2人で過ごす放課後
「ねえ。アルスくん。レナのこと、悪く思わないで欲しいの」
明くる日の放課後。
夕焼けに沈む教室の中、下着のホックを止めながらもルウは言った。
一体いつからこうなったのかは覚えていない。
しかし、ルウの『強くなりたい』という気持ちが本物であるならば、俺たちが肉体関係を持つのは時間の問題だったのだろう。
魔力移しは、肉体関係を持つのが一番手っ取り早いのである。
放課後、人通りの少ない空き教室の中で『人払いの魔法』を使って、『魔力移し』を行うのが最近の俺たちの日課となっていた。
「何のことだ」
「レナは私と違って昔から純粋だったの。とにかく曲がったことが大嫌いで。些細な不正も見逃せない子だったんだ」
殊勝なやつだ。
おそらくルウは俺がレナのことを嫌っていると思い込んで、必死にフォローをしているのだろう。
別に最初から嫌ってはいないのだけどな。
たしかにレナは何かと面倒な性格をしていると思うが、生憎ともっと面倒な人間たちが俺の傍には多くい るのである。
「ねえ。アルスくんは、昔、この街にあったオズワルド事件のこと覚えている?」
「ああ。無論、覚えているぞ」
ルウの口からその事件の名前が出るとは意外であった。
オズワルド事件とは、今から3年前に
当時のパラケノスは、異常なまでに貴族を敵視する《|逆さの王冠(リバース・クラウン)》という組織が幅を利かせていたのだ。
事件は、|三つ星(トリプル)貴族であるオズワルト家のパーティーで起きた。
|逆さの王冠(リーバス・クラウン)に所属する魔法師の手によって、貴族80人が人質に取られることになる。
彼らの要求は、この国を支配する『貴族制度の撤廃』であった。
無論、テロリストたちの要求など政府に聞き入られるはずがなかった。
その結果、人質に取られた貴族の70人が惨殺された。
今も公に語ることが憚られる痛ましい事件である。
「レナは、オズワルド事件の被害者なんだ」
「…………!?」
なるほど。
そういうことだったのか。
俺も3年前の事件の時には、現場に居合わせていた。
初めてレナに会った時に感じた既視感の正体は、3年前に出会ったことから由来していたのだろう。
「レナは3年前の事件で、『ある男の子』に救われているの。レナが強くなりたい理由は、その男の子に少しでも近づきたいからなんだ」
「…………」
その時、俺の脳裏に過ったのは、3年前のあの日、炎に包まれた屋敷の中で助けを求める少女の姿であった。
ふむ。
段々と記憶が繋がってきたな。
おそらくレナを救った男というのは――。
バサバサバサッ!
その時、教室の窓から見える木に一羽のフクロウが止まった。
どうやら急ぎの仕事が入ったようだ。
俺は急いで、制服の上着を着ると外出の準備を整える。
「また仕事なの?」
「ああ。すまんな。一緒にいてやれなくて」
「ううん。仕方がないよ。アルスくんは忙しい中、私のコーチを引き受けてくれているんだし」
このところ、組織とDD(ディーツー)を取り巻く勢力との、戦闘は激化の一途を辿っていた。
今日の戦いは、何時も以上に激しいものになりそうだ。
俺は4階の教室の窓から飛び降りると、さっそく仕事に向かうのだった。
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