第62話 アストリアの意地

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「うわあぁ~。すご~い!」


 子どものような声を上げたのは、第2層にあるギルドの受付嬢だ。

 ギルドの前に運ばれてきた巨大オークに驚いている。

 ほう、と口を開けて、周囲を歩く姿は、背丈も相まって巨人に群がる小人のようだった。


 いや、それよりも僕には言いたいことがある。


「あ、あの? マーレイさん?」


 その名前は、第1層で出会ったギルドの受付嬢の名前だ。

 僕も大変お世話になった人である。

 なんで、今その名前を出したかというと、目の前の受付嬢がそっくりだったからなのだ。


 いや、そっくりというよりもはや本人でしょ。

 童顔に、雰囲気、さらに胸の大きさまで一緒だ。

 隣のアストリアが瞠目している姿まで似ている。


 すると、巨人を眺めていたギルドの受付嬢は、僕の方を向く。

 ぷくぅ、と頬を膨らませ、抗議した。


「ユーリさん、私の名前はハーレイです。見てください、この耳を」


 ハーレイと名乗るマーレイのそっくりさんは、自分の耳を見せる。

 確かに特徴的なエルフ耳をしている。

 しかし、その他は全部といって良いほど、同じだ。


「マーレイは、私の従姉妹です――――って、この説明以前にもしましたよね」


「す、すみません。あまりに似ていたというか。本人がエルフの偽装コスプレをしているんじゃないかと思うほど、似ているので」


「ち・が・い・ま・す!」


 マーレイ……じゃなかった、ハーレイさんはバタバタと手を振る。

 なんか漂ってくるせわしなさまで一緒だ。


「どうだ? 引き受けてくれるか?」


 アストリアが質問すると、ハーレイさんは大きく頷いた。


「勿論です。ここまで原型が残っていて、これほどの大きなオークはないですからね。魔獣を研究している機関ならば、高く買い取ってくれるはずです」


 ハーレイさんの言葉に、聞いていた冒険者はどよめいた。

 みんな、ホクホク顔だ。

 今回、僕が受けたのは合同依頼。

 討ち取った魔物の褒賞金を、参加した冒険者に分配されることになっている。


 その分配比率は細かく決まっていて、例えば最後にトドメの一撃を入れた人間には、報酬の3割がもらえるという風にだ。


 冒険者で分け合うので、1人で討伐する時よりも分け前は減る。

 けれど、その分リスクは少なくて済むのが、利点だ。

 そして褒賞金が大きければ、それだけ分け前も増えるのである。


「そうですね。350万ルドでいかがでしょうか?」


「よし。買っ――――」


 横のソロンが身を乗り出した瞬間、アストリアの手がその口を塞いだ。


 こほん、と咳払いした後、ハーレイさんを睨んだアストリアはこう言った。


「安い……。400万ルド」


「えええええ! 400万ルドですか。じゃあ、せめて365万では……」


 アストリアは首を横に振る。

 頑とした姿勢を見せた。

 なんかまた変なスイッチが入ったらしい。


「395万……」


「ま、待って下さい。えっと……375!」


「390……」


「5万ルドしか変わってないじゃないですか!!」


 ハーレイさんは涙目になる。

 こうなった時のアストリアもまた、S級だ。

 他の冒険者は呆気に取られながら、2人のやりとりを見ている。


「じゃ、じゃあ……。383万5000ルドで……」


「うーん。そうだな。そこに今回の消耗品費用を合わせてくれ」


「ひっ……。う、うう……。わかりました。それでお願いします」


 ハーレイさんはガックリと項垂れた。

 一方、冒険者は大騒ぎだ。

 350万ルドが、383万5000ルドになったことに加えて、今回の消耗品の支払いまで含まれているという。

 願ったり叶ったりだろう。


 ただ、値切られたハーレイさんがさすがに気の毒だ。


「さ、さすがにやりすぎじゃないかな、アストリア?」


 がっくりと肩を落としたハーレイさんを見つめる。


「甘いな、ユーリ。こういう交渉は冒険者の間では、日常茶飯事なんだ。当然、ハーレイも慣れている。甘い顔をすると、つけあがるぞ」


「そ、そうなんですか?」


 もしかして、ガックリと項垂れた顔には、してやったりという不敵な笑みでも浮かべているのだろうか。

 そう思うと、ちょっと怖い。


「あ? そう言えば、トドメを刺しておかないと」


 僕の言葉に、ハーレイさんのエルフ耳がピクリと動いた。


「と、トドメって……。まだ生きてるんですか、このオーク」


「はい。鍵魔法で止めてるだけなので」


「――――ッ!」


 信じられないという顔で、ハーレイさんは目を剥く。

 さっきまでの失望感を感じさせない。

 やはりお芝居だったのだろうか。

 だとしたら、怖いなあ……。


「触ってみてください。鼓動が聞こえてくると思いますよ」


 ハーレイさんは言われた通りに、巨大オークに触る。


 ドクンッ!!


