猛牛(バッファロー)
「ぬおおおおお! 猪突猛進!」
ターゲットを仕留めてから暫くすると、馴染みのある声が聞こえてきた。
「うおっ! もう終わっていたんスね! 流石はアニキ! 仕事が早いッス!」
分厚い石壁を突き破り、俺の前に現れたのはトサカ頭をした強面の男である。
男の名前はサッジと言う。
俺と同じ裏の世界に生きる魔法師であり、魔法師ギルド《ネームレス》に所属する後輩である。
何かにつけて力任せの仕事振りを見せることから、組織から猛牛(バッファロー)の通り名を与えられた男であった。
「追手が来ると面倒だ。引き上げるぞ」
「へいっ。ただいま!」
勢い良く返事をしたサッジは、俺の後に続く。
暗黒都市パラケノスは、
人種、国籍、年齢、性別は問わない。
この暗黒都市は、ありとあらゆる人間たちが、生活しているのだ。
ネオンの明かりに照らされないよう、俺たちは建物の屋上から屋上に飛び移っていく。
「あの、アニキ! 前から疑問に思っていたことを聞いても良いッスか」
「ああ。構わないぞ」
「どうしてアニキは仕事で銃(おもちゃ)なんて使うんスか? アニキほどの魔法師ならば、魔法を使って殺った方が早いに決まっているッス!」
玩具か。
魔法の使える人間は得てして、銃のことを『庶民の武器』と呼んで見下す傾向にあるんだよな。
たしかに魔法は便利だ。
その身一つで使用できるし、鍛えれば銃よりも遥かに高い威力の攻撃を繰り出すことができる。
「簡単に言うと。少しでも現場に残す痕跡を消しておきたいからだな」
「と、言いますと?」
「魔法を使うと、魔力の残滓が残るだろう? 魔力っていうのは、個人情報の塊なんだ。可能な限り現場に残しておきたくない」
魔法に頼り切りの暗殺スタイルが通用したのは、一昔前の話である。
今は魔法師を殺すための様々な技術が研究、開発されているのだ。
暗殺者に求められる技量は、年々増加の一途を辿っていくばかりである。
「ふむ。どうやら言っていた傍から、追手が来たようだぞ」
周囲の魔力が淀み、魔石燃料が燃える独特の音が鳴り響く。
月明かりを遮るようにして、暗黒都市の夜空を飛び回るのは、鳥の形を模した魔道兵器であった。
「げええええ! な、なんスか!? あれ!?」
そうか。
サッジはコイツを見るのは初めてだったか。
「無人追跡機。通称、MK02。魔力の痕跡を頼りに何処までもターゲットを追いかける。最新鋭の魔導兵器さ」
俺は現場に自分の魔力を残すようなヘマはしていない。
おそらくサッジの残した魔力の後を追ってきたのだろう。
「なんだか知らないですけど、撃ち落とせば関係ないッスよね」
威勢良く言葉を返したサッジは、空に向かって得意の火魔法を打ち込んだ。
「火炎連弾(バーニングブレット)!」
ふむ。威力はまあ、それなりだな。
若くして《ネームレス》に所属するだけのことはある。
だがしかし。
サッジの放った渾身の魔法は、寸前のタイミングで回避されることになる。
「無駄だぞ。俺たちの魔力を感知して追ってきているんだ。普通に攻撃しても当たるはずがないだろう」
この兵器の厄介なところは、ターゲットの魔力を感知して、あらゆる魔法攻撃を回避してくる点にある。
「えええええ……!? な、なら、どうやって倒せばいいんスか!?」
そうだな。
コイツ等を打ち落とす方法は幾つかあるが、もっと手っ取り早いのは、敵の習性を逆手に取る。
これに尽きるだろう。
「ア、アニキ……。一体何を……?」
唖然とするサッジを尻目に、俺は夜空に向かって右手を突き上げる。
続けざま、間髪入れずに八発の銃弾を撃ち込んだ。
ターゲットまでの距離はおよそ100メートルと言ったところだろうか。
最初の二発は魔力を込めて強化した銃弾だ。
これは敵の動きを誘導する目的で打ち込んだものである。
残る六発が本命の通常弾。
この兵器は、魔力を介した攻撃は過敏に察知する一方で、それ以外の攻撃には途端に愚鈍になるのである。
瞬間、爆発音。
効率良くターゲットを誘導した俺は、六機の兵器を同時に撃ち落とすことに成功する。
「どうだ。庶民の武器も捨てたものじゃないだろう」
炎を纏って墜落する魔道兵器を見つめながら、俺はポツリと独り呟くのであった。
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