第61話 冒険者凱旋
昨日2話投稿しております。
お間違えのないようお願いします。
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沿道に人だかりができていた。
ダンジョンから帰ってきた冒険者に驚き、声援が送られる。
こうして街の人が冒険者の帰還を歓迎するのは、稀の事だという。
「はは! こんなこと初めてだぜ」
「みんな、俺たちを見てる」
「英雄の凱旋だな、坊主」
冒険者の1人ソロンさんが肩を叩く。
ムスタリフ王国出身の人族で、C級のランクを持つ冒険者だ。
戦術的にはアストリアが指揮をしていたけど、数多くの冒険者を取りまとめていたのは、この人だ。
冒険者は手を振ったり、ガッツポーズを取ったりしている。
綺麗な女性には、投げキッスを送る人もいた。
だが、沿道の観衆は誰も僕たちを見ていない。
冒険者を侮っているというわけではないだろう。
しかし、その視線の先が僕たち冒険者にいかないのは、致し方ないことだった。
何せ通りを練り歩く僕たち冒険者の後ろには、ムスタリフ王国の王城の尖塔よりも大きなオークがいたからだ。
「すげぇ!」
「でげぇ!」
「あんな大きなオークを仕留めたのか」
「うちの兵士でも仕留められるのか?」
「いや……――――」
オークを見た観衆から声が聞こえる。
皆が息を呑み、その大きさに瞠目していた。
「うわっ!!」
突然僕は持ち上げられる。
やったのは、ソロンだ。
軽々と僕を持ち上げ、肩車する。
「ちょ! ソロンさん!!」
抗議するが、ソロンさんはニヤけるばかりだ。
「おーい! 皆の衆! このオークをやったのは、こいつだ!!」
大声を張り上げる。
すると、再び歓声が沸き上がった。
「え? あんなに若い冒険者が?」
「まだ子どもといってもいいんじゃ……」
「ホントか? 全然そうは見えないけど」
疑問の声もちらほら……。
それに対して、ソロンさんがアンサーした。
「嘘じゃねぇよ。こんなこと嘘でも言わねぇよ」
「そうだ!」
「やったのはこの坊主だぞ」
「嘘は言ってねぇ、マジだ」
他の冒険者たちも口々に言った。
「ソロンさん……。みなさんも……。あれは、僕1人じゃ……」
「そりゃそうだ」
ソロンさんは僕にこっそり囁く。
「え?」
「だが、ユーリ。お前、第10層に行きたいんだろ?」
「は、はい」
「間違いねぇ。お前なら行けるさ。お前はもっと強くなる」
「だからって、手柄を……」
「ばーか。いつか第10層に行く冒険者様に恩を売っておくと、先々においておいしい想いができるだろ」
ソロンさんはニヤリと笑う。
他の冒険者たちも同じ魂胆らしい。
歯を見せて、ニヒヒヒと子どものように笑っていた。
これはもしかしたら、またお酒を奢らなければならないパターンかもしれないな。
「だから、今のうちの顔は売っておいた方がいい。無名よりも有名である方が、下層へ行くにはずっと有利だからな」
ソロンさんの口調には、何か寂しさのようなものが混じっていた。
きっと何かまずい経験をしたのだろう。
僕に失敗するな、と言ってくれているのだ。
「ありがとうございます、ソロンさん」
「どうってことねぇよ。ほら、手ぇ振ってやれ!」
言われた通り、僕は手を振る。
すると、沿道の人々は手を振り返してくれた。
子どもはキャッキャッと喜びながら、僕たちに付いてくる。
幸せそうな笑顔だった。
「それにしても
「そりゃそうだ。ここはカリビヤ神王国の神都だぞ」
ソロンと僕は前を向く。
そこにあったのは、粘土を焼いて固めて作る――珍しい瓦屋根の宮廷だった。
高さこそ、僕が前に勤めていた宮廷と同じぐらい大きな建物だ。
だが、その広さは軽く見積もっても4倍以上はあるだろう。
高い垣に覆われて、街の中にさらに街があるような感じだった。
圧巻なのは、街の周りを覆う巨大な樹木だ。
その1本1本が、千年の年月をうかがわせる。
立派な幹だ。
大きな宮廷も、神の都と呼ばれる街も、第2層に広がる広大な森の一部に過ぎないのである。
