剣術の試験(後編)
「嬉しいよ。ア~ルスくん♪ こんなにも早くもキミに雪辱を果たすチャンスが巡ってくるなんて思ってもみなかった」
俺の姿を見るなりデルクは狂気を孕んだ笑みを浮かべる。
大根役者も甚だしい。
状況から察するに、俺と当たることを最初から知っていたかのような様子であった。
「ぐふふ。生意気な庶民の化けの皮を剥げると思うと、先が楽しみじゃわい」
ふうむ。
どうやらデルクは試験官の男とグルだったらしいな。
聞くところによると、この王立魔法学園は、試験官に裏金を渡して子供を入学させる『裏口入学』が頻発しているらしい。
おそらくこの2人の間にも何かしらの密約が交わされているのだろう。
さてさて。何を仕掛けてくるのやら。
用心するに越したことはなさそうだな。
「これより、デルクとアルスの試合を執り行う。両者、配置につくように」
どうやら二次試験は、準備の整った人間から先に始めるルールとなっているらしい。
デルクが早々に声をかけてきたことにより、俺たちは二次試験最初の試合を行うことになっていた。
「それでは、試合開始!」
試験官の合図と共に勝負の火蓋は切って落とされる。
「とりゃあああ!」
試合が始まると同時にデルクは、腰に差した剣を抜いて先制攻撃を仕掛けてくる。
ふうむ。
この剣、刃が付いてないので人を斬るようなことはなさそうだが、そうは言っても金属の塊を振り回していることには違いがない。
適度に手を抜いて攻撃しなければ、大事故に繋がることもありそうだ。
「どうした! 庶民! お前も早く剣を抜けよ!」
見え透いた挑発ではあるが、乗ってやるか。
二次試験の題目が『剣術』である以上、俺も剣を抜かざるを得ないというものだろう。
「とりゃあああ!」
俺がデルクの攻撃を剣で受け止めようとした瞬間、不可解なことが起こった。
ん? この剣、何か様子がおかしいようだ。
ミシッ! ミシミシミシッ!
俺の握っていた剣はひび割れて、根本の方から折れることになった。
おいおい。
どう考えても、剣が折れるような攻撃ではなかったぞ。今の。
おそらく俺に配布された剣が、最初から欠陥品だったのだろう。
「フハハハ! どうした庶民! 日頃の鍛錬が足りていないんじゃないか!」
俺の剣を叩き折ることに成功したデルクは、愉悦の表情を浮かべる。
なるほど。
デルクは最初からこうなることが分かっていたらしいな。
試験官と手を組んで、剣に何か細工をしていたらしい。
なかなかに小賢しい真似をしてくれるな。
「ボクはな! 5歳の頃から剣を習っていたんだ! お前のような庶民とは、経験値が違うんだよ!」
5歳か。そういえば俺が親父に拾われて、殺しの技術を教わったのも同じ年齢だったな。
「どうした! 庶民! ボクの剣技を前に、手も足も出ないだろう!」
たしかに、自慢するだけあって剣の心得はあるようだ。
実践では大して役に立たない、教科書通りの貴族の剣技だけどな。
「ヒャハハハ! 殺す! オレがここで息の根を止めてやるよ!」
やれやれ。また『殺す』か。
この男は本当に俺を苛つかせるのが上手いようだな。
「なあ。いい機会だから教えてやるよ」
まずは敵の攻撃を折れた剣で弾き返す。
ノロノロと悠長に振るわれた剣を払うことは、赤子の手を捻るよりも簡単であった。
「なっ――!?」
アッサリ攻撃の手段を失ったデルクは、表情を蒼白にしていく。
立て続けに俺は、デルクの首筋に折れた剣を突き立ててやることにした。
「これが『殺す』ということだ」
「――――ッ!?」
瞬間、デルクの顔に緊張が走った。
汗から滝のような汗を流したデルクは、ガタガタと手足を震わせているようだった。
敵を制圧するのに、大それた武器は必要ない。
たとえ、刃の付いていない折れた剣であっても『殺すという意思』を見せてやれば、大抵の人間は委縮するものなのだ。
「これに懲りたら二度と『殺す』なんて言葉を使うなよ」
軽く突き放してやると、デルクの体が力なく地面を転がった。
完全に脱力しているようだ。
おそらく生まれてから今日まで、殺気どころか、誰かに殴られた経験すらなかったのだろう。
これほどまで殺気に対する耐性がないやつというのも珍しい気がする。
「グッ……。デルク、戦闘不能! よって、この勝負、アルスの勝ちとする……!」
屈辱の表情を浮かべながらも試験官のブブハラは、勝ち名乗りを上げる。
そりゃどうも。
ところで、無事に勝利したのは良かったのだが、果たして俺は合格することができるのだろうか?
何はともあれ、こうして様々なトラブルが続出した波乱の入学試験は幕を下ろすのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます