第99話 魔獣王
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故に、今日2話頑張ります!
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復活……?
一体、何を言っているんだ?
いや、そもそもフィーネルさんの様子が明らかにおかしい。
声も、姿ももはや別人に近い。
「獣憑きの類いか……」
アストリアは呟く。
獣憑きというなら、僕もわかる。
大量の魔力を保有した魔物を倒した直後に起こる現象のことだ。そこから放出される魔力を浴びると、人体の魔力と反応して、人間が魔物のようになってしまうことが、稀にある。
実際に目にしたことはないけど、文字で知る限りにおいて、それに近いものを感じる。
「いや……。あれはそんな生やさしいものではないぞ、ユーリよ」
サリアが僕の影から出てくる。
いつもは人を小馬鹿にしたような表情は、なりを潜めて、すでに戦闘態勢に入っていた。
「よもや、こんな所に封印されていたとはな。魔獣王ガルヴェニよ」
「え?」
「魔獣王……」
「ガルヴェニですって!」
僕も、アストリアも、そしてエイリナ姫も絶句した。
それは魔王と勇者の戦いを記した古い叙事詩に出てくる魔獣の王の名前だ。
そこには、勇者が仲間とともに魔獣王ガルヴェニを討ったと書かれていた。ならば、魔獣王は死んだんじゃないのか?
「所詮、人間が描くことよ。いいように捕らえ、描かれることもある。だが、間違いない。今、我の前にいるのは、我と共闘し、あるいは血肉を削り、覇を争ったガルヴェニだ……」
サリアがそういうなら間違いないだろう。
叙事詩なんかよりも遥かに彼女の記憶の方が正確だ。
でも、どうして魔獣王が、カリビア神王国の社に封印されていたんだろうか。
「復活させたのだ、我らの先々代がな」
答えたのは“
退魔の剣をフィーネルに向けている。その仮面の下からは、汗が滴っていた。その周りをレキとレニが固める。
近衛たちの動揺は収まらない。未だに矛の先を僕たちに向けるか、変貌したフィーネルさんに向けるか、迷っている様子だった。
その中で、“
「今から300年前、この第2層『森宮』テネグで、ダンジョン資源を巡っての内乱が起こった。所謂エルフと獣人の戦争だ。当初、その内乱は獣人の有利に進んだ。獣人の方が人口が多かったことと、エルフよりは遥かに基礎能力が高かったことが原因だ」
戦況は圧倒的だったという。
そこでエルフは、ある手段をとった。
元来、国の神職と王族にしか知られていなかった魔獣王の封印を解くというものだ。
扉の封印を開くことはできなかったが、それでも魔獣王の力を借り受けることができた。
それが――――。
「神仙術……」
「その通り。神仙術を得た我々は、戦争を優位に進め、逆転勝利した。だが、これで終わりではなかったのだ。我々は魔獣王ガルヴェニから力を借り受けた大小として、彼を信仰の対象としなければならなかった。つまり、我々はかつて魔王と同じく、世界で暴れ回った魔獣王を、
「そんな……」
「誰もそれを拒否しなかったのですか、“
エイリナ姫が質問する。
「できなかったのであろう。ガルヴェニと手を切ることは、神仙術を手放すこと……。戦争直後のエルフでは、その判断は難しかっただろう」
“
さらに説明を続ける。
「それにガルヴェニは巧妙だった。獣人に対するエルフの悪感情を利用し、自分好みの
「そうだ。過剰ともいえる身分制度は、未だ獣人に悪感情が大きかったエルフたちの欲望を、見事に叶えたものだった。仮初めの“
そして、“
けれど、フィーネルさんは……。
「時が経てば、戦争の傷も癒える。同時に戦争を知らず、獣人に対する悪感情のない者が現れる。その中でフィーネルは
そして、ガルヴェニの怒りを買った……。
「“
“
この目の前にいる“