だが、僕が1番を驚かせたのは、空があることだろう。
僕たちは地下に向かって下りてきたはずだ。
なのに、今青い空が広がり、神樹の木漏れ日からは太陽が見える。
実に、不思議な光景だった。
そう。ここは第2層『
名の通り、神樹と呼ばれる森に囲まれた層だ。
そして、その人口の半分以上が、エルフと言われている。
――のだが……。
「あれ?」
僕は首を傾げた。
「確かテネグにはエルフと獣人が共存しているって聞きましたけど」
よく目を凝らして見たが、神都の往来にいるのはエルフばかりだ。
たまに見つけても、僕のような人族か、他種族ばかりだ。
テネグの人口はエルフ、さらに獣人族に二分されていることは、貴族の初等教育でも習う一般教養だ。
なのに、獣人族の姿が見えないって、どういうことだろうか。
「第二層が長らく内戦状況にあったのは知ってるな?」
「はい。エルフと獣人の利権争いですよね」
エルフと獣人は、初期の頃は非常に良好な関係だった。
だが、ダンジョンの開発が進み、各層との経済的な交流が盛んになる中、利益を独占しようとする者たちが現れる。
『森宮』はテネグにはたくさんの資源がある。
森ではぐくまれる獲物や木の実は、他の層と比べても豊かで、さらにダンジョンの珍しい植生は、魔導具や薬の材料となるためかなり重宝されている。
神樹と崇められている木も、特定の職人だけに伐採を許されており、数の制限があるため非常に高値で売られ、貴族たちにも人気だ。
第2層は、豊富な森林資源を背景にして発展してきたのである。
そして、それを独占しようと動いたのは、獣人たちだった。
エルフは共生を訴えたが、聞く耳を持たず、長い戦争状態に陥り、僕は生まれてから程なくしたぐらいに、内戦は終結したという。
結果的にエルフが勝利し、再び獣人と共生を始めたと聞いていたけど……。
「聞いている情報とは違うみたいですね」
「ああ……。
「
「それよりも、もっとひどい。その点じゃ、お前さんの相棒の方がよく知ってるんじゃないのか?」
ソロンはアストリアの方を向く。
あ。そういえば、アストリアはエルフだった。
地層世界エドマンジュで生まれるエルフの9割が、ここ第2層で生まれる。
第2層は、アストリアの生まれ故郷の可能性が高いのだ。
そのアストリアは少し浮かぬ顔だった。
沿道では多くの声援を送られているのに、1人俯いて歩いている。
第2層のことを聞いてみたいけど、ちょっと尋ねにくい雰囲気だな。
すると、僕は沿道の奥の路地に子どもがいるのが見えた。
小汚いローブを身に纏っている。
目深にフードを被っていたが、何か不自然なふくらみがあり、フードの下からは尻尾のようなものが見えた。
おそらく獣人の子どもだろう。
僕と目が合うと、「あっ」と口を開けて、暗い路地裏に消えてしまった。
「可哀想にな。獣人の中には、この街に入ることさえ許されない奴もいるらしい。一説によれば、内戦の引き金を最初に引いたのは、エルフだというものがいる。真偽は定かじゃねぇが、戦争をして敗者にだけはなりたくないもんだな」
ソロンはため息を吐き、話を結んだ。
僕は話を聞きながら、先ほどの獣人の子どものことを思い出す。
印象的な目だった。
よそ者を警戒するような鋭利な瞳。
その一方で、何か悲壮感を、僕は感じた。
助けて……。
そう請われているような気がしたんだ。
「どうした、ユーリ?」
「なんでもありません」
「そろそろギルドに付くぞ。このデカいオークを見せて、ここのギルドの連中の度肝を抜かせてやろうぜ」
ソロンさんは「にしし」と悪戯に成功した子どものように笑うのだった。
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いよいよ★も300手前まできました!
引き続き更新頑張るので、是非★での評価をお願いします。
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