不届きもの
「どうやら新手の《色付き》のようだな。ったく、次から次へ、ご苦労なこった」
親父の言う《色付き》とは、暗黒都市に巣食う非行集団のことである。
彼らはグループごとに象徴する『色』を持って活動しており、衣装もそれに合わせていることが多い。
どうやら今回のブルーノファミリーというやからは、『青』を象徴とする『色付き』のようだ。
「助けが必要か? アル」
「冗談だろ。俺一人で十分だ」
死運鳥(ナイトホーク)の象徴である『鳥の仮面』を取り出して席を立つ。
最低限の力で静かに殺さなくてはならない暗殺仕事と違って、今回の仕事は自由度が高そうだ。
二度と悪事を働く気が起こらないよう、力を見せつけるような戦いをしていくことにしよう。
「マリアナ。修理代は、会計に付けておいてくれ」
「……仕方がないわね。今日だけよ」
いちいち階段を使っていては、対処が遅れるかもしれない。
そう判断した俺は、勢い良くガラスの壁を蹴り破ることにした。
バリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリイイイイイイイイイイイイイイン!
キラキラと輝くガラスの破片と共に、俺は1階のフロアに着地する。
「なんだ? コイツ?」
「一体どこから降ってきやがった!?」
困惑していた男たちであったが、存外、その頭の切り替えは素早かった。
俺を『敵』と認識した男たちは、激昂して各々、武器を携えて襲い掛かってくる。
「どらああああああああああああ!」
男の1人が椅子を手にして、振り回してくる。
ふむ。
この男たち、一般人にしては馬力が強すぎるな。
おそらく事前に接取していた『薬物』の効果だろう。
興奮作用の他に、戦闘能力を底上げする効果を薬物から得ているようである。
「失敬。コイツを借りるぜ」
薬物の力を借りているとはいっても相手は単なる一般人に過ぎない。
この程度の相手であれば、銃を取り出して戦う必要もないだろう。
俺はテーブルの上に置かれていたシャンパンボトルを手に取ると、直進してきた男たちの脳天に振り下ろす。
「あぎゃあ!」「ふぼうっ!」「ぐがあっ!」
もともと強力な炭酸ガスを含んだシャンパンは、他のどの酒類よりも、ボトル全体が厚く作られているのだ。
更に、そこで魔法による強化を施せば、鈍器(メイス)のような威力を発揮することが可能である。
俺の攻撃を受けたゴロツキたちは、完全に伸びているようであった。
「なあ。アイツの仮面……! この強さ……!」
「間違いねえ! 死運鳥(ナイトホーク)だ! 」
ふむ。どうやら遅蒔きながらも、俺の正体に気付いたらしいな。
俺の正体を察した『色付き』たちは、完全に委縮しているようであった。
「怯むな! 『あの方』から授かった力を活かせば負けるわけがねえ!」
あの方、とは気になる言い方だな。
コイツ等のバックに何らかの組織が関与しているということだろうか。
「相手はたった1人だ! 囲っちまえばそれで終わりよ!」
ふむ。どうやらゴロツキの中にも、1人だけ魔法を使える人間がいたようだな。
その身長は優に2-トルを超えているだろう。
巨大な体躯を誇るスキンヘッドの男が俺の前に立ち塞がる。
「クハハハ! 死に晒せええええええ!」
スキンヘッドの男は、身体強化魔法を発動して、俺の元に大きく拳を振り下ろしてくる。
「なっ――!? 消えた――!?」
別に消えたわけではない。
攻撃を避けるために跳躍して、店のシャンデリアにぶら下がっただけだ。
俺は着地するついでに男の首を足で挟んで、投げ飛ばしてやることにした。
「グハッ――!?」
男の巨体が宙に舞う。
体は大きいが、魔法師としては三流も良いところだな。
俺に投げ飛ばされた男は、テーブルの上に頭を激突させて、失神しているようであった。
「ヤバイぞ! 殺される!」
「撤退! 撤退だ!」
リーダー格の男が倒されたことで、怖じ気づいたのだろう。
実力の差を悟ったゴロツキたちは、クルリと踵を返して俺の元を離れていく。
無論、このまま逃がしてやる気は毛頭ない。
遠くの敵に対してはシャンパンの封を切っての『コルク飛ばし』が有効だった。
「カハッ――!?」
魔力で強化したコルクの弾丸は、敵の頭を的確に捉えて意識を奪う。
命を奪わないのは決して優しさではない。
後に尋問にかけて、コイツらのバックに関与していた組織がいないか調べるためである。
「ねえ。ジェノス。あの怪物が本当に学生として、やっていけるのかしら?」
「……それを言ってくれるな。オレも不安になってきたところだよ」
俺の思い過ごしだろうか。
素早く不審者を制圧すると、二階で酒を飲み交わしていた二人は、何やら皮肉気な言葉を呟くのであった。
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