VS 裏の魔法師



「どうしたよ! 庶民! お前の力はその程度か!」



 ここでデルクを倒すのは簡単だ。


 だが、俺の勘が正しければ、近くにもう1人、隠れている人間がいるはずなのだ。


 デルクを倒すのは、先にそちらを見つけてからでも遅くはないだろう。



 身体強化魔法発動――《視力強化》《熱感知》。



 そう判断した俺は、魔力を眼に集めて、周囲の様子を伺ってみることにした。


 いた……!


 どうやら敵は、裏路地の壁にトカゲのように張り付いているようである。


 それなりに高度な《視覚誤認》の魔法を使っているようだ。


 こちらも魔法を使わなければ、見破ることは難しかっただろう。



「コイツで終わりだ! ゴミカス野郎!」



 まずは鬱陶しいデルクを黙らせてやることにするか。


 俺は攻撃をヒラリと躱すと、デルクの頭を建物の壁に打ち付けてやることにした。



「ガハッ!」



 他愛ない。


 今の一撃でデルクは、失神してしまったようである。


 程なくして足元をフラつかせたデルクは、裏路地のゴミ置き場に体を埋めることになった。


 ゴミになってしまったのはお前の方だったな。


 できれば、そのまま目を覚ますことなく眠っていて欲しいものである。



「――――ッ!」



 俺の戦いを見て危険を察知したのだろう。


 壁に張り付いて、身を隠していた男は、ゆっくりと後ずさりを開始したようだった。



 逃がすか――!



 間髪入れずに俺は、男に向かって三発の銃弾を撃ちつけた。


 悲鳴はなかった。


 だが、壁を伝って流れ出た血液が、男の存在を如実に表していた。



「クッ……」



 やがて、擬態魔法を解除した男の体が、壁から剥がれて地面の上に転がった。



「バカな……。たかが学生が……。オレの魔法を見破るだと……!?」



 たしかに男の視覚誤認の魔法は、見事なものであった。


 組織の人間の中でも、サッジあたりならば、上手く出し抜けていたかもしれない。



「答えろ。お前の目的は何だ? どうして俺の後を付けてきた」



 銃を向けながら俺は問う。


 急所は外していたが、既に三発の銃弾を受けた男は虫の息の状態であった。


 どんな魔法を使っても、ここから形勢を逆転させるのは不可能だろう。



「ふふふ。ソイツは聞けねえ相談だなあ」



 不適な笑みを零した男は、ポケットの中からナイフを取り出した。


 この期に及んで抵抗をする気か。


 少しでも妙な動きを取れば。追加の弾丸をお見舞いすることにしよう。


 異変が起こったのは、俺がそんなことを考えていた直後のことであった。



「あの世でオレに聞いてみな!」



 何を思ったのか男は、自らの喉にナイフを突き立てて、グリグリと喉に押し込んでいったのである。


 ふむ。


 尋問を恐れて、自らの命を絶ったか。


 たいした忠誠心だ。


 最近はこの手のタイプの魔法師を見る機会が、めっきりと減っていたような気がする。


 直接本人の口から聞くことはできなかったが、先の戦いぶりから男の目的を大まかに察することはできる。


 最初はデルクに雇われていたボディーガードなのかと考えていたのだが、それにしては様子がおかしい。


 男の行動には、雇い主を守る様子が全く見られなかった。


 そう考えると男の目的は、薬物を摂取したデルクの動向を観察だったと考えるのが妥当だろう。



「――――ッ!?」



 異変が起きたのは、俺がそんなことを考えていた直後のことであった。


 おそらく擬態魔法で今の今まで隠していたのだろう。


 その時、俺は男の手の甲に《血塗られた王冠》の刻印が浮かぶのを見逃さなかった。



 |逆さの王冠(リバース・クラウン)……だと……!・



 禍々しく浮かぶその刻印は、かつてこのパラケノスを破滅と混沌に追い込いこんだ『ある組織』を象徴するものであった。


 まさか……。


 いや、そんなはずは……。


 |逆さの王冠(リバースクラウン)は、『3年前の事件』で壊滅したはずなのだ。


 予期せぬ光景を目の当たりにした俺は、不吉な予感を抱くのだった。



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