「私は他層の文献も集めて、事の真相を探った……。そして我らに手を貸してくれた“
“
魔獣王を殺すために鍛え上げた武器だという。文献に依れば、あの勇者が振るった武器と同じ素材や多種多様な魔法補助が組み込まれているという。
さらに対外的にはクーデターということにした。
仮に魔獣王のことが暴露されれば、それを利用する輩が現れるかもしれないからだ。
「では、何故魔獣王はあんなアパートメントのど真ん中にいたのでしょうか?」
「そんなもの簡単じゃ。お主だ、ユーリ……」
サリアは指摘する。
「お主ならば、あの封印の扉を開けると確信したのだ。そして、“
「魔獣王にまんまと担がれたってこと!!」
エイリナ姫は悲鳴を上げる。
横のアストリアも、動揺を隠せないといった様子だった。
『ううぅぅぅうぅぅぅううぅぅぅぅぅあぁぁぁあああぁあぁぁああぁぁあぁ!!』
突如、呻きだしたのは、フィーネルさん……いや、ガルヴェニだった。
すでに異形とも呼べる変貌を果たしていたフィーネルさんの身体が、空気を入れたようにたくましく膨らんでくる。
肩や背中、足が盛り上がり、服が弾けると、そこから現れたのは鮮烈な銀毛であった。
禍々しく針金のような銀毛は、一切の接触を拒否するかのようにそそり立っている。
『ぐるるるるるるるるるるるる……』
ふっと意識を失ってしまうほどの甘ったるい獣臭が、立ちこめる。
喉を鳴らす音とともに現れたのは、巨大な魔獣だった。
獅子に似た銀毛の鬣。巨大な神樹であろうと一掴みできそうな大きな手足。頭の上には、太いスピアのような角が伸び、赤黒い顎門の中で牙が光っている。
漂ってくる雰囲気は、どんな魔物にもない王気の気配。
険しい顔と共に、その濁った赤い瞳は、その場にいる全員の背筋を寒からしめていた。
『改めて名乗ろうか、人間よ。我が名はガルヴェニ……。魔獣王ガルヴェニである』
哄笑を響かせる。
思わず1歩退きたくなるような覇気に、みんなが飲み込まれていった。
その中で、1人前に進む人間がいる。
僕だ。
ガルヴェニの赤い目と、視線を交わす。
『お前には礼を言おう、鍵師。お前のおかげで、我の封印は解かれた。感謝しよう』
「許さない……」
『許さぬか、我を。まあ、そうであろう。だが、すべては愚かなエルフや人間がしたこと。我は助言を与えたにすぎない』
「ああ。そうだ。愚かだ」
僕も含めて……。
騙されていた人間すべてが愚かだ。
けれど……。
「フィーネルさんだけは違った。お前の甘言に逆らい、命を失った。彼女だけが、彼女だけは愚かじゃなかった。それをお前は――――」
『忌々しい“
「絶対に許さない……」
『だから、どうだというのだ? 我はかの勇者すら封印するしかなかった魔獣王だぞ。それとも、そこな魔王が我の相手になるのか?』
「くっくっくっ……。愚かなり、魔獣王よ」
『なんだと?』
サリアは、そっと僕の首に手を回した。
「こやつを単なる鍵師と侮るなよ、魔獣王。我の助力など必要ない。このユーリ・キーデンスはな。魔王サリアが認めた天才じゃ。我がやることといえば、お前の屍を見送ることだけよ」
『世迷い言を……』
「そう思うなら試してみるがよい。止めはせぬ。それにな、魔獣王よ。我もそなたのことを煩わしく思っておった……」
この世に「魔」を冠する「王」は、我を於いて2人も入らぬ……。
「サリア……」
「皆まで言うな、ユーリ。お前の心根など透けて見える。本来であれば、拒否するところであろうが、今だけは特別に我の魔力を貸し与えることを許そう」
「ありがとう」
そして僕は手を掲げる。
「時間――――」
【
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もう1話はしばしお待ち下さい!
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