第44話 鍵師 vs 鍵師
「全身――――」
【
僕は自分の身体を【
ギィンギィンギィンギィンギィンギィンギィンギィンギィンギィン……。
けたたましい音が鳴り響いた。
迫ってきた剣先を、僕の身体はすべて弾く。
だが、ホブゴブリンの時と同様に、その圧力は凄まじい。
いや、それ以上だ。
「どういうことだ? ユーリの鍵魔法を破るなんて」
「鍵魔法を使ったのよ」
エイリナ姫はお腹の傷を、治癒魔法で治しつつ、立ち上がった。
その足下には先ほど助けた少女が隠れている。
「可能なのか?」
「ユーリがそれをやっているのだから、そうなんでしょうね。ゲヴァルドのヤツ……。才能がほしいっていいながら、鍵師としての才能はユーリ並みにあったかもね。普通鍵魔法って、宝箱や扉に鍵をかけるぐらいなのよ。ユーリみたいな使い方は例外中の例外。ユーリの才能があってやれることよ。それを鍵魔法で破るなんて、はっきり言ってあり得ないわ!!」
姫の悲鳴じみた力説に、僕は同意した。
だから、少しもったいない。
ゲヴァルドに僕の仕事をきちんと伝えることができたら、こんなことにはならなかったはずだ。
しかもゲヴァルドは全身【
声を出せないのに、呪唱したのだ。
おそらく反射的に鍵魔法で、その効果を【
「どうした!! ユーリ!! 何も出来ないのか!!!!」
黒い剣が雨あられと降ってくる。
僕はそれを耐えきるのが精一杯だ。
だが、ゲヴァルド自身にも決め手はない。
全身【
「――って、お前も思ってるよな」
開いた口の中で糸を引きながら、ゲヴァルドは笑った。
「全身――――」
【
僕の鍵魔法が、強制的に【
その瞬間、黒い剣が僕に襲いかかる。
そっちがそうなら――――。
「黒い剣――――」
【
刃が僕に刺さる――かに見えた。
違う。刃は刺さっていない。
僕に当たった瞬間、パンと弾けた。
【
さすがのゲヴァルドも驚嘆する。
「へぇえぇえぇ!! 器用なもんだな! さすが鍵師の先輩!! 褒めてやるよ!!」
「どうして! どうして、そこまで才能があって、あなたはそこまで歪めるんですか? あなたがその気なら、世界を救うことだってできるはず! 泣いてる人に、手を差し伸べることだってできたはずです!!」
「うっっっっっせぇえ!! 誰もオレの才能を見つけられなかったんだ。そんな腐った世界、壊してなんぼだろうが!!!!」
ゲヴァルドは激昂する。
すると、さらに浸食が始まった。
周辺の建物や通りは、黒く染まる。
王都が闇に呑まれ、暗闇の中へと沈んでいった。
まるで大きな怪物に食われていっているようだ。
「これは――――」
建物が闇に呑まれていく。
それは人も例外ではない。
気が付けば、僕の足首は闇に浸かっていた。
「アストリア! 避難して下さい。エイリナ姫とその子どもも一緒に!」
「避難って……」
「ともかく高いところへ。このまま王都は全滅です」
「君はどうするんだ?」
「僕は鍵師です。事態を収拾します……」
「収拾って……。もういい! ユーリ! これはもう鍵師云々の話じゃない。君も逃げるんだ」
「アストリア……」
僕はようやく彼女の方を振り返る。
今にも泣き出しそうな顔をしていた。
久しぶりだな。
アストリアのあんな顔を見るのは……。
アストリアはS級冒険者だ。
でも、すべてにおいて強いわけじゃない。
僕は知っている。
アストリアが泣いているところを……。
だから、もう……。
彼女をもう泣かせないためにも、僕は戦う。
なんの後腐れもなく、アストリアとともに、ダンジョンの深奥を目指すために。
「大丈夫です。僕を信じて下さい」
僕は笑ってみせた。
アストリアは潤んだ瞳を擦る。
少し鼻をすすった後、僕の相棒は言った。
「わかった……。君を信じる……」
僕を送り出す。
前を向くと、ゲヴァルドは笑っていた。
天地に笑声を響かせ、恍惚とした瞳を空に向けている。
どうやら気付いていないらしい。
すでにもはや自分の原形さえとどめていないことを。
闇に呑まれたのは、王都だけではない。
ゲヴァルド・フォーン・ディケイラもその1人だった。
「すげぇ! すげぇよ。コノちから……すげぇ……ぇぇ…………え゛え゛…………」
ゲヴァルドの意識が消えていく。
あの傲慢な男の気配はもうない。
そこにあったのは、単なる黒い塊だった。
アストリアの言う通りだ。
ここまで大規模に汚染されれば、これを取り払う方法はない。
聖霊の大出力魔法でも難しいだろう。
でも、問題ない。
後ろにはアストリアがいる。
守るべき人がいる。
なら、僕は――――。
無敵だ……。
その時、僕は鍵魔法をかけた。
【
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