「ヒッ!!」


 反射的に引っ込めた。

 たちまち顔を青くする。


「ほ、ホントだ! い、生きてる!! このオーク、生きてますよ」


「先ほども言いましたが、鍵魔法で全身の動きを止めているので」


「危なくないですか?」


「大丈夫です。じゃなかったら、こんなところまで持ち込みませんよ」


 あはははは……、と僕は笑った。


「すごい! すごいですよ。生きたオークの素体なんて」


 ハーレイさんは再び目を輝かせる。


「前代未聞です。前例なんてありませんからね。……たぶん、多くの研究機関が手を上げると思います。もしかしたら、競りにかけられるかも」


「競り?」


 僕が首を傾げると、ソロンが説明してくれた。


「貴重種の魔獣は、競りにかけられるんだ。エドマンジュは広い。いろんな種族や人間がいる。中には魔獣を剥製にして眺めていたいという貴族もいるぐらいだ」


「500……いえ。もしかしたら、700万はくだらないかと」


 な、700万ルド!!


 さすがに驚いた。

 僕が提示した予算に近い数字になってる。

 そもそも国が出し渋るぐらいのお金を持っている人間なんているのかな。


「ほほう。それは良いことを聞いた」


 そこで銀髪を燃え上がらせたのは、アストリアだった。


「ならば、700万ルドとはいわぬ。650万でどうだ?」


「だ、駄目ですよ。さっき383万5000ルドって決まったじゃないですか!?」


 再び値切りの女王となったアストリアに、ハーレイさんは果敢に挑んでいく。

 S級冒険者の眼光に怯まず、睨み返してきた。


 あ、あの~。2人ともそれぐらいで。


「ユーリ!」


「は、はい!」


「オークの心臓を【閉めろロック】したまえ!」


「だ、駄目です! 今の金額は、生きていることが条件で……」


「なら、こっちの383万5000ルドは、死んだオークを引き渡すのが条件だからな」


 正直、今どうでもいいことかもだけど、383万5000ルドって、すっごく細かい数字だな。


「ず、ずるい!」


「そもそも鍵魔法をかかった状態では、刃物1本通らないぞ。今なら優秀な鍵師が手助けしてくれるかもな」


「あ、アストリア……。僕は別に――――」


「ユーリ、君は少し黙ってて」


「は、はい」


 凄い眼光で睨まれ、僕は直立不動の姿勢になる。

 こうなったアストリアは誰も止められない。


「では、ハーレイ殿。680万から行こうか」


「勝手に値段を釣り上げないでください! わかりました! それなら、とことんまでやってやろうじゃありませんか!!」


 こうして女の戦いの火蓋が切られるのだった。



 5分後……。



「661万4500ルドで、いいです」


「よし……。勝った……」


「売ったの間違いじゃないですか、アストリアさん」


「ふふ……。そうだな。しかし、なかなかやるじゃないか、ハーレイ」


「あなたの方こそ、アストリアさん」


 2人はがっしりと握手する。

 両者の目はキラキラと輝き、互いの健闘を讃えていた。

 何か妙な友情が生まれたらしい。


 あと、やっぱこまかすぎない?

 お金……。


 ただ僕は引きつった笑みを返すしかない。

 すると、ふと思い出した。


「そう言えば、消耗品の代金は…………」


 言った瞬間、またアストリアから炎が燃え上がる。

 それに呼応して、ハーレイさんも髪を逆立てた。


 2人とも、大事な友達を殺された怒りで覚醒した英雄みたいに燃え上がっている。


「どうやら戦いは続いていたらしいな」


「こうなったら徹底的にやりましょう!!」


 いや、もういいって!!



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本日はもう1話投稿する予定です。

お楽しみに!

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