第5章


実はあの白い満月の晩、東北地方の太平洋岸のある農村の、次の県議会議員選挙にも立候補予定の有力者が、県警本部長へ圧力をかけ極秘の任務が遂行されていました。


村の有力者の長男が、不良グループの仲間と「森」に庇護ひごされて生活していたある姉妹の細身で黒く長い髪の美しい姉を集団で暴行し、翌朝に姉は、黄金色の稲穂がなびく田園の盛り土にそびえる「一本松」の太く黒い枝で首を吊りました。

すると幾日かのち、ある5人のおとこたちが現れ、その長男をはじめとする不良少年グループを拉致したうえ、姉が縊死いしした同じ「一本松」で、絞首刑さながら太い縄で首を吊らせて殺害しました。

復讐の印として顔に赤い血を塗らせて…


しかし真相を知った村の有力者はたいへん激怒し、「森」に潜んでいたその5人のおとこたちを抹殺するために、県警本部長に圧力をかけて極秘に機動隊を出動させました。

極秘任務のため早期解決を図った機動隊が、手っ取り早く「森」を火炎放射器で燃やしてしまおうとするや否や、「森」に潜んでいた5人のおとこたちは、銃撃隊が待ち構える「森」の入り口へ飛び出し、無惨に蜂の巣のように銃弾を浴びました。


5人のおとこたちは、「森」を炎から逃れるため、「森」を守るため、みずからの命を捨てて銃撃隊の前に飛び出しました。


機動隊の隊員たちが、白い満月に照らされた草叢に横たわるおとこたちをひるがえすと、驚くことにみな異様に変形した顔の小人でした。

かれらが遠く故郷を追われた癩病患者らいびょうかんじゃであったことを知ります。





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