第49話 S級の怒り
本年最後の更新となります。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
そして年末の土壇場で、初のレビューコメントをいただきました。
無茶苦茶テンションが上がりました!!
重ねて感謝申し上げます。
2020年の最後まで楽しんでいただければ幸いです。
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
僕は裏帳簿を掲げつつ、ドラヴァンを睨む。
内大臣はまるで幽霊でも見たかのように、僕に向かって口をあんぐりと開けた後、こめかみに青筋を浮かべた。
「ゆ、ゆ、ユーリ・キーデンスゥゥゥゥゥゥウウウウウウ!!」
ドラヴァンの叫びは怨嗟とともに吐き出される。
目が血走っていった。
そこだけ見ると、戦ったゲヴァルドに似ている。
やはり2人は親子だ。
顔も性格も、僕に向ける負の感情もそっくりだった。
「貴様! いつの間に部屋に!!」
「最初からいましたよ。無礼は承知でそこの窓から侵入させてもらいましたけど」
「窓には鍵をかけていたはず」
「僕の仕事をお忘れですか?」
「犯罪者め。とうとうこそ泥にまで落ちたか」
「あなたに言われたくありません。この裏帳簿ですが、精査させていただきました。あなたが息子さんに罪を着せて殺そうと雇った暗殺者のことも書かれてますね」
「ひどい親だな」
アストリアは呆れた声を上げる。
ギルドにやってきたのは、ドラヴァンが雇った暗殺者だろう。
ゲヴァルドを追いかけて、魔王の力の一部を得た彼に殺され、さらに傀儡にされた。
あの騒動の真相は、そんなところだろう。
「いつ! いつ!? 裏帳簿を抜いた! 私は確かにこの鞄に! 1番始めに入れたんだぞ!!」
ドラヴァンは叫ぶ。
まだ僕が持っている裏帳簿が、先ほどエイリナ姫が見せたように偽物だと疑っているのだろう。
事ここに来ても、白を切り通すつもりらしい。
内大臣の腹の中は、きっとあのゲヴァルドの最後がそうであったように、真っ黒であることは間違いない。
「簡単な事です。あなたの鞄から抜きました」
「だから、いつだと訊いている!? 私はずっとこの前で作業していた。裏帳簿が抜かれたなら、すぐにわかるはずだ!」
「ええ……。あなたが鞄の前に立っていたのは知ってますよ。それも見ていましたから」
「どういうことだ?」
ドラヴァンは頭を抱える。
僕は肩を竦めた。
「僕は窓から侵入して、あなたに気付かれないように背後から近づいて、【
「【
「あんた、ずっとそこで固まっていたのよ、ドラヴァン」
エイリナ姫は勝利を確信したボードゲームの達人のように笑う。
「嘘だ! そんなの信じん! 断じて信じぬぞ! お前ら、そうやって私に何かを吐かせようと企てているのではないか! そもそもお前が入ってくる気配なんて…………ハッ!」
ドラヴァンは息を呑む。
目を大きく広げ、一方で瞳孔が狭まっていく。
ギョッと何か固いパンでも詰まらせたような顔をして、何かに気付いた。
「あの時か…………」
その表情から僕は察する。
先ほどカーテンが動いたことを思い出してるはずだ。
「大臣、僕がここにいた決定的な証拠をご覧に入れましょう」
そして僕は厚手のカーテンを引いた。
それは昼間の強烈な陽光ではない。
現れたのは、赤い夕焼け空と温かみのある橙色の陽光であった。
空には2羽の渡り鳥が翼を広げて、飛んでいる。
昼間の騒動が嘘のように、王都は静まり返っていた。
「そんな……」
ドラヴァンはついにくずおれる。
両膝を付き、背後の壁にもたれるようにして、天井を仰いだ。
「あんたが固まっていた間、この屋敷を色々と調べさせてもらったわ。宮廷に申請されていない設計が数多くあるようね。他にも脱税と思われる蓄えも見つかってる。ああ。その鞄の中身ももらうわよ」
すると、横合いから衛兵が出てきて、ドラヴァンが詰め込んでいた鞄を持っていく。
「やめろ! それは――――それは、私のものだ!」
「違うわ! これは国民の血税によって培われたものよ。あんたは、その無償提供された餌を食べて、ブクブク太っていただけ」
「私が何のリスクもなしに、その金と地位を勝ち取ったとでも思っているのか? 私だってな。様々な努力をして、時に泥をすすることも厭わず必死になって這い上がってきたのだ! お前ら、無能共は何故私の努力を知ろうと――――!」
ガンッッッッッ!!
ドラヴァンを吹っ飛ぶ。
叩いたのは、アストリアだ。
剣を鞘に収めたままだったから良かったものの、真剣ならおそらくドラヴァンの首が飛んでいただろう。
僕はちょっと驚く。
戦闘では冷静に判断を下す彼女が、いつになく顔を顰めて怒っていたからだ。
「お前、殴ったな!! 国の大臣を!!」
「黙れ!! 下郎!!」
アストリアはドラヴァンの胸ぐらを掴む。
「自分の努力を認めろというなら、何故人の努力を認められないんだ、お前は!?」
「アストリア……」
「ユーリと私は、つい先日出会ったと言ってもいい間柄だ。そんな私でもわかる。彼は天才だ。そして努力家だ!」
アストリアは言い切る。
ドラヴァンを憎々しげに睨んだまま。
「鍵魔法をあそこまで昇華したのは、決して天才などという安い言葉ではすまされない。彼なりに努力し、魔王封印という大事を維持するために生まれた方法だ。なのに、貴様はユーリが何をしているか知りもしないで、宮廷から追放した!」
「ひぃ!!」
語気を荒らげるアストリアを見て、ドラヴァンは悲鳴を上げる。
「家族がいて、彼もまた路頭に迷っていたのに、ユーリは私を助けてくれた。だが、お前はどうだ。国と王族を愚弄し、家族さえ殺そうとした。それでも十分罪深いというのに、自分が危なくなれば国を捨てて逃げようとしている。そんな男の何を認めろというのだ!」
お前こそ、自分の罪を認めろ!!
「せめて罪を認めて、後世に悪行を残すな。それが、生き残ったお前の一族のせめて出来ることだ」
アストリアはついにドラヴァンを突き放す。
だが、ドラヴァンの大口が再び開くことはなかった。
糸が切れた操り人形のように、手足を投げ出し、ピクリとも動かなくなる。
「ユーリ、あんたは何も言わなくていいの?」
アストリアとドラヴァンのやりとりを、少し呆然と見ていた僕に、エイリナ姫は声をかけてくれた。
僕は首を振る。
「別になんでもいいのよ。1発殴るぐらいなら目を瞑ってあげるけど」
「いいですよ。言いたいことは、全部アストリアが言ってくれましたから」
「す、すまん。ついカッとなって……。その――――」
さっきまで鬼の形相でドアヴァンに迫っていたアストリアは、急にしおらしくなる。
先ほどとは別の意味で、顔を赤くし、僕に向かって項垂れた。
僕に向けられた銀髪を見て、僕は手を伸ばす。
その頭をポンポンと撫でた。
「ありがとう、アストリア。僕のために怒ってくれて」
「ユーリ……」
さらに顔を赤くする。
困ってるような戸惑っているような表情を浮かべていた。
それもまた絶妙に可愛いと思ってしまう僕は、ちょっとおかしいのだろうか。
「はいはい。ごちそうさま。全く仲がよろしいようで、大変結構だわ」
エイリナ姫は僕とアストリアの間に入る。
そしてジト目で僕を睨む。
何か黄色の瞳に「嫉み」って文字が見えたような気がするけど、気のせいだよね。
やがてエイリナ姫は、僕たちの前を横切って、ドラヴァンの前に出る。
「ドラヴァン・フォーン・ディケイラ……。国家反逆罪、および主税法違反、横領罪その他13の罪により、逮捕する」
ついにドラヴァンに縄がかけられる。
宮廷に巣くった悪徳大臣を見送る者はいない。
ただ背中を向けた赤い夕焼けだけが、屋敷を出て行くドラヴァンを見送るのみであった。
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次回の更新は来年になりますw
ここまでお付き合いいただきありがとうございます。
カクヨムコン6のまずは読者選考に通過を目指して、
引き続き更新して参りますので、
応援よろしくお願いします!
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