黒コートの少年
「火炎連弾(バーニングブレット)!」
何かを考えている余裕は、レナの中にはなかった。
身の危険を察したレナは、即座に反撃の魔法を構築する。
「ゴフッ――」
だがしかし。
起死回生を賭けたレナの魔法は、惜しくも不発に終わることになる。
「ああ。遅い。遅すぎるぜ。嬢ちゃん」
腹部に痛みが走るまで、自分が何をされたのか分からなかった。
魔法が発動しようとする直前、レナは男の1人に脇腹を蹴り飛ばされたのだった。
「火炎連(バーニング)……」
「おらよっと!」
続けて魔法の使用を試みるレナであったが、今度は魔法陣を構築することも出来ないまま蹴り飛ばされることになる。
魔法陣の構築とは、高度な集中力を要するものなのだ。
恐怖に怯えて、痛みに耐えている今の状況では、万全の状況の10分の1ほどの力も発揮できないでいたのだった。
「どんな魔法も発動できなければ意味がないぜ! 嬢ちゃんみたいな優等生の魔法師モドキが、一番狩りやすいんだよな」
今まで自分の武器だと思っていた得意の火属性魔法がまるで通用しない。
この時、レナは今まで自分が打ち込んできたものは、実戦では何の役にも立たないものだと悟った。
「あああ。いいねぇ。嬢ちゃんのその眼、最高にそそるよ」
これから起きることを想像すると、恐怖で益々と身が竦む。
何か薬物の類を摂取しているのだろうか。
よくよく見ると男たちの眼差しは、常軌を逸したレベルでギラついているようであった。
「なぁ。おい。オレ、もう我慢できねえわ」
「ヘヘッ。こんな上物とヤレるなんて、今日は本当に運が良いぜ」
気が付くと男たちの集団は、瞬く間のうちに数を増していく。
人数が十を超えた頃には、レナの中にあった抵抗の意志が完全に潰えることになった。
(助けて……。誰か……)
レナにできることは、目を閉じて、神に祈ることくらいであった。
流れが変わったのは、男たちの魔の手が、レナの制服を剥ぎ取ろうとする直前のことであった。
「ちょいと失礼。後ろ通るぜ」
「ごばっ!」
凛とした少年の声が聞こえたかと思うと、背中を蹴られた男の体が地面の上を転がった。
「――――ッ!?」
その時、視界に飛び込んできた光景を受けて、思わずレナは自分の目を疑った。
何故ならば――。
そこにいたのは黒色のコートに身を包んだ少年――。
何時もとは雰囲気の異なるアルスの姿であったからである。
王立魔法学園の最下生 ~ 貧困街(スラム)上がりの最強魔法師、貴族だらけの学園で無双する ~ 柑橘ゆすら @kankituyusura
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