退屈な授業
それから。
何はともあれ、俺の学園生活は始まった。
最初こそ慣れない学園生活というものに戸惑うことはあったが、要点を抑えればライフサイクルの形成は容易だった。
朝昼は授業を受け、夜は組織の依頼によって暗黒都市パラケノスに出向く。
前回の襲撃事件を境に俺たちの仕事は、再び忙しいものになっていた。
店を襲った男たちからDD(ディーツー)という麻薬の成分が検出されたのだ。
使用者に絶大な快楽を与えると一方で、内に秘めた攻撃本能を開花させるDD(ディーツー)は、史上最悪のドラッグとして名高い存在であった。
「即ち、魔法陣の構築に必要な基礎構文は、ここに示す通りである。更に《追加構文》によって、この術式は更に発展して行き――」
今の生活の中で強いて不満を挙げるなら、この授業である。
随分と抑揚のない、眠くなる声で話すのだな。
この《魔法構築》の授業を請け負っているのは、入学試験の時に試験官だったブブハラという男が担当しているようだ。
「おいおい……。なんて授業スピードだよ!?」
「信じられない……。これが王立魔法学園の授業レベルなのか……!?」
いやいや。
別に授業レベルそのものが高いわけではないのだぞ?
単に、この教師に最初から教える気がないというだけである。
早口で生徒たちを振るい落とすような授業に何の価値があるというのだろうか。
はあ。
こんな授業を後3年も受け続けなければならないのか。
公認魔法師の資格を得るためとはいっても、これに関しては今から憂鬱な気分である。
「では、この問題をそこにいる庶民! 黒板の前に出て解いてみよ!」
等と言うことを考えていると、唐突に教師から声をかけられる。
はて。今までこんなやり方の授業じゃなかったが。
おそらくこの教師は俺がロクに授業を聞いていなかったことを知り、あえて指名してきたのだろう。
「さて。この問題だが、SPを賭けることにしよう。貴様がこの問題を解くことができれば、SP100ポイントをくれてやる」
なるほど。
SPは定期試験の結果以外のところでも増減すると聞いていたのだが、さっそくその機会が巡ってきたというわけか。
「ただし、解くことができなければ、マイナス100ポイント。一気に落第コースまっしぐらというわけだ」
ニヤリと肥えた頬を緩めながらも、ブブハラは言った。
ふむ。
この男の狙いは、コレにあったのか。
見たところ黒板に書かれている問題は、教科書で習う範囲のものではない。
つまり俺たち一年生には、逆立ちしても解けるはずがないと踏んでいたのだろう。
「これでいいですか?」
だがしかし。
俺にとっては赤子の手を捻るよりも簡単なものである。
俺は提示された問題を解くついでに、黒板に書かれた魔法陣にあった二カ所ほど不備を訂正してやることにした。
「うっ。うぐっ……」
まさか考え抜いた難問がアッサリと解かれるとは思っていなかったのだろう。
顔を赤くしたブブハラは、悔しそうに歯ぎしりをしているようだった。
「よ、よろしい。下がりなさい」
平静を装っているつもりだろうが、内心では腸が煮えくり返っているのがバレバレである。
アルス・ウィルザード
所属 1E
保有SP 100ポイント
学年順位 1/150
ランク E
席に戻って、学生証を確認してみると、さっそくSPが付与されているようであった。
ランクがFからEに上がったようだ。
いきなり学年順位が1位に上がったのは、他にはまだSP付与のイベントがなかったからだろう。
庶民ということで教師に目を付けられたことが逆に功を成したみたいである。
「チッ……。いけすかねぇな。アイツ。庶民の分際で」
「まったくだ。ちょっと勉強ができるからって調子に乗りやがって」
何やら一部の生徒たちからの視線を感じるな。
まあ、無理もないか。
プライドの高い貴族からすると、たとえ、一時であったとしても、俺のような庶民が学年順位1位を獲得するのは面白くないのだろう。
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