第61話 冒険者凱旋

昨日2話投稿しております。

お間違えのないようお願いします。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


 沿道に人だかりができていた。

 ダンジョンから帰ってきた冒険者に驚き、声援が送られる。

 こうして街の人が冒険者の帰還を歓迎するのは、稀の事だという。


「はは! こんなこと初めてだぜ」

「みんな、俺たちを見てる」

「英雄の凱旋だな、坊主」


 冒険者の1人ソロンさんが肩を叩く。

 ムスタリフ王国出身の人族で、C級のランクを持つ冒険者だ。

 戦術的にはアストリアが指揮をしていたけど、数多くの冒険者を取りまとめていたのは、この人だ。


 冒険者は手を振ったり、ガッツポーズを取ったりしている。

 綺麗な女性には、投げキッスを送る人もいた。


 だが、沿道の観衆は誰も僕たちを見ていない。

 冒険者を侮っているというわけではないだろう。

 しかし、その視線の先が僕たち冒険者にいかないのは、致し方ないことだった。


 何せ通りを練り歩く僕たち冒険者の後ろには、ムスタリフ王国の王城の尖塔よりも大きなオークがいたからだ。


「すげぇ!」

「でげぇ!」

「あんな大きなオークを仕留めたのか」

「うちの兵士でも仕留められるのか?」

「いや……――――」


 オークを見た観衆から声が聞こえる。

 皆が息を呑み、その大きさに瞠目していた。


「うわっ!!」


 突然僕は持ち上げられる。

 やったのは、ソロンだ。

 軽々と僕を持ち上げ、肩車する。


「ちょ! ソロンさん!!」


 抗議するが、ソロンさんはニヤけるばかりだ。


「おーい! 皆の衆! このオークをやったのは、こいつだ!!」


 大声を張り上げる。

 すると、再び歓声が沸き上がった。


「え? あんなに若い冒険者が?」

「まだ子どもといってもいいんじゃ……」

「ホントか? 全然そうは見えないけど」


 疑問の声もちらほら……。

 それに対して、ソロンさんがアンサーした。


「嘘じゃねぇよ。こんなこと嘘でも言わねぇよ」


「そうだ!」

「やったのはこの坊主だぞ」

「嘘は言ってねぇ、マジだ」


 他の冒険者たちも口々に言った。


「ソロンさん……。みなさんも……。あれは、僕1人じゃ……」


「そりゃそうだ」


 ソロンさんは僕にこっそり囁く。


「え?」


「だが、ユーリ。お前、第10層に行きたいんだろ?」


「は、はい」


「間違いねぇ。お前なら行けるさ。お前はもっと強くなる」


「だからって、手柄を……」


「ばーか。いつか第10層に行く冒険者様に恩を売っておくと、先々においておいしい想いができるだろ」


 ソロンさんはニヤリと笑う。

 他の冒険者たちも同じ魂胆らしい。

 歯を見せて、ニヒヒヒと子どものように笑っていた。


 これはもしかしたら、またお酒を奢らなければならないパターンかもしれないな。


「だから、今のうちの顔は売っておいた方がいい。無名よりも有名である方が、下層へ行くにはずっと有利だからな」


 ソロンさんの口調には、何か寂しさのようなものが混じっていた。

 きっと何かまずい経験をしたのだろう。

 僕に失敗するな、と言ってくれているのだ。


「ありがとうございます、ソロンさん」


「どうってことねぇよ。ほら、手ぇ振ってやれ!」


 言われた通り、僕は手を振る。

 すると、沿道の人々は手を振り返してくれた。

 子どもはキャッキャッと喜びながら、僕たちに付いてくる。


 幸せそうな笑顔だった。


「それにしてもみんなヽヽヽエルフですね」


「そりゃそうだ。ここはカリビヤ神王国の神都だぞ」


 ソロンと僕は前を向く。

 そこにあったのは、粘土を焼いて固めて作る――珍しい瓦屋根の宮廷だった。

 高さこそ、僕が前に勤めていた宮廷と同じぐらい大きな建物だ。

 だが、その広さは軽く見積もっても4倍以上はあるだろう。


 高い垣に覆われて、街の中にさらに街があるような感じだった。


 圧巻なのは、街の周りを覆う巨大な樹木だ。

 その1本1本が、千年の年月をうかがわせる。

 立派な幹だ。

 大きな宮廷も、神の都と呼ばれる街も、第2層に広がる広大な森の一部に過ぎないのである。


