第88話 思わぬ再会

 ふぅ……。


 僕は思わず胸を撫で下ろした。

 シュバイセルがやったことは許せない。

 今もだ。

 それでも「助かった」という思いが強かった。


 だが、安心はできない。

 結局オルロさんは連れていかれてしまった。

 この国の法を犯してしまったのだ。

 それを引き留める力は、さすがのエイリナ姫でも無理だった。


「全く……。どこにでもいるわね、ああいう輩は。邪悪さでいえば、ラバラケル親子か、それ以上ね」


 シュバイセルが立ち去った後に、エイリナ姫はベーと舌を出す。


 お茶目でおてんばなところは、相変わらずらしい。


「あんたたちもよ、ユーリ、アストリア。こんな所で油を売っている時間なんてないはずよ。なのに、今の自分たちの状況を改善するんじゃなくて、人様の国に喧嘩売るなんて。送り出した人間としては、ちょっとがっかりだわ」


 エイリナ姫は金髪を揺らし、早速ダメだしする。


 ぐぅの音もでない。

 姫の言うとおりだ。

 僕たちの目的は、神王国を変えることじゃない。


 アストリアは仲間の救出を。

 そして僕は第10層へ赴き、魔力の発生原因を突き止める。


 忘れたわけではないけど、優先度という点において間違っていたことは否めない。


「そう。政治的な力が働いていることはわかっていたでしょ? それなら、まず私を頼りなさい。政治屋ってのはね。結局民衆の声では動かないものなの。権力者の声で動くの。特にシュバイセルみたいなヤツはね」


 その通りだ。

 まず第1層に戻ってでも、エイリナ姫に相談すべきだった。


 僕が帯びている使命は、国家に関わることでもある。

 アストリアの目的も、貴重なS級冒険者の人命だ。


 もはや僕たちの問題じゃない。

 それなら、エイリナ姫に相談すべきだった。


「それとも、そんなに私が頼りない?」


「そ、そういうわけではありません、姫。僕たちが勘違いしていただけです」


「よろしい。大いに反省なさい。アストリアもね」


「すまない、エイリナ。……だが、随分と状況が把握しているようだが。誰から聞いた」


「ギルド経由である程度ね。カリビア神王国の内情も、だいたいわかってるわ。クーデターのことも聞いてる」


「そこまでわかっているんですか?」


「国と国の間では、毎年50億ルド以上の商取引が行われているのよ。特にカリビア神王国は、隣の国で上得意様。だからこそ気を配らなければならないの。取引相手が破産寸前なら、誰だって取り引きしたくないでしょ」


「な、なるほど」


 エイリナ姫……。

 その気を配らなければならない相手に、あれだけの啖呵を切ったんだ。


 僕はもう笑うしかなかった。


「ま、十分脅しておいたし、カリビア神王国の外交省にも抗議したわ。おそらく明日にでも、第3層へ下りる許可が出るはずよ」


「そのことなんですが、エイリナ姫」


 僕は顔を上げた。

 エイリナ姫をじっと見つめる。


 姫の計らいで、僕たちは第3層に行くことができる。

 やっと自分たちの本来の目的を果たせる。

 だけど、あまりに僕たちが見て聞いたものは大きい。


 放り出すには、重い宿題だった。


「はあ……」


 エイリナ姫は大きく息を吐き出す。


「アストリアも同じ気持ちなのね」


「エイリナの計らいは有り難いと思っている。だが、乗りかかった舟から下りるのは難しい。父が捕まってしまった。私が頼ったばっかりにだ。なのに自分のわがままを押し通すなんて真似は、もう私にはできない」



 もう私は、3年前の何も知らなかった子どもではないのだ……。



 その言葉を聞いて、エイリナ姫も「ふぅ」と息を吐いた。


「ホント相変わらずね、あんたたち2人は。お節介というか、責任感の塊というか。てか、アストリアもアストリアよ。なんかユーリみたいになってるわよ、あんた」


「それは仕方ないよ、エイリナ。……ユーリは私のパートナーなのだから」


 そっとアストリアは僕の手を握る。

 その手は柔らかく、かつ温かい。

 熱い気持ちが、伝わってくるようだった。


「見せつけてくれるわね。悪いけど、これ以上手助けできないわよ。クーデターも、冠位十二階グランド・トゥエルブもね」


「わかっています」


「今のでお釣りが来るぐらいだ。ありがとう、エイリナ」


 僕たちは揃って頭を下げた。


 エイリナ姫は「調子狂うわね」とこめかみの辺りを掻いて、照れていた。


 その姫に魔法で玄関を修理してもらい、僕たちは離れにいるロザリムさんとミーキャに合流することにした。

 随分と心配しているだろう。

 特にミーキャの容態が心配だった。


「母上……」


 離れの戸を開ける。

 中に入ると、僕たちは固まった。


 そこには気を失ったロザリムさん。

 そしてミーキャを含めて3人の獣人が立っていた。

 相変わらずミーキャの意識はない。

 その彼女を負ぶさっていたのは、背の高い狼頭の獣人だった。



「「「「あっ!」」」」



 奇しくも僕たちと獣人たちの声が重なる。

 成り行きで付いてきたエイリナ姫だけが、目を細めて状況を確認していた。


「あ、あなたたち……」


「な、なんや! お前らかいな?」


「何故、ここにお前たちが……」


「そ、それはこっちの台詞や」


 互いの言葉が交錯する。


 その独特のイントネーションは忘れもしない。

 狼頭の横にいる白猫族の獣人の姿も……。


「ロクセルさんと……? リッピーさん?」


「まさかこんな所で会うとはな、坊主」


 それは僕たちが出会った泥棒たちだった。



~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


というわけで、獣人たちと再会です。


こちらカクヨムコン6に応募しております。

読者選考期間が近づいて参りました。面白いと思っていただけたら、是非★レビューをいただけると幸いです。よろしくお願いします。


本日、拙作『ゼロスキルの料理番』のコミカライズ更新日となっております。

ヤングエースUP様で更新中なので、こちらもどうぞよろしくお願いしますm(_ _)m

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