第91話 樵との出会い(前編)
「ゆ、ユーリさん!!」
僕を見るなり素っ頓狂な声を上げたのは、ハーレイさんだ。
ギルドの受付嬢である彼女がいる場所といえば、ズバリギルドだ。
僕は2日ぶりぐらいにギルドを訪れていた。
たった2日なのに、もう随分と昔のことのような気がする。
「こんにちは、ハーレイさん。ダンジョンに行く許可を――――」
言い終わらない内に、ハーレイさんは僕の胸倉を掴む。
カウンターに膝を置いて乗り出すと、自分の顔へと引き寄せた。
「ちょっ! いいんですか、ユーリさん。こんなところにいて!!」
「え?」
「噂になってますよ。宮中近衛隊に喧嘩を売ったって……」
「え゛え゛!」
もう!
昨日のことだよ、あれって……。
しかも、なんで僕だってわかってるんだろう。
――って思ったけど、よく考えたらアストリアが『S級冒険者』って名乗ってたっけ。
「ちょうどさっきうちに連絡があったんですよ。『ユーリ・キーデンスとアストリア・クーデルレインという冒険者は知らないか』って。うちでの登録ではなかったので、ひとまず保留ということで誤魔化しましたけど……」
「すみません。迷惑をおかけしてしまって。でも、向こうも知ってるはずなんですけどね」
僕たちを第2層に足止めしているのは、宮廷がギルドに手を回したからだ。
もっと言えば、シュバイセルの嫌がらせでもある。
ならば、僕の名前を知っていてもおかしくないはずだけど。
「兵武省と宮中近衛隊は犬猿の仲ですから。情報共有できていないのでしょ」
そう言えば、シュバイセルも宮廷が襲われたのに、『我関せず』という態度だった。本来なら慌てて宮廷に戻ってしかるべきなのにだ。
もしかしたら兵武省そのものが襲われている可能性があるというのに。
自分の出世のことしか考えられないなんて。
ますます好きになれない男だ。
「正直、ギルドも危ないですよ。定期的に衛兵が見回りにくるようになりましたし」
「わかりました。ハーレイさんには迷惑をおかけするわけにはいきません。僕単独で、ダンジョンに行こうと思います」
「待った待った。これ持っていって下さい」
ハーレイさんは手早く馬車券を出してくれた。
これがなければ、ダンジョンに向かう馬車に乗ることができないのだ。
「いいんですか?」
「もちろん、よくありませんよ。でも、私はユーリさんを応援してますから」
「あ、ありがとうございます」
「今、ダンジョンにはソロンさんがいます。1便前の馬車に乗っていったので、おそらくユーリさんと、アストリアさんなら追いつくことができるでしょ。人の手が必要なら協力してくれると思います。皆さん、心配もしていましたし」
そうか。
ソロンさんもか。
他の冒険者にも会いたいな。
「何から何まですみません」
「いいえ。こんなことしかできませんから」
馬車券を僕に手渡す。
受け取ると、それを眺めながら僕は尋ねた。
「あ。その前に1つ質問させてもらっていいですか?」
「え?」
ハーレイさんは首を傾げた。
◆◇◆◇◆
「そうか。ハーレイがそんなことを……」
サーゲイが引く幌付きの客車に乗った僕は、ダンジョンを目指していた。
このタイミングで、何故ダンジョンに行くかというと、ある物を調達するためだ。
それを調達するためには、出来れば人が多い方が助かる。
もしダンジョンでソロンさんと合流できれば、事情を話して協力してもらおうと思っていた。
そして今回は人手がいるということで、もう1人助っ人を僕は連れている。
「もう! この客車揺れすぎ! 私のお尻がペタンコにする気ぃ!?」
プリプリと文句を言うのは、エイリナ姫だ。
冒険者が乗る安い馬車が合わないのだろう。
さっきから顔を赤くし、大きなお尻を撫でていた。
「心配するな、エイリナ。お前のお尻はそんなことで平たくなることはない」
「そんな言い方はないでしょ、アストリア。むかつく! 私のお尻がでかすぎるとでも言いたいわけ……」
「別にそんなことは言っていない。だが、少し垂れたんじゃないか? 鍛錬をサボっているのでは?」
「…………し、してるわよ」
「今、間があった……」
「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!」
ついにエイリナ姫は駄々をこねた子どものように暴れる。
アストリアと額をくっつけて睨み合った。
そろそろ2人ともやめて。
これ以上、美少女を連れ歩く僕を、好奇な視線に晒さないでほしいなあ。
はあ……、とため息を吐いた僕は、客車の外を見る。
神都から真っ直ぐ西へと向かう街道沿いには、びっしりと大地を埋め尽くすように太い幹の神樹が並んでいた。
何度も見ても圧巻の言葉に尽きる。
『森宮』といわれるだけあって、この層自体が森の宮廷のような荘厳さを感じる。
何より、かつて2つの種族が相争っていたとは思えないほど、静かだった。
「あっ!!」
僕はふと発見してしまった。
走っている客車から飛び出す。
「「ちょ! ユーリ!!」」
アストリアとエイリナ姫の声が遠くなる。
僕は――――。
「全身――――」
【
そのまま地面に激突した。
装備は砂埃まみれになったが、無傷で起き上がる。
そのまま街道を逸れて、神樹が並ぶ方に向かうと、規則正しい音が聞こえてきた。
コォン! コォン! コォン!!
気持ちのいい音だ。
朝起きて、1番に聞いたらさぞ目覚めも良い感じになるだろう。
僕は音の出所へと向かう。
そっと歩いていたつもりだったけど、残念ながら向こうに見つかってしまった。
「誰だ?」
声を上げたのは、鹿頭の獣人だった。
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
カクヨムコン6に応募しております。
今日で応募締切。そして2月7日までが読者選考期間になります。
たくさんの応援、★レビューいただけると嬉しいです
よろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます