パーティー要請
授業が終わって昼休みになった。
鐘の音が響くのと同時に俺が向かったのは、学園地下にある食堂であった。
単なる学生食堂と言って侮ることはできない。
貴族たちが普段使いをしているというだけあって、この学園の学食のレベルは驚くほど高いのである。
ふうむ。
今日の日替わりメニューは、鴨肉のロースト赤ワインソース添え、か。
よくもまあ、これだけ手の込んだ料理を学食で出すことできるものだな。
貴族たちが食べる昼食の相伴に預かることが、学園生活の中の密かな楽しみになっていた。
「なあ。見ろよ。アレ」
「うわっ。アイツが例の庶民か……。」
席を探している途中、他の生徒たちの好奇の視線が俺の方に集まってくるのが分かった。
こういう扱いにはもう慣れた。
他の生徒たちと慣れ合うつもりのない俺にとっては、むしろ好都合という風に捉えておくことにしよう。
「失礼します。隣の席、良いでしょうか?」
人目を気にせずに独りで昼食を取っていると、見覚えのある少女に声をかけられる。
|一つ星(シングル)貴族であるレナは、入学試験以来、何かと縁のある女だった。
むう。
それにしても、このレナとかいう女、以前に会ったような気がするのだが、どうにも思い出せないな。
最初に出会った時から思っていたのだが、既視感の正体については、謎のままである。
「ああ。別に構わないぞ」
「えへへ。お邪魔します」
俺が許可をすると、一緒にいたルウが真っ先に俺の隣に座り始める。
レナが座ったのは、俺の向かい側だ。
結果として、それぞれ、右隣にルウ、向かい側にレナが同じテーブルに座ることになった。
「おい。なんだ。そのバカみたいな食事量は……」
「……それ、もしかして、ワタシに言っているのですか?」
「他に誰がいるんだよ……」
レナのプレートに盛られたのは、優に成人男性3人前の食事量を超えようかという異常なものであった。
「し、仕方はないではないですか! 頭を使うと、お腹が減るんですから!」
この食事量は、既にそういう問題を超越していると思うのだが……。
道理で、この女の発育が同年代の女と比べて、良くなるのも納得というものである。
「チッ……。昼間から女連れとは、良い御身分だな」
「まったくだ。庶民の癖に調子に乗りやがって」
等と言う会話をしていると、男たちの怨嗟の声が聞こえてくるのが分かった。
周囲の視線が集まっている気がするのは、俺の思い過ごしではないだろう。
コイツ等、外見だけは、やたらと整っているからな。
一部の男子生徒から、嫉妬を買ってしまっているのだろう。
「さっきの授業での回答、凄かったね。アルスくんって、何処かで魔法を習っていたの?」
「さあな。俺が何者だろうと、お前には関係ないことだろう」
「まあまあ。そう言わずに。せっかく同じクラスになったにも何かの縁なんだし」
むう。
このルウとかいう女、物腰が柔らかいようでいて、意外に頑固なところがあるようだな。
顔に似合わず押しの強いやつである。
「それでは、単刀直入に用件を話します。ワタシとルウは、パーティーを組んでクエストに出ようと思っているのです。貴方も一緒にどうかと思いまして」
赤色の前髪を掻き分け、大きな胸を張りながらレナは言った。
「クエスト?」
「王立魔法学園は学外から、様々な依頼を受けているのです。高難度のクエストを達成すれば、大量のSPを獲得できるのです」
なるほど。
SPの稼ぎ方にも色々な方法があるのだな。
場合によっては、面倒な授業を受けなくても卒業できるケースもあるわけか。
今後の参考にさせてもらうことにしよう。
「成績上位で卒業するためにはクエストの達成は不可欠です。ワタシたちは、今日からクエストを受けてみようと考えているのです」
見かけ通り、真面目な女だ。
優等生を絵にかいたようなレナの行動には頭が下がるばかりである。
「これが今日から受けられるクエストの一覧。アルスくんの興味を引くものがあると良いんだけど」
そう言ってルウは、書類の束を俺の前に差し出してくる。
せっかくなので目を通してみるか。
なるほど。
依頼の内容は様々だが、大部分を占めるのは『モンスターの討伐』と『犯罪者の捕獲』の二種類のようだな。
どれもこれも命の危険を伴うという意味では一致している。
「止めておいたほうがいい。お前たちの実力では自殺行為だ」
「「…………!?」」
正直に思ったことを伝えると、二人の目の色が変わっていくのが分かった。
「何故、そのようなことを言うのです? 何事も挑戦してみないことには分かりませんよ」
「柵の中の羊を狼の群れに放つようなものだ。やる前から結果は見えている」
「……ワタシたちが羊だというのですか?」
「自覚がないなら猶(なお)のこと重症だな」
このクエストの中には、魔法を覚えたての初心者が達成できるようなものは何もなかった。
取り分け『犯罪者の捕獲』クエストは最悪だ。
獲得SPは高く設定されているようだが、彼女たちが関われば、悪人たちに食い物にされることは免れないだろう。
「ワタシたちのこと、何も知らない癖に……。勝手なことを言って……!」
悔しそうに唇を噛んだレナは、強く拳を握って怒りに震えているようであった。
「……行きましょう。ルウ。やはり他人をアテにするのは間違いだったようです」
「ごめんね。アルスくん。この埋め合わせは絶対するから……!」
それだけ言い残すと二人の少女は、足取りを早くし俺の元から立ち去っていく。
やれやれ。
思わぬところで、食事の邪魔をされてしまったな。
もちろん、彼女たちには彼女たちなりの事情があるのだろうが、俺の知るところではない。
そうでなくとも、このところ何かと仕事が忙しいのだ。
学生同士のお遊びに付き合っている時間はなさそうだ。
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