闇の誘い



 一方、その頃。


 時刻はアルスが港湾に到着する30分ほど前に遡ることになる。


 ここはネオンの灯りが灯る暗黒都市パラケノスの繁華街の中である。


 学校帰りのレナは、夜の街に出向いて、日課であるクエストの達成を目指していた。



(いた……! 間違いないです。あの男ですね……!)



 目当ての男を発見したレナは心の中でガッツポーツを取る。


 バクラジャ・アッカーマン。


 恫喝、傷害、窃盗、その他、5つの罪で起訴されている犯罪者である。


 暗黒都市で最近になって勢力を伸ばしている《色付き》である《ブルーノファミリー》のメンバーであった。



『止めておいたほうがいい。お前たちの実力では自殺行為だ』



 レナの脳裏を焼き付いて離れないのは、以前にアルスをパーティーに誘う際に受けた厳しい忠告であった。



(そんなはずはありません! ワタシの魔法は、実戦でも通用するはずです……!)



 三年前に起きた《オズワルド事件》を経験して以降、レナは毎日のほとんどの時間を剣と魔法の修練に当てて過ごしていた。


 全ては、命を救ってくれた『あの人』に近づくためである。


 仮面を身に着けていたため、詳しい年齢、顔立ちは分からない。


 だが、事件の発生時に誰よりも早く現場に駆けつけたことから、政府に関係する魔法師部隊に所属していることは確かだろう。


 魔法師として力を付けていけば、再び『あの人』に会うことができるに違いない。


 それだけを心の支えにしてレナは、厳しい鍛錬に耐えてきたのである。



(あの人を捕まえれば、一気に2000SP獲得です……! ルウとの順位だって、逆転するはず……!)



 幼馴染のルウの急成長を受けて、レナは焦っていた。


 犯罪者の捕獲クエストを達成して、大量のSPを獲得すれば、幼馴染のルウも認めてくれるに違いない。


 尾行を続けるレナの中には、そんな思惑が存在していたのである。



(それにしても一体、どこまで行くのでしょうか? もう随分と歩いているような気がしますが……)



 ターゲットの跡を追って、レナがやってきたのは、人気のない港湾のエリアである。



(あれ……? いない……?)



 異変を感じたのは、港湾に立ち入ってから暫くしてからのことであった。


 倉庫を曲がったところで、レナは、ターゲットの男を唐突に見失うことになる。



「キヒヒヒヒ。嬢ちゃん、オレたちに何の用だい」


「――――ッ!?」



 突如として背後より声をかけられ、レナの背筋に悪寒が走る。


 何故ならば――。


 振り返ってみると、そこにいたのは、ターゲットの男と知らない男たちの姿だったからだ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る