職員会議
時刻はアルスたちが入学試験を受けてから5時間ほど経過することになる。
「ほう……。なかなか面白い逸材ですね。この少年」
ここは王立魔法学園の会議室の中である。
例年通り会議室の中は、今年の受験生の話題で持ちきりになっていた。
「庶民でありながら、これほどの魔法を使えるとは興味深い存在だ……」
アルスの映像を目にしながら、感心した様子を見せるのは、メガネをかけた女教師である。
彼女の名前はリアラと言った。
若くして王立魔法学園の学年主任を務めるリアラは、他の教師たちからも一目置かれる存在であった。
「ワシは反対だ! 伝統ある我が校に! 庶民の生徒を入れるなど!」
リアラに真っ向から対立するように意見を上げたのは、今回の入学試験で試験官を務めていたブブハラである。
「これは我が校のブランドイメージを損ねる大問題だぞ! 絶対に入学を認めるわけにはいかん!」
「彼はこの学園に新しい風を起こしてくれる存在です! 絶対に入学させるべきだ!」
二人の意見は平行線を辿る一方で、話し合いによる解決は望めそうにない。
そう判断した教師たちは、関係者たちの間で多数決を取ることにした。
「ふふふ。賛成が4票、反対が5票。これで決まりですな。やはり庶民の生徒を受け入れるなど言語道断なのですよ」
多数決の結果を受けたブブハラは、満足気な笑みを零す。
アルスの入学に異議を唱えたのは、古くから学園に在籍をしている保守派の教師たちであった。
彼らの中には、裏金を受け取って、生徒たちの裏口入学を斡旋する人間も多くいた。
今後も変わらず、既得権益を貪るためには、現在の体制を維持する方が好都合だったのである。
「いえ。まだ1人、意見を聞いていない人がいますよ。ブブハラ先生」
「なにっ……!?」
「学園長。貴方の意見を聞かせてください」
「………」
助け舟を求めるようにしてリアラは、今まで静観を決め込んで男に声をかける。
男の名前はデュークといった。
かつて王都直属の
(ウィルザードか……。久しぶりに聞く名前だな……)
その名前はデュークにとって馴染みの深いものであった。
ジェノス・ウィルザード。
アルスの義父であり、神聖騎士団で伝説的な武勲を打ち立てた男の名前である。
曰く。その男は、たったの1人で100人を超える魔法師の軍勢を退けた。
曰く。その男は、たったの一太刀で、巨大なドラゴンを両断した。
ジェノスの活躍を象徴するエピソードは、枚挙に暇がない。
だが、ジェノスは、ある日を境にして消息を絶っている。
一説によると、政府の命により、闇の世界に身を投じたということになっているのだが、詳しい情報は定かになっていない。
(確かめてやる必要がありそうだ……。この少年の正体を……)
デュークとジェノスは旧知の仲であった。
時を同じくして騎士団に所属して、切磋琢磨と腕を磨いてきた2人は、長きに渡りライバル関係を築いていたのである。
「そうだな。オレの結論は――」
緊張感の漂う空気の中、学園長は重い口を開く。
こうしてアルスの預かり知らないところで、試験結果の発表準備は、着々と進んでいくのであった。
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