合格祝い
王立魔法学園の試験を受けてから数日後。
俺が寝泊まりしている貧困街(スラム)のアパートに一通の封筒が送られてくることになる。
使われている紙の材質から、学園からの合否の連絡が届いたのだということは直ぐに分かった。
あまり期待をせずに封筒を開くと、大きく『合格』の二文字の書かれた書類が出てくることになる。
「ふふふ。それでは、アルスの合格を祝して乾杯と行こうじゃないか!」
で、今現在、俺は親父に連れられて、パラケノスの会員制クラブを訪れていた。
「それにしても驚いたぞ。学校に行けとは言ったが、まさか天下の王立魔法学園に受かっちまうとはな……」
どうやら俺が王立魔法学園の試験を受けに行ったことは、親父にとっても予想外だったらしい。
一口に魔法学園と言っても、その形態は様々だ。
中には学費さえ払えば、誰でも入れそうな学校もあったのだが、自宅から無理なく通えるという意味では今の学校が最適だろう。
「ふーん。世の中、分からないものね。あの、死運鳥(ナイトホーク)が学生になるなんて。上の連中が知った日には、椅子から転がり落ちそう」
カウンターを挟んだ向かいから声をかけてくるドレス姿の美女の名前は、マリアナといった。
魔法師ギルド《ネームレス》に所属する先輩の暗殺者である。
かつては《女豹》の通り名を与えられたマリアナであったが、今は前線から離れて諜報員として活動することが多かった。
マリアナには、幼いころから色々と世話になった。
仕事で各地を飛び回っている親父の代わりに、彼女から魔法の手ほどきを受けたものである。
「いいじゃねえか。腕っぷしだけで、成り上がれるような時代はもう終わりだぜ。これからの世の中、裏の世界で生きていくにしても資格くらい取っておいた方がいい。それが、平和な時代の処世術っていうやつさ」
「まあ、アタシたちの仕事も変わってきているからね。このパラケノスも、昔と比べて随分と落ち着いてきたものさ」
俺が組織で活動し始めた当初は、このパラケノスは無法地帯と呼んで差し支えのないものであった。
綺麗な川には、住めない魚がいる。
規制の厳しい王都から逃げるようにして、ならず者たちが集まることで発展してきたこの街は、様々な犯罪の温床となっていた。
そこで誕生したのは、《ネームレス》という組織である。
この組織は、王都の騎士部隊では対処のできない『汚れ仕事』を引き受けるため、政府の主導で誕生した経緯により、一部の界隈からは《王室御用達(ロイヤルワレント)》と呼ばれることもあった。
「これも全て《|死運鳥(ナイトホーク)》のおかげだね」
「ふふふ。そこはオレ様の教育指導の賜物と言ってくれよ」
この10年で組織は、パラケノスに巣食う悪人たちを秘密裏に消してきた。
今では俺たち《ネームレス》の名を恐れてか、無茶なことする人間たちは随分と減ってきた気がする。
異変が起こったのは、俺たちが昔話に花を咲かせていた直後のことであった。
バリッ!
バリバリバリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリイイイイイイイイイイイイイイン!
突如として店の中のガラスが割れた音が響く。
不審に思って下の階に視線を移す。
そこにいたのは、何やら物々しく武装した男たちの集団であった。
「へへっ! 今からこの店は、オレたち《ブルーノファミリー》が占拠する!」
「この店にカネがあることは分かっている! 大人しく有り金全部、この袋に詰めやがれ!」
突如として現れた男たちは、高らかに武器を掲げて、物騒な台詞を口にしていた。
薬物の類を摂取しているのだろうか。
好戦的な言葉を次々に口にする男たちは、興奮状態に陥っているようであった。
「平和な時代、ね」
「気にするな。アル。何時の世も、平和なんてものは理不尽に壊れるものなのさ」
それにしても随分と不運な人間がいたものだな。
俺たちのいる2階の席はVIPルームであり、ガラスの壁は全てマジックミラーとなっている。
まさか下の連中も2階に《ネームレス》のメンバーが滞在しているとは、思ってはいないだろうな。
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