 だが、僕が1番を驚かせたのは、空があることだろう。

 僕たちは地下に向かって下りてきたはずだ。

 なのに、今青い空が広がり、神樹の木漏れ日からは太陽が見える。


 実に、不思議な光景だった。


 そう。ここは第2層『森宮しんぐう』テネグ。

 名の通り、神樹と呼ばれる森に囲まれた層だ。

 そして、その人口の半分以上が、エルフと言われている。


 ――のだが……。


「あれ?」


 僕は首を傾げた。


「確かテネグにはエルフと獣人が共存しているって聞きましたけど」


 よく目を凝らして見たが、神都の往来にいるのはエルフばかりだ。

 たまに見つけても、僕のような人族か、他種族ばかりだ。


 テネグの人口はエルフ、さらに獣人族に二分されていることは、貴族の初等教育でも習う一般教養だ。

 なのに、獣人族の姿が見えないって、どういうことだろうか。


「第二層が長らく内戦状況にあったのは知ってるな?」


「はい。エルフと獣人の利権争いですよね」


 エルフと獣人は、初期の頃は非常に良好な関係だった。

 だが、ダンジョンの開発が進み、各層との経済的な交流が盛んになる中、利益を独占しようとする者たちが現れる。


 『森宮』はテネグにはたくさんの資源がある。

 森ではぐくまれる獲物や木の実は、他の層と比べても豊かで、さらにダンジョンの珍しい植生は、魔導具や薬の材料となるためかなり重宝されている。


 神樹と崇められている木も、特定の職人だけに伐採を許されており、数の制限があるため非常に高値で売られ、貴族たちにも人気だ。


 第2層は、豊富な森林資源を背景にして発展してきたのである。


 そして、それを独占しようと動いたのは、獣人たちだった。

 エルフは共生を訴えたが、聞く耳を持たず、長い戦争状態に陥り、僕は生まれてから程なくしたぐらいに、内戦は終結したという。


 結果的にエルフが勝利し、再び獣人と共生を始めたと聞いていたけど……。


「聞いている情報とは違うみたいですね」


「ああ……。冠位十二階グランド・トゥエルブっていうクソみたいな身分制度のおかげでな」


冠位十二階グランド・トゥエルブ? 爵位のようなものですか?」


「それよりも、もっとひどい。その点じゃ、お前さんの相棒の方がよく知ってるんじゃないのか?」


 ソロンはアストリアの方を向く。


 あ。そういえば、アストリアはエルフだった。

 地層世界エドマンジュで生まれるエルフの9割が、ここ第2層で生まれる。

 第2層は、アストリアの生まれ故郷の可能性が高いのだ。


 そのアストリアは少し浮かぬ顔だった。

 沿道では多くの声援を送られているのに、1人俯いて歩いている。

 第2層のことを聞いてみたいけど、ちょっと尋ねにくい雰囲気だな。


 すると、僕は沿道の奥の路地に子どもがいるのが見えた。

 小汚いローブを身に纏っている。

 目深にフードを被っていたが、何か不自然なふくらみがあり、フードの下からは尻尾のようなものが見えた。


 おそらく獣人の子どもだろう。


 僕と目が合うと、「あっ」と口を開けて、暗い路地裏に消えてしまった。


「可哀想にな。獣人の中には、この街に入ることさえ許されない奴もいるらしい。一説によれば、内戦の引き金を最初に引いたのは、エルフだというものがいる。真偽は定かじゃねぇが、戦争をして敗者にだけはなりたくないもんだな」


 ソロンはため息を吐き、話を結んだ。


 僕は話を聞きながら、先ほどの獣人の子どものことを思い出す。


 印象的な目だった。

 よそ者を警戒するような鋭利な瞳。

 その一方で、何か悲壮感を、僕は感じた。


 助けて……。


 そう請われているような気がしたんだ。


「どうした、ユーリ?」


「なんでもありません」


「そろそろギルドに付くぞ。このデカいオークを見せて、ここのギルドの連中の度肝を抜かせてやろうぜ」


 ソロンさんは「にしし」と悪戯に成功した子どものように笑うのだった。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


いよいよ★も300手前まできました!

引き続き更新頑張るので、是非★での評価をお願いします。

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