VS ブルーノファミリー


「何者だぁ! テメェ!」



 俺の姿を確認したゴロツキは、怒号の声を上げる。



「オレたちブルーノファミリーに喧嘩を売ろうとは、良い度胸をしているじゃねえか!」



 やれやれ。


面倒なことになってしまったな。


死運鳥(ナイトホーク)の象徴である《鳥の仮面》を身に着けて出るか、最後まで悩んだが、今日は素顔のまま応戦することにした。



「貴方、どうしてここに!?」


「どうということはない。お前と同じ。学園からの依頼(クエスト)だよ」



 それというのもレナには、3年前に死運鳥(ナイトホーク)の姿を見られてしまっているらしいからな。


 ここで再開を果たしてしまうと、後々に余計な厄介事を背負うかもしれないからだ。



「クソガキが! 舐め腐りやがって!」



 敵の数は11人。そのうち魔法を使える人間の数は3人か。


 ふむ。


 単なるゴロツキの集団にしては、たいした戦力を用意したものである。



「ぶっ殺してやる!」



 臨戦態勢に入った男たちは、それぞれ魔法陣の構築を始めているようであった。



「アギャッ!」「フギャッ!」「グエッ!」



どんな魔法も発動できなければ意味がない、か。


 敵ながらも、至言だな。


 魔法が発動する直前、体を撃ち抜かれた男たちは、それぞれ苦悶の声を漏らす。



「野郎! やりやがったな!」



 早々に仲間たちが倒されて、危機意識を募らせたのだろう。


 残った男たちは、銃を構えて、臨戦態勢に入っているようであった。



「レナ。しっかり捕まっていろよ」


「えっ……!」



 付与魔法発動――《耐性強化》。


 俺は身に纏うコートに魔力を流すことによって、簡易的な盾として使用することにした。


 組織から与えられたコートは特別製だ。


 希少生物のグリフォンの羽を編み込んで作ったこのコートは、何より頑丈で、魔力をよく通す。


 このコートで体を覆ってやれば、流れ弾が命中しても致命傷を負うことはないだろう。



「ウソ……!? 飛んでいる……!?」



 別に飛んでいるわけではないぞ。


 コートの中に入って視界が遮られているレナには分からないのだろう。


 俺は、敵に狙いを絞らせないよう、レナを抱えたまま、暗闇の中を縦横無尽に飛び回っていたのである。



「なんなんだよ。あのガキ……!」


「畜生! どうして弾が当たらねえんだ!」



 攻撃を避けながらも隙を見て、反撃をすることも忘れない。


 その結果、敵集団は、1人、また1人と着実に数を減らしていくことになる。



「あ、アイツ……。あの黒コート……。もしかすると……」


「知っているのか!?」


「間違いねえよ。あの男こそ、伝説の暗殺者……。死運(ナイトホ)……アギャバァッ!」



 敵の1人が危うく俺の正体を口走りそうになっていたので、早急に始末しておくことにした。

 

ふむ。


 仮面を外した状態でも、俺が死運鳥(ナイトホーク)だと勘づく人間もいるようだな。


 今後の参考にさせてもらうことにしよう。



「終わったぞ。ケガはなかったか?」



 勝負の決着が付いた俺は、ものの二十秒としない間のことであった。


 それにしても人間1人を抱えて、飛び回るのが、こんなに大変だとは思いも寄らなかったな。


 学校通いが続いて体が鈍っていた俺にとっては、ちょうど良い運動になった気がする。



「こ、これは一体……!?」



 コートの中から顔を出して、周囲の光景を目の当たりにしたレナは、愕然とした表情を浮かべていた。



「貴方、一体何者ですか……? たった1人で、これだけのことができるなんて普通じゃありません……!」


 

 俺が何者か、か。


 なかなかに答えにくい質問を言ってくれるのだな。


 俺が3年前の《オルワルド事件》で、レナの命を救った張本人だということは、黙っておいた方が良さそうだ。


 裏の世界に妙な憧れを抱くことは、今後の彼女の人生にとって大きなマイナスになるだろうからな。



「あの。もしかしてワタシたち、以前に何処かで……」



 異変が起こったのは、レナが何か決定的な台詞を口にしようとした直後のことであった。


 何処からともなく飛んできた魔法が俺たちに向けて強襲する。



 ドガッ!


 ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!



 間一髪のタイミングであった。


 俺はレナを抱えて跳躍し、巨大な氷の槍を回避することに成功する。



「おいおいおい。今の攻撃を躱すかよ」



 粉塵が引いて、視界が開けたものになっていくと、見覚えのない男が立っていた。


 男の姿を見た俺は、警戒心を強めていく。


 何故ならば――。


 男の掌には、《血塗られた王冠》の刻印が入れられていたからである。


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