第50話 ヒロインたち

あけましておめでとうございます。

2021年もよろしくお願いします。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


 ドラヴァンを縄にかけた後――。

 正直、僕の記憶はここから途切れがちだった。

 元内大臣となったドラヴァンを見送った後、僕は気を失ったのだ。


 安心したというよりは、すでに限界だった。

 すとんと意識を失った僕は、泥のように眠る。

 気が付いた時には、僕は宿のベッドで寝ていた。


「宿に帰ってきたんだ……」


 陽光が窓から差し込んでいる。

 朝なのか、それとも昼なのか判然としない。

 そもそもまだ僕の意識は微睡みの中にあって、瞼を閉じてしまえば、また深い眠りにつけそうだった。


 やや状況がわからない中、陽光を受けて、見慣れた銀髪を見えた。

 同時に規則正しい寝息が聞こえてくる。

 アストリアだ。

 もしかして、ずっと僕を看病してくれていたのだろうか。

 すごいな……。

 アストリアだって、ギリギリだったはずだ。


 それでも、僕よりも疲弊していない。

 これって体力の差なのだろうか。

 だとしたら、僕はまだまだだな。


「それにしても綺麗だな……」


 雨滴で編んだような銀髪を見る。

 芸術家が使うような特徴的な白の肌。

 そして寝顔が、とても可愛かった。


 S級冒険者とは思えない。

 天使の寝顔だ。


 ふと触れたくなる。

 ドラヴァンの屋敷でつい触ってしまったけど、また触りたくなる。

 もっと彼女に触りたい。

 そう思う僕は、不純なのだろうか。


「ん……。んん…………」


 だが、僕の野望は潰える。

 その前に、アストリアが起きてしまった。


「あ! ユーリ! 起きたのか!!」


「おはよ――――」


 するとアストリアは僕を抱きしめた。

 ふわりと彼女の匂いがする。

 柔らかな身体の感触が、僕の首と頭越しに伝わってきた。


 図らずも、彼女の方から僕に触れてきたのだ。


「良かった! 気が付いて、本当に良かった」


 アストリアはまた滲んだ涙を払う。


 その表情を見て、僕は思わず肩を揺らして笑ってしまった。


「な、なんだ? その反応は? 私は心配して」


「だって……。アストリア、僕の前だとなんか涙もろいというか、泣き虫になるので……。ドラヴァンの屋敷では、あれほど凜々しく、怒っていたのに」


「な! べ、別に私は泣いてなど……。ちょ、ちょっとぐらいはいいだろ」


 いや、ちょっとどころじゃない。

 少なくとも僕は彼女が泣いているのを、2回や3回では済まされないほど見てる。

 どれも印象的な思い出だ。


 泣いていても、綺麗と思ってしまうほどなのだから。


「まだ笑ってる」


「すみません。『円卓アヴァロン』のアストリア・グーデルレインの泣き顔は、なかなか見られるものなので」


「むぅ……」


 さすがに言い過ぎたかな。

 ついにアストリアは頬を膨らませて、拗ねてしまった。


「それが看病していた人間への労いの言葉なのか」


「すみません。でも、寝ずに看病を……?」


「そうだ――――と言いたいところだが、私も昨日目覚めたばかりだ。ユーリ、君は3日も寝ていたんだぞ」


 3日か。そんなに……。


「えっと……。じゃあ、他に誰が……」


「決まっているだろ」


 そう言って、アストリアは僕の胸を指差した。

 そういや、なんか微妙に重い。

 寝過ぎた後の倦怠感とも思ったけど、何か柔らかな石でも置かれているような感触がある。


 僕は布団の中に手を入れた。

 出てきたのは、妹のフリルだ。

 スースーと寝息を立てて、口元には涎を垂らしている。


「そっか。フリルも頑張ってくれたんだね」


 いつもなら、チパパパと部屋の向こうから飛びだしてくる我が妹は、気持ち良さそうに「にぃにぃ」と寝言を呟いていた。


「随分と心配していたぞ、フリルは」


「そうか。後でいっぱい頭を撫でてやらないと」


「なら母さんにもお願いしようかしら」


 母さんが部屋の中に入ってくる。

 手に持った皿の上には、切った林檎が置かれていた。


「ありがとう、母さん」


「それと、エイリナ姫もね」


 すると、エイリナ姫が入ってくる。

 なんかすごく顔を赤くしていた。


「べ、別にあたしは、その……。時間が…………。ちょっと顔を出しただけだし」


「公務の合間に来てくれたんですよね、エイリナ姫」


「ちょ! マレーナ!」


「エイリナ姫もありがとうございます」


「別にいいわよ、お礼なんて。どっちかと言えば、こっちが感謝しなきゃいけないんだから。あ、それと、他にもあんたに会いたがっていた人がいたから連れてきたわよ」


「やっと再会できましたね」


 ぬっと大きなシルエットが現れる。

 それは翼だった。

 真っ白な羽根を見て、僕とアストリアは驚く。


「「ルナ!!」」


「はい。ダンジョンではお世話になりました。こうしてお目にかかることができて、光栄です」


 ルナは天翼族式の挨拶を交わした。


「まさか、ルナもエイリナ姫の知り合いなんですか?」


「知り合いっていうか。ルナミルはね。天翼族の姫なのよ」


「「姫ッッッッッッ!!」」


 さすがに大きな声が出てしまう。

 横のアストリアも驚いていた。

 第7層を訪れたこともあるアストリアも、初対面だったのだろう。


 そのアストリアは慌てて膝を突く。


「高貴なお方だとは思っていましたが、まさか天翼族の姫とは知りませんでした。数々のご無礼をお許し下さい、ルナミル様」


 頭を下げる。


「どうぞ頭を上げて下さい、アストリア。お忍びとはいえ、わたくしが何も言わなかったのが悪いのですから」


「しかし……」


「それに言ったではありませんか、わたくしのことはルナと……。どうぞ気を楽になさって下さい」


「……わかりました、ルナ。これからもよろしく頼む」


 ようやくアストリアはホッと息を吐いた。


「私も膝を突いた方がいいかしら?」


 と言ったのは母さんだ。

 だが、ルナは頭を振る。


「いえ。結構ですよ、ユーリのお母様。わたくしのお友達のお母様なのですから、大事にしなければ」


「ほほほほ……。ありがと。ユーリ、聞いた? 天翼族のお姫様に、私「お母様」なんて言われたのよ。あ……大丈夫、ユーリ。私は種族で差別したりしないから。でも、本命はきちんと決めておくのよ。まあ、あなたの場合は問題なさそうだけど」


 母さんはチラリとアストリアの方を見る。


「か、母さん! もう黙っててよ」


 僕は少し悲鳴じみた声を上げる。


 全くもう……。

 この状況で、普段通りって。

 うちの母さんの心臓は、鋼でできているんだろうか。

 こっちは友達の正体を知って、心臓がバクバクなのに。


「ユーリ、意識が戻ったところで悪いんだけど」


「わかってます。宮廷のことですね」


「ええ……。まずは、お父様に会ってもらうわ」


「はい…………え? 国王陛下に……」


 いや、ちょっと待って。

 その前に封印の方が先じゃ。


「あんたに会ってみたいそうよ。事の真偽を自分の目で確かめたいようね」


 そうして、僕は再び宮廷へと参内することになったのだった。



~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


正月休みなど、作家にはないのだった……。

★というお年玉をいただけるように、更新頑張りますw

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