みのりとかおりの麦酒会
赤狸湯たんぽ
第1話
「飲みになんて来なければ良かった…」
私、朝霧みのりは後悔している。それはもう、とてつもなく。なぜかというと、一緒に飲んでいるかおり先輩の相手が面倒臭くて仕方ないからに他ならない。
「おやおやおやー??みのりちゃんがもうすぐ飲み終わる気配がしますねー!!よっしゃ、キタコレ!っん、っん、っん、っん、っん、、っはー!!!うみゃー!!!!ねぇねぇみのりー、次なに飲もっか〜??私はねー、、、これ! COEDOの紅赤飲むぅ〜!」
「かおり先輩、せっかくのビールなんですから味わって飲みましょうよ。ただでさえお酒もあんまり強くないんですから。今日はいつもみたいに私が介抱しながら帰るの、嫌ですからね。」
「なんだよ〜、みのりはつれないなぁ!そんでもって、パンクIPAはゴクゴク飲んで、柑橘に溺れるのが楽しいんじゃんっ!みのりはまだまだ、わかってないなーぁ。それに、だいっじょーぶっ!ぜーんぜんっ酔ってないから安心して!んで、みのりは次何飲むの?はーやーく!次のビール、次のビール!!!」
「先輩、うるさい。じゃあ私は箕面のゆずホ和イト飲みます。すみませーん、注文お願いしまーす。」
こんな風に邪険に扱っているが、かおり先輩には感謝している。女ふたりでこうやって気兼ねなくビールを楽しめる先輩がいるのは素直に有り難いし、こう見えて意外と頼りになるのだ。私が断るのが苦手なのをいいことに無茶な要求を突き通そうとしてくる課長を上手くあしらってくれるし、私の要領が悪さに合わせて着実にステップアップできるよう任せる仕事をコントロールしてくれる。
それに、こうやって今か今かとビールを楽しそうに待ってる笑顔は無邪気そのもので、どうも憎めない。
「きたきた!紅赤ちゃーん!今日も綺麗ねー!」
「ゆずホ和イトはゆずの香り華やいで、最初のひとくちに期待感を持たせてくれてます。」
「それでは!」
「さっそく!」
「「いただきます!」」
「はーん♡紅赤ちゃんおいしー!!アンバービールの香ばしさの中に、さつまいもの優しい甘さがふわーっと広がって、さすがCOEDOって感じー!美味しくって素敵過ぎるぅーーーー!!」
「ゆずホ和イトだって負けてませんよ。ベルジャンスタイルの白ビールを思わせるコリアンダーのスパイシーさと小麦のまろやかさ、ここにゆずのフレッシュな柑橘香が折り重なることで、後を引く味わいになってます。女性ブルワーのパイオニア、箕面ビールの感性と繊細な仕事ぶりを肌で感じることのできる至極の逸品です。」
「うわーーー!おいしそっ!!ちょっとちょっと交換こしよー! 」
「いいですよー。」
「「ふは〜〜〜〜〜」」
「みのりのゆずホ和イトもおいしっ!!白ビールの優しさに包まれながら、ゆずのすっきり感とスパイシーさが効くわコレ!!!するする飲めちゃうねーーー!!」
「ちょっと!私のビールだしあんまり飲み過ぎないでくださいよ。紅赤よりはアルコール度数低いですが、ちゃんと5%あるんですからね。気をつけてくださいよ。」
「はーーーーい!!わかりましたぁーーーー!!」
「まったくもう。では、私も紅赤を。いただきます。…うん、美味しい。COEDOの地川越の名産であるさつまいも、紅赤の魅力がギュギュッと詰まった安心の美味しさですね。さつまいもの香りと優しい甘みをアンバーの香ばしさでまとめあげた洗練された味わいです。さすが、食品というより観光土産としての毛色が強くネガティブなイメージを持たれ続けた第一次地ビールブーム時代をも乗り越えただけのことはあります。信頼と実績が感じられる良きビールですね。あっぱれ!!」
「はぁ、本当にみのりはビールのこととなると饒舌になるんだから〜!そういうのオタクっていうんだよー!モテないぞ〜!!」
「私はただ、素敵なビールとそれを作ってくれたブルワーさんに敬意を示して味わって飲みたいだけなんです。まあ、こんな考えしてるうちはかおり先輩の言う通りモテないんでしょうけど、そう思っちゃうんですから仕方ないんです。でも、そういうかおり先輩だって、そんなへべれけな酔い方してるから彼氏できてもすぐに逃げられてるんじゃないんですか。」
「それはー、付き合った男どもの懐が狭かっただけなんだもーーーん!!てかねー、こんな美少女捕まえて、これくらいの欠点受容できない方が無理だわーーっっ!!こっちから願い下げですわっっ!!なにさ!楽しそうにお酒飲む女の子は可愛いでしょうが!!!」
「私個人としては、かおり先輩と飲むのは楽しいですし、酔い方も…別に嫌いじゃないですが、自分のことを美少女とか言っちゃうところはちょっと嫌悪感です。」
「オイオイオイ!!嫌悪感とか言われるとさすがに傷つくぞ…って…ん?!ちょっと待って。いまどさくさに紛れてみのりデレた?!キャワッ!!!おかわりもう一回!!心のハートに刻むからもう一回言ってーーー!!?!!」
「くっつくな!うざい!!褒めたらすぐ調子乗るんだから。」
「さっきみたいな素直なみのりもいいけど、こういうツンケンした素直じゃないみのりもかわいいの〜〜〜!!ハグ、しようぜ!キラッ」
「しないです。もうこれだけ酔い回ったらこれが最後の一杯ですね。あと2、3杯はいきたかったんですが仕方ないですね。これ以上飲んだらかおり先輩が帰れなくなります。最後に私たちのビールに合わせやすいように頼んだローストポーク食べて帰りましょう。バルサミコソースとマスタードが美味しいですし、紅赤の香ばしさにすごく合うと思いますよ。」
「えっ?!?!それは合わせないともったいないねーっ!!!…ぅはーーーー!!!うまうまの極みじゃんかコレッ!!!!幸せが身体中を駆け巡ってるのがわかるよーー!!!イマココ!!!ここら辺に幸せきてる!!!巡るわーーー!!!!!」
「それは良かったです。焦らず楽しく飲んで帰りましょう。仕方ないので、駅までは介抱して歩いてあげます。」
「やったぁーーーー!!!みのり大好き、チュッチュッ♡」
「うざい。」
新しいお客の入店と共に冬の冷たい風が吹き込んできて少し肌寒いから、抱きつくかおり先輩の温もりを感じるのもそんなに嫌な気持ちはしなかった。
みのりとかおりの麦酒会 赤狸湯たんぽ @akadanuki
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