入学式と授業説明



 不夜の街の事件から一夜が明けて、王立魔法学園の入学式がやってきた。


 首に巻いたネクタイが、やけに窮屈に感じられる。


 学園指定の制服に着替えた俺は、長い坂を上って、王立魔法学園の門を潜る。


 講堂の中に入ると、既に多くの学生たちで、賑わっているようであった。



「あ! アルスくんだ!」



 何処か空いている席はないかと探していると、見知った顔に声をかけられる。


 名前はたしか、ルウといったか。


 入学試験の時に何かと縁のあった、ゆるい雰囲気をした青髪ショートカットの少女であった。



「そうですか。貴方も合格していたのですね」



 続けてパンフレットを片手に、澄ました顔で声をかけてきたのは赤髪の少女であった。


 こっちの赤髪の名前は、たしかレナといったか。


 頭の上で結った2つの団子から、尻尾のように髪の毛が伸びた団子ツインテールの女である。


 以前と違いメガネを付けているレナは、前に会った時よりも、更に優等生オーラを醸し出していた。



「なあ。なんだかやけに人数が多くないか」


「当然です。今この会場には、受験組と合わせて、推薦組も合流しているのですから」


「推薦組?」


「……入学試験の免除された人間たちのことです。家柄と実力を合わせ持った、本物のエリートと言ったところでしょうか」



 知らなかった。


 受験会場ですら既に高ランクの貴族が多かったというのに、更にその上をいく連中が存在していたのか。


 庶民の俺の肩身が、益々と狭くなるというものである。



「生徒諸君。私が当学園の、学園長であるデュークである」



 暫く待機していると、体格の良い男が壇上言現れる。


 年の頃は四十代の半ばと言ったところだろうか。ちょうど親父と同い年くらいだな。



「今年、諸君らを迎えられたことに心より感謝しよう」



 その人間の立ち振る舞いを暫く観察していれば、魔法師としてのおおよその力量を測ることは可能である。


 服の上からも隆起していることが分かる筋肉は鋼のように硬く、実戦を通して鍛え上げられていることが分かる。


 体外から自然放出されている魔力は、常に一定で淀みがない。


 知らなかった。


 この学園の中にも、それなりに戦えそうな人間がいたのだな。



「貴族の矜持(ノブレス・オブリージュ)という言葉がある。昨今は歪曲されて使われることが多くて残念であるが、本来この言葉は、魔法の才を持って生まれた人間は、持たざるものたちを守るために死力を尽くす、という意味で使われてきた言葉だ」



 俺の思い過ごしだろうか?


 今、壇上の男が俺の方を見て、何やら含みのある笑みを浮かべたような気がした。



「我が校は、この言葉を校訓として採用している。キミたち、ここにいる150名は、弱き人間を守るため、選ばれた人間だ。本校在学中は、どうか今日話したことを意識して研鑽に励んで欲しい」



 手持無沙汰になった俺は、事前に配布されていたパンフレットに目を通す。


 王立学園の校訓第7条。


 魔法の才を持って生まれた人間は、持たざるものたちを守るために死力を尽くすこと、か。


 まったくもって、俺のような庶民には過ぎた言葉である。


 学園長が話を済ませると会場の中は、割れんばかりの拍手に包まれることになった。



「すげー! 今の人って、騎士団長のデュークさんだろ!?」


「流石は王立魔法学園。元騎士団長が学園長を務めるなんて、誇らしいぜ」



 なるほど。


 やたらと雰囲気があると思っていたら、この男は騎士団の人間だったのか。


 騎士団とネームレスは、表裏一体の関係にある。


 俺たちネームレスは、騎士団の人間がやりたがらない汚れ仕事を引き受けるために作り出された組織なのだ。


 道理で、なんとなく、鼻につく台詞を口にする男だと思っていたのだよな。



 ~~~~~~~~~~



 入学式が終わった後は、HRの時間である。


 俺たち新入生は、A組からE組までの5つのクラスに分けられて、指定の教室に集まることになっていた。


 どうやら俺は、1年Eクラスの所属となるようだ。


 席は窓際の後方。


 授業を受けるのには不便だが、教室の全体を見渡せるので俺としては嫌いではない位置である。



「驚きました。まさか貴方と同じクラスになるとは……」


「良かった。アルスくんも一緒みたいで」



 クラスの中には、既に見知った顔がいるようだ。


 この2人とは入学試験の時から何かと縁があるようだな。


 暫く教室の中で待機をしていると、教室の中に教師が入ってくる。



「自己紹介をしよう。ワタシの名前はリアラ。これから1年間、キミたちの担任を受け持つものだ」



 リアラと名乗る女は、二十代後半の目つきの鋭い教師であった。


 前に試験官として出会ったブブハラという教師とは違って、それなりに体は鍛えているようだ。



「さて。さっそくだが,この学園の根幹システムとなるSP(スクールポイント)システムについて説明しとこうと思う。まずは学生証を見て欲しい」



 素直に指示に従い、事前に配られていた学生カードに視線を移す。



 アルス・ウィルザード 

 所属   1E

 保有SP 0ポイント

 学年順位 150/150

 ランク  F



 見たところ、この学生証には、かなり高度な魔法式が組み込まれているようだ。


 名前と所属に関しては理解ができるのだが、それ以外の部分に関しては聞き覚えない言葉が並んでいる。



「SP(スクールポイント)とは、キミたちの成績を可視化した数値となる。SPは、定期試験の結果によって増減する。

この数値は、キミたちの進級に関わってくる他、成績上位陣には様々な特典が用意されているので是非とも獲得に励んで欲しい」



 なるほど。


 成績が数値として可視化されるのは、俺にとっては悪くないシステムだな。


 後はこのSPシステムが、高位の貴族優遇のものになっていなければ文句を付けようがないのだが……。


 今までのことを考えると、流石にそれは高望みのし過ぎなのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る