第43話 鍵師の業務

更新が遅くなってすみません。

そして昨日、最高PV数を更新しました。

読んでいただいた方に感謝申し上げます。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


 ああ……。そうだ。

 やっと言えた。

 いや、やっとわかったんだ。


 僕がアストリアに付いていく理由が……。


 僕は僕が好きになった人の側にいたいんだってことに。


 多分僕の選択は、ある人たちから見れば間違っているのだろう。

 これが正解じゃないこともわかっている。

 でも、もう止められそうにない。


 理性があるなら、僕はこの場に立っていたりしないのだから……。


「ユーリ……」


 アストリアはびっくりしていた。

 大きく青い瞳を僕に向けている。

 呆れているのか、それとも言葉もないのか。

 少なくとも、赤い顔をしていないところを見ると、怒ってはいないようだ。


 えっと、と――――。


 必死に言葉を探している。

 そうやって慌てふためくアストリアは、戦っている時とはまるで別人で、女の子らしい。

 それがまた一段と僕には愛おしく見えた。


「今は、僕の言葉を覚えてくれているだけでいいですから。あとは、ゆっくりしていて下さい」


 僕はアストリアに背中を向ける。

 ゲヴァルドに立ちはだかると、彼女はついに叫ぶ。


「ユーリ! 君は、まさか1人で戦うつもりか?」


「え? いけませんか?」


「いけませんかって……。君――――」


「ご心配なく……。これが――――」



 宮廷鍵師の日常業務みたいなものですから……。



「え?」


 アストリアは息を呑む。


 僕はアストリアに鍵魔法をかける。

 ダンジョンで天翼族のルナにかけた方法で、その痛みを【開けリリース】した。


「すみません。エイリナ姫と、一般人の避難をお願いできますか?」


「ちょ……! 待て! ユーリ!!」


「あと、エイリナ姫に言っておいて下さい。『すみません』って」


「ば、バカ!! まるで遺言みたいじゃないか! そう言うのは、自分で言え!」


 アストリアは叫ぶ。


 その時だった。

 怨讐めいた声が響いたのは。


「ユーリ・キーデンスゥゥゥゥウウウウウウウウ!!」


 黒い塊に覆われたゲヴァルドは叫ぶ。

 その目は血走り、いやもはや人の瞳ですらない。

 さらに黒い塊が膨らんでいく。

 樹木のように急速に根を張り、周囲を侵食していった。


 全体が黒に覆われ、昼間だというのに夜のように黒くなる。


 おそらくゲヴァルドが発する魔力の影響だろう。


「お願いしますね」


「ちょっ……! ユーリ!!」


 僕はゲヴァルドの方へと歩いて行く。

 最初出会った頃に比べると、随分と変異したゲヴァルドの前に立ちはだかった。


「久しぶりですね、ゲヴァルド」


「ゲヴァルド様だろうが! てめぇが! てめぇのせいでオレは、家臣に陰口をたたかれ、姫勇者にはなじられ、そして親父にも殺されそうになった!」


 僕はピクリと眉を顰める。

 だが、極力動揺を示さず、僕は反論した。


「だとしても、僕は謝りませんよ。引き継ぎを拒否したのは、あなたとあなたの父親であるドラヴァン大臣です。あなたに少しでも僕の仕事のことを話せていれば、こんなことにはならなかった」


 少なくとも、僕は僕の仕事の大変さを知ることができただろう。


 こんな悲劇にはならなかったはずである。


「居直りやがって!!」


「どうとでも言って下さい。あなたと議論するために、来たんじゃない。僕の大切な人を守りたくてやってきたんだ!!」


「ふざけるな! ここは戦場だぞ!! そんなに恋人ごっこがしたいなら、まとめて殺してやるから、あの世で乳繰り合ってろ!!」


 ゲヴァルドが叫ぶ。


 地面や建物を浸食した黒い根から、黒い剣が伸びる。

 その切っ先は僕の方に向かって、蛇行しながら迫ってきた。

 数えるだけ無駄だ。

 ざっと見ても、1000はあるだろう。


 その1本1本に、ゲヴァルドの怨念を感じる。

 だが、冷たい殺意を感じても、僕が退くことはない。

 何故なら、僕の後ろにはアストリアがいる。


 そして、僕には鍵魔法がある。


 アストリアが、家族が、ルナが、エイリナ姫が認めてくれた才能がある――――。


「全身――――」



 【閉めろロック】!!



 千の刃が僕の目の前で止まった。

 その主であるゲヴァルドも口を開けたまま固まっている。


 しん……。


 あれほど騒がしかった戦場が静まり返る。

 まるで戦いそのものが夢であるかのように。


 その時、エイリナ姫が目を開ける。

 僕の姿を見つめると、「ゆ、ユーリ?」とぼんやりと呟いた。

 アストリアもまた呆然としていた。


「すごい……。一部とはいえ、魔王の力を帯びたゲヴァルドを止めるなんて。鍵魔法――いや、ユーリが凄いのか?」


 僕を讃えた。


 だが――――。



 【開けリリース】!



 その呪唱は僕ではない。

 だが、確かに誰かが鍵魔法を使った。


 直後、黒い剣が動き出す。

 僕の方に再び迫った。


 その時、声が聞こえる。

 ゲヴァルドの声だった。


「鍵魔法を使えるのは、自分だけと思うなよ」



~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


鍵魔法 vs 鍵魔法、開幕!

勝敗はどちらの手に?


本日はこれにて。

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