2人の少女

 


 ふう。


 色々あったが、ようやく受験会場に到着することができたようだな。


 学園側が受験会場、見晴らしの良い草原地帯であった。


 おそらく訓練場として用意されたものなのだろうが、地価の高い王都に、これだけの敷地面積を用意できるとは驚きである。


 俺たち受験生は、試験官が到着するまで、平原に集まり待機していた。



「失礼します。少し、お時間よろしいでしょうか?」



 なるべく目立たないように隅っこの方で立っていると、見覚えのある赤髪の女に声をかけられる。


 頭の上で結った2つの団子から、尻尾のように髪の毛が伸びた団子ツインテールの女である。


 貴族の男に妙な絡まれ方をされるのも頷ける。


 間近で見ると、その女は目鼻立ちの整った顔立ちをしているのが分かった。



「貴方、さっき校門の前にいた人ですよね?」



 人違いだと主張することも考えたが、寸前のところで思いとどまる。


 この貴族だらけの空間では、ウソを吐いたところで無駄だろう。


 どうやらこの会場の中で庶民の俺は、かなり注目を浴びてしまっているようだ。



「ああ。何か用か?」


「ワタシ、レナと言います。さっきは、ワタシのことを助けてくれたのですよね? お礼を言っておかねければと思いまして」


「…………」



 ふむ。


 このレナとかいう女、以前に何処かで会ったような気がするのだが、俺の思い過ごしだろうか?


 よくよく見ると、どことなく既視感を覚える顔立ちをしているな。



「気にする必要はないぞ。たまたま偶然が重なった結果だ」



 単に|一つ星(シングル)よりも、俺の方が目につきやすい存在だった。それだけのことだろう。



「こちらは幼馴染のルウと言います。ワタシたちは一緒に試験を受けに来たのです」


「初めまして。ルウです」



 ルウと名乗る青髪ショートカットの少女は、ちょこんと頭を下げてくれる。


 なるほど。


 生真面目な印象を受けるレナとは対照的に、ゆるい雰囲気の女だな。


 容姿のレベルはレナと同様に高い。


 レナもルウも二人揃って、|一つ星(シングル)の貴族のようだ。


 ザッと見た限り、この会場の中にいる|一つ星(シングル)の貴族は彼女たち2人だけだった。



「あの、もしよければ名前を聞いても良いかな?」


「アルスだ」



 貴族に名乗られたからには、名乗り返さないのは失礼に当たるだろう。


 そう考えた俺は、手短に自己紹介を済ませることにした。



「ふふふ。実を言うと私たち二人、不安だったの。シングルが本当に試験を受けても良いのかなって。けど、アルス君のことを見ていたら、勇気付けられちゃった」


「まったく……。貴族でもない庶民が、王立魔法学園を受験しようなんて前代未聞です」


「なあ。シングルの貴族だと受験で不利になったりするのか?」



 素直に思ったことを尋ねると、二人の少女は深々と溜息を吐いているようであった。



「当然です。この学園にシングルの貴族が入学できたケースは、過去にも数えるほどしかないですから」


「私たちが合格しようと思ったら、圧倒的な力を示す必要があるみたい」



 なるほど。


 貴族の世界も大変なのだな。


 シングルの貴族で絶望的ということであれば、庶民の俺が合格するのは相当厳しそうである。 



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