもそうだよね?」


「う、うん、、そうだね。チホはチホの命、1個しか持ってない。。」


「だよね。命の使い方は人それぞれだけれど、私はね、、」

聡井さんの長いまつ毛の奥の瞳が、きらりと光る。

「『自分がやりたいことに、どれくらい頑張れるか』ってことが、大切だと思ってる」


「…じぶんの、やりたいこと、、」


「そう。“生きてる意味”は存在しないけれど、チホも私も、死ぬために生きているワケじゃない。死ぬことは、命を使わなくなること。命を使うのは、生きるため。」


「そっかぁ、、じゃぁ、、」

考え込むチホ。ハッとして──

「『健康に生きるために命を使う』っていのはどうかな!?」

まるで散歩に行けることを確信した柴犬のように目をキラキラさせて、聡井さんに投げかける。


「なるほど。それも素敵な考え方のひとつだね。」


「でしょ!?じゃあ〜今日から健康生活はじめてみる〜、、う、あ、、でも、、そうすると・・・」

言葉の途中からチホの表情が曇りだす。

「あっ、でもそうするとアレかなぁ、、健康のためにはストゼロやめないとダメかぁ。。それはマジでツラい、、チホたぶん死んじゃう。。うぅぅ、、う''ぁ''ぁ''ぁ''〜〜ぁ!!どうすればいいのぉぉ聡井さん〜〜!!」

夏の夕立のように激しく去来するチホの感情は、いつも予測ができない。


「あはは。落ち着きなよ、チホ」

「チホ、ストゼロが体に良くないものって自覚はあったんだね。少し安心したよ」

チホをやさしく抱き寄せる聡井さん。くすくすと笑みながら、──ただ、と切り出す。

「健康も素敵なことだと思うのだけれど、私はね、『健康は生きる目的じゃなくて、命を使うための道具』って捉えてる」


「へ?? 健康が、、道具・・??」


「うん、そう。道具を手放しちゃうと命が使えなくなるけど、道具を磨くために生きているとしたら、本末転倒になっちゃうなって」

「『道具をうまく操って、命を使って何をするのか』が、何よりも大切なことなんじゃないかな?」

頭の上に「??」を浮かべて虚空を仰ぐチホを感じて、──たとえば、、と言葉をつむぐ聡井さん。


「あるところに、ストゼロが大好きな人がいました。その人はストゼロが世界の何よりも好きで、ストゼロのために生きています。毎日のストゼロの消費量は500ml缶を10本以上で・・・」


「えっ!待ってヤバ!!その人ヤッバイね!!ストゼロ大魔神じゃん!やっばーwww」

手を叩きながらウケているチホを横に、続ける聡井さん。


「ある日、『ストゼロを飲み続けるためには健康な体が必要』と考えたストゼロ大魔神。その日から、ストゼロを飲むことをやめてしまいました。」


「えっ、、待って。。。」


「世界の何よりも好きだったストゼロを失ったストゼロ大魔神。体は健康になったけれど、みるみる間に正気を失った彼は、、その後、、」


「やだーーーーーー!!!!もう聞きたくないーーーーー!!!!!!」

チホが泣きながら聡井さんに抱きつく。抱きつかれた聡井さんの白のブラウスには、チホの涙やらピンクブラウンのマスカラやらがびっとりと付着して、現代芸術家のキャンパスさながら、大変な様相を呈している。


「あ''ッ!ゴメン、、、チホ最悪だ。。聡井さんに迷惑かけて。。マジ生きる資格ない。。」


「あはは。大丈夫、大丈夫だよ。怖がらせてごめんね。」

よしよし、と、慣れた手つきでチホをなだめる聡井さん。

「でもね、『健康は生きる目的じゃなくて、命を使うための道具』って、こういうことだと思うんだ」

小さい子を諭すように、チホに優しく言葉をむける。


「ストゼロ大魔神は毎日ストゼロを飲むことが最高の幸せだった。ストゼロのために毎日がんばっていた。健康とストゼロはアンチノミーだけれど、彼の命の使い方はまさに『ストゼロを飲むこと』だった」

「そのために毎日を頑張れていたのなら、彼にとってはそれが『命の使い方』だった。そこに“生きてる意味”は存在しないけれど、『自分がやりたいことのために頑張っている』彼は、間違いなく『生きている』っていえるんじゃないかな」


「うんっ・・うん!なるほどっ!!チホにはちょっと難しいけど、なんか少し頭のモヤモヤがとれてきた、、気がするよ!!」

夕立が去った後、雲間から差す光のように、チホの顔に明るさが戻った。


「うん。よかったよかった」

「──チホは今、なにかやりたいこととか頑張りたいこと、ある?」


「チホはね、おっきな夢とかはないけど、、」

「ただこうやって、今日も明日も、聡井さんと一緒にいられたらいいなって、、それがサイコーに幸せだなって思う、、かな!」


「私もチホのこと、ストゼロ狂いのイカれたところも含めて大好きだよ。チホが今日も生きていてくれるだけでうれしい。ありがとう」

まだ温かいコーヒーカップを手に取り、にっこりとチホに笑顔をむける聡井さん。


「チホ、自分の命の使い方が少しわかった気がするよぉ〜〜!!チホの命は聡井さんのものですっ!!!聡井さん、今日も超サトい!!大好き!!ありがとねぇ〜!!」


「ほんとにかわいいなぁ、チホは。すこしでも役に立てたならよかったよ」

「でもストゼロは、ほどほどにしようね・・?」



──聡井さんは今日もサトい。

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