第83話 概念停止
「これはどういうことだ?」
アストリアも驚きを隠せなかった。
だが、僕は魔力を一気に使いすぎて、息を整えるのに精一杯だ。
第三の鍵魔法はかなり魔力を食う。
しかも、広範囲だ。
さらにいえば、【時間停止】をしてから間もない。
頭をズキズキして、思考がまとまらなかった。
アストリアの質問について、代わりに答えたのは、影の中のサリアだ。
珍しく外に出てくる。
「相変わらず無茶するのぉ、ユーリ。そして出鱈目じゃ」
「サリア、どういうことだ? あなたの力なのか?」
「ふん。我の力じゃと? 我が本気になれば、こんなものではすまぬ。これはユーリの力じゃ。見ての通り、アパートメントの人の侵入を拒んでおる」
「そんなことが鍵魔法でできるのか?」
「できんよ。だが、認めたくないがこやつは天才よ。その上に『馬鹿』が付くがな。常軌を逸しておる。長いキーデンス家において、ユーリほど類い稀な鍵魔法――いや、鍵魔法の常識そのものを覆していた者はおるまい」
な、なんか。
珍しくサリアに褒められてる、僕。
「もっと具体的に教えてくれないか、サリア」
「本来、鍵魔法はユーリも話していた通り、物と物を固着させる、あるいは物と物と引き離す魔法なのだ」
アストリアが頷く。
「それは知っているが?」
「気付かぬか、聖霊使い。ならば、今の状況は何と何が固着しておる? あるいは何が引き離しておる?」
「あ?」
アストリアは声を上げて、そのまま固まった。
「な? だから、常識が外れておるのだ」
第三の鍵魔法とは、いわば“概念”を
「“概念”を
「別に今に始まったわけではないぞ。最近では、オークのこん棒の動きを【
「考えてみれば、ユーリの鍵魔法の使い方は、鍵魔法本来の用途からは外れている」
「もはや神業……。神そのものの御技よ。だから、出鱈目だ。なのに、こやつは誰からの教えも請うことなく、さも当たり前に運用している」
すると、サリアは「くくく」と笑った。
何かを思いだしたらしい。
「【時間停止】とて、我との戯れで習得したと思っている愚か者がおるかもしれないが、それは全く違う」
「なんだと?」
「我がスイーツを所望した時、就業時間ゆえに宮廷を出られることができなかった」
「まさか――――」
「そう。そこで編み出されたのが【時間停止】よ。こやつ、ケーキを買いにいくついでに【時間停止】を編み出したじゃ」
「で、出鱈目すぎる……」
アストリアは完全に呆気に取られていた。
まるで僕を別の生き物みたいな目で見る。
なんか褒められているみたいだけど、悲しい。
「ともかくこれでひとまず安心じゃろ。立入禁止はあらゆるものを出入りを禁止する。魔法などもその範疇外ではない」
「ひ、ひとまず安心だね」
ようやく息を整えた僕は立ち上がる。
アストリアが心配そうな顔をして、支えてくれた。
「だが、ずっと籠城しているわけにもいかぬぞ、ユーリ。どうする気じゃ?」
「この間にフィーネルさんが言ってた反神王国同盟に接触するよ」
ただ問題は、フィーネルさんもどこにいるかわからないってことだ。
反神王国同盟は国に追われる身だ。
普通に考えて、アジトも点々と変えているはず。
見つけるのは至難の業だ。
だが、時間がない。
【立入禁止】は保って3日。
かけ続ければ問題ないけど、食糧が尽きてくる。
今のところ子どもたちは健康だけど、病気になったら一溜まりもない。
「せめて、少しでも手がかりがあれば……」
そう思ったのも束の間だった。
身が押されるような衝撃が走る。
ドォォォォオオオオオンンンンン!!
続いて爆発音が神都全域に響いた。
「ユーリ! あれを見ろ!!」
「あ……」
僕は思わず声を漏らす。
宮廷の中から大きな黒煙が上がっていた。
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オークか(がたっ!)
次回をお楽しみに!
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