第63話 冠位十二階
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第二部も引き続き頑張っていきますので、
応援よろしくお願いします。
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「何の騒ぎだ?」
冷たい声が、ギルド前を通り過ぎていく。
妙に身体を粟立たせる声だ。
同じ事は他の人たちも思ったらしい。
縄張り争いする猫のように睨み合っていたアストリアとハーレイさんも、顔を上げた。
現れたのは、2名の衛兵。
そしてその間に挟まれた如何にも官吏という感じの男だった。
濃い銀髪を髪油で撫で付けた頭に、細長い体躯。
鋭利なナイフを思わせるような眼鏡を光らせ、神経質そうな濁った緑眼をこちらに向けていた。
第2層と第1層は、近くても文化的にはかなり異なる。
官吏が来ていた服は、ムスタリフ王国のものとは違っていて、袖口が広く、釦は使われず、紐や帯で括られていた。
「ありゃ、
「ことど?」
ソロンが呟いた謎の言葉に、僕は反応する。
「頭が高いぞ、お前たち。兵武省見回り組局長シュバイセル・ミグロス様の前だぞ」
衛兵が注意する。
見れば、往来に立っていた人はみんな膝を突き、頭を下げていた。
見回り組局長?
組なのに、局長なんだ?
なんでだろう。
「おい。坊主、頭を下げろ!」
ソロンさんに半ば強制的に頭を下げさせられる。
「誰ですか、あの人?」
「とりあえず頭を下げておけ。面倒事になる前にな」
「面倒事?」
僕が目を瞬いていると、衛兵の怒鳴り声がすぐ側で聞こえた。
少し顔を上げて様子を伺うと、アストリアが立ったままだ。
皆が頭を下げる中で、彼女だけが毅然とした態度を取っている。
「貴様! 何故、頭を下げない!!」
衛兵が2度に渡って注意する。
それでもアストリアは膝を突かなかった。
「私は“
「ほう。冒険者の中にエルフが混じっていたか? しかも、“
シュバイセルという官吏は、眼鏡を光らせる。
ややアストリアをねぶるように見つめた。
見ているだけで気持ちの悪い気配だ。
なのに、アストリアはやはり毅然としたままだった。
「グーデルレイン家の子女アストリアだ」
「グーデルレイン……。アストリア……。ああ、貴様がエルフで初めてS級冒険者になったという、あの……」
「…………」
「しかし、よもや“
手で制すと、衛兵は後ろに退く。
そのままシュバイセルは、側にあったオークに視線を移した。
「ほう……。大きいな。その割には状態は悪くない。見せ物としては、この上ないな。“
「お言葉ですが、シュバイセル様」
頭を下げながら、ハーレイさんは口を開く。
「そのオークはすでにギルドが買い取りました。すでに契約は済んでおります」
「そうか。すでに買い手がついているのか。ならば、オレがギルドから買い取っても問題はあるまい」
そう言って、シュバイセルは懐をまさぐる。
紐財布を解くと、ピッと1枚の札を取り出した。
「悪いが、これしかない。釣りは良いので、そのまま取っておけ」
ピッ、とハーレイさんに飛ばす。
地面に落ちたのは、1万ルド紙幣だった。
ハーレイさんだけじゃない。
それを見て、みんなが唖然としていた。
慌てて、ハーレイさんは声を大にする。
「お待ち下さい。これでは足りません! 冒険者と交わした契約は、661万4500ルドです。これではまるで――――」
「なんだ、貴様? “
シュバイセルは声を荒らげた。
その怒りに呼応するように衛兵たちが槍を構える。
だが、槍2本程度の脅しに屈するぐらいなら、冒険者などやってられない。
オーク戦に参加した冒険者は、顔を上げて、反抗的な視線を送った。
「なんだ、その目は? そもそもだ。お前らが悪いのだぞ」
「僕たちが?」
「まるで英雄の凱旋とばかりに通りを練り歩き、神都を騒がせた。今も、我も通りの真ん中で大騒ぎをして、通行を妨げ、オレの職務を妨害したのだ。その罪を、オーク1匹で許してやろうという、オレの寛大な心を何故わからん?」
「それについては謝ります」
僕は思わず立ち上がった時には、口に吐いていた。
「でも、そのオークは冒険者たちの成果なんです。仕事の評価なんです。それを不当に取り引きされて黙っているほど、僕たちは気安くありません」
「そうだ!」
「いいぞ!」
「よく言った、坊主!!」
冒険者は賛同する。
僕と同じく立ち上がり、抗議の声を上げる者もいた。
シュバイセルは何も言い返さない。
ただ冷たい目で僕たちを見下ろす。
すると、顎を振った。
衛兵が動く。
僕に向かって、容赦なく槍を突いてきた。
だが、僕も黙ってみていたわけじゃない。
「全身――――」
【
ギィン、槍が跳ね返る。
衛兵はその感触に瞼を広げた。
再び槍を振るうが、僕には全く効かない。
やがて疲れ果て、1度後退する。
「何をしている?」
シュバイセルの不機嫌そうな声が飛んだ。
「シュバイセル様」
「奴の身体は鋼鉄のように」
「黙れ……」
冷や水のような声が漏れる。
その瞬間、シュバイセルは手を広げた。
【
直後、青白い雷が弾けた。
直線上に伸びると、衛兵を貫く。
「ぎゃああああああああああ!!」
「があああああああああああ!!」
衛兵の悲鳴を上げた。
そのまま黒こげになるまで殺し尽くす。
倒れた時には、すでに衛兵の息はなかった。
しん……。
当然、静まり返った。
冒険者は顔を青くし、ハーレイさんは口を手で塞いでいる。
アストリアも大きく目を見広げていた。
「あなたは!!」
僕は吠える。
自分の部下をあっさり殺すなんて。
それも人が見ている前で。
この人には自信がある。
自分が部下を殺しても、罪に問われない自信があるんだ。
「あなたの部下でしょ?」
「だからどうした? 所詮は“
シュバイセルは僕に向かって手を掲げる。
「ユーリ!」
「ユーリさん!!」
アストリアとハーレイさんの声が聞こえた。
その直後だ。
シュバイセルは先ほどの稲妻を収束させる。
まずい!
先ほどの雷撃が来る!
『愚か者! 前に出よ!! お前にはそれぐらいしかなかろう』
影から声が聞こえた。
魔王サリアの声だ。
だが、彼女の言うとおり。
僕には鍵魔法しかない。
そして、今は前に進み続けるしかない。
距離を詰めると、鍵魔法の有効距離まで接敵した。
間に合え!!
「【神雷】――――」
【
スンッ!!
その瞬間、シュバイセルの手を覆っていた。雷精が消える。
思わず手を引いて、後退したのは、シュバイセルだった。
先ほどまで人々を驚かせていた官吏は、手を何度もかざす。
だが、先ほどの稲妻が解き放たれることはなかった。
割と一か八かだと思ったけど、うまくいった。
サリアのおかげだな。
後で礼を言おう。
「な、なんだ! 貴様!! 何者だ!!」
これまで氷山のように青白かったシュバイセルの顔が真っ赤になる。
オークのように鼻息を荒く吐き、僕を睨んだ。
僕は唇を緩める。
ようやく、この目の前の男が、僕を見たような気がしたからだ。
僕は胸を叩く。
「僕の名前はユーリ・キーデンス……」
鍵師だ!
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
本日はここまでです。
ついに第二層の敵役登場です。
どんな風に、このスカした顔を歪めるかお楽しみに